第255話 事を運ぶ算段
「さて、反乱の疑いを晴らすのは簡単なのでこれは置いておきましょう。」
「簡単、ですか。」
オユキの言葉に首をかしげるメイに、苦笑いと共にオユキは告げる。
「ええ、メイ様。神の名のもとに忠誠を誓う。それだけで疑いを差し挟む余地は無くなります。ただ、そこにはリース伯爵家の思惑、マリーア公爵としての思惑、色々あるでしょう。一度諮られるのが宜しいかと。」
「当家だけに飽き足らず、公爵家迄を疑いますか。」
「このあたりは私よりもミズキリの領分ですので。」
そう険のある声で問いかけて来るメイを流し、ミズキリに話を振る。
「いいですか。この場合重要なのは王家が忠誠に対して、返せるものがあるのか、それに尽きます。」
「しかし。」
「言いたいことは凡そ想像がつきますが、まずは聞いていただきたい。
つまるところ、今後の各領は戦力を求めます。人口の上限もある。育成しようにも人がいない。そうであるならなおの事。そして王家へと何某かの義務を行っているのであれば、その対価が得られない、その状況が続けば当然それは不満となります。」
そこでミズキリは一度言葉を着切ってメイを見る。オユキが見たところ理解の色はあるようだが、納得したくない、そういった感情の働きも見える。
「それを解消できるのかと、そういう事です。騎士団の派遣が求められる、それ以前に繋がりを使って人員の引き抜き、それがないものは駆け引きをして確保しようとするでしょう。そして対策は不可能です。」
そこで言葉を切ったミズキリに変わりオユキが話す。
「今後の流れとしては、報告後、王家へ変わらぬ忠誠を誓うもの、そうでない者とでまず別れるでしょう。
その次に、既存の国営組織、その去就が図られつつ、離脱を選ぶものは最大限の人的資材を確保するために動き回る。最終段階として、別とそうなるでしょう。いえ国としてそのままかもしれませんが、より地方、王都から離れた場所が独自の権限を持つことになるというのが正解でしょうか。」
「まぁ、そうだろうな。その辺りは正直なところ、それぞれ切り取りを図ってその結果次第となるだろうしな。
王の方でも、自身の領は把握できるから、それを貸与されている形になっているものが離反すれば分かるだろう。」
「お二人は、それが確定として進めていますが。その辺りは神々が許しますか。」
トモエからそんな疑問が上がるが、それにはその場にいる三人がそれぞれに頷く。
「そもそも先ほど言った手続きで、領地を作る権限自体は手に入るからな。それを持った状態でその地を任された領主が機能を利用すればおしまいだ。」
「貴族としての宣誓などは。」
「神ではなく、王へとなっていますから。」
「不都合は確かになさそうですね。」
「ええ、ですから報告は全てを行うしかないでしょう。メイ様は、そうですね、お家とよく諮って頂くしかない、そうとしか言えませんね。私たちは、そうですね。」
さて、一先ず確認したいことは終わっただろうからとオユキがメイを見る。
まだいろいろと考えたい、そう言った様子ではあるがその視線を受けて彼女の方も話を始める。
「人材の確保、それですね。」
「この町が新しくリース伯爵家によって治められる、そのことは伺っていますが。」
「それ以上に、あなた方、特にこの場にいるお三方に公爵様からお誘いがあります。」
「リース伯からではなく、ですか。」
少し意外に思ってオユキがそう問い返せば、メイからも頷きと共に追加の情報が与えられる。
「公爵様が召し抱え、それから私の補佐を行いインスタントダンジョン、それの調査をと。」
「戦力として心許ないかと。」
「それ以上の物がありましたから。」
さて、こればかりはどうしたものかとオユキは悩む。一人で決められる事でもない。そしてそれは王都へ向かうまでに決めておいてほしいと、そういう事なのだろうが。
「ミズキリは、受けるのでしょうね。」
「ああ。都合もいいしな。」
オユキの言葉にメイが少々残念そうな表情を浮かべるのは、その後に続く言葉を想像したからだろうが。
「真に申し訳ありませんが、私からの返答は、トモエさんと話した後で。ミズキリはルーリエラさんを説得する自信がありますか。」
「ああ。もともとそう言った目的は話しているしな。」
「オユキさん、私は受けてもよいかと。」
「その、居を構えるのは少し見て回ってから、そう話したとも思いますが。」
「ええ、ですが領都も良いところでしたし、正直王都以上は望めない、それくらいは私にも分かりましたから。」
「景観などはかなり変わりますが。」
「それでもですよ。正直この町も離れがたく感じています。初めて訪れた場所にこの言葉がふさわしいかは分かりませんが、やはりここに来れば帰ってきたとそう思いましたから。」
さて、ここであまり夫婦の間で話すのはと、オユキがメイを見ればここで決まるなら決めてくれ、そんな視線が返ってくる。
「その、この町でもいいのですか。」
「今後の発展、それを見るのも楽しいものでしょう。そこに力添えができるなら、充実もあるでしょう。」
「魔物、あまり強いものがいませんが。」
「そこはインスタントダンジョンに期待しましょう。」
「あの、お二人。そこを議題にしますのね。」
メイからそっと注意をされるが、そこはそれ。武を磨くことも人生の目的であることに間違いはないのだから。
「よい街ですよ、ここは。良い人がいて、良い出会いがありました。ならばご縁とそういう事でしょう。
異邦から流れてきた見知らぬものに、こうして頼ろうとそう言った方々がいるのです。であれば、手を貸さねば。我々を受け入れてくれた、その分は。」
「しばらくは不自由もあると思いますが。」
「ええ、お風呂くらいはとそう願ってしまいますが。」
「あの、その程度でしたらご用意させていただきますよ。この屋敷にもありますし。」
「他にも、家を得たら、それこそ以前のように雑貨を飾りたい、その欲も出るでしょう。」
「そうですね。その辺りも今後に期待と、そう思いはしますが、木工なども良いものがありましたし。」
「いえ、調度の類程度で喜んでいただけるなら、公爵様もすぐに頷いてくださるかと。」
どうにも、合間合間で呆れたようなメイの言葉が差し挟まってくるが、今はひとまず夫婦の会話と。大きな選択であるし、数年単位下手をすれば十年単位で予定が決まるのだ。
「旅行、難しくなるかもしれませんが。」
「そこだけは、心配ですね。最も遠い神殿は、往復するのに年単位とのことでしたが。どのみちこの状況では。この国だけの事、そうではないでしょうし。」
「面倒が間違いなく増えますが。」
「それこそ契約を確認してと、それでいいでしょう。私とてあまりに無理を言われれば否と答えます。」
「その、そんな無体はしませんよ。」
「新しく、珍しい食べ物、見たこともない景色、そう言った物が少し遠くなりますが。」
「ちぎれた雑草のように風に吹かれるまま、それもよいかとは思いますが、やはり根を下ろしと、私はそうありたいですね。そういう、オユキさんはこの町に不満が。」
「真っ先にとなると、武器が。」
「それは確かに。」
そうオユキが告げれば、初めてトモエも言葉を返さずに悩むそぶりを見せる。
「お二人とも、先ほどから悩むところは其処だけですか。」
一方でメイも頭痛を堪えるような仕草を見せて、ミズキリは苦笑い。
「はいはい。お二人の話し合いに無粋な声をかけていましたが、武器についてはインスタントダンジョン、こちらが軌道に乗る見込みがあれば、領都からお二人の武器を扱った職人を招く案もあります。
浴室もそうですが、水についても解決策はありますから。」
そういって、メイが手を叩くので、オユキとトモエは話はまたあとでと、切り上げる。
「正直、お二人の望みは公爵様、当家の受けた恩を思えば、何程の物でもありません。
屋敷にしても、王都、領都、此処、それぞれにご用意したところで、痛痒を感じるものでもありませんし。」
むしろ、その程度で片が付くなら喜んで用意するでしょうと、そんな事をメイが言う。
確かに、協力に対して分かり易い対価ではあるだろうがとオユキも思うが、その程度というほどに買われているらしい。メイにまでというのは以外ではあるが。
「不安に思っているのは、公爵家がどのような形でお二人をという事でしょうが、お抱えの狩猟者その程度です。」
「使用人としてそうなるかとも思いましたが。」
「お二人なら務められそうですが、戦と武技の神からの覚えの良い者を戦闘から遠ざける事など。」
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