第250話 休み明け
無事木材も運び、月と安息の神からの頼まれごと、装飾をロザリアに渡せば、彼女は確かに一目見ただけでそれがなにか分かったらしく、ただ喜んで受け取って、一先ずの事は終わった。
その後は宿に戻り、改めてトモエと今後の予定や、この世界の裏側に関することなどをあれこれと話、眠りにつく。
そうして、起きてみれば、旅の疲れもすっかりと抜けており、では改めて訓練をと、そうして狩猟者ギルドに向かえば、同じく、旅の疲れからどうにか回復したのだろう、少年たちに子供たちも、その場に姿があった。
「おはようございます。」
トモエが挨拶をすれば、実に元気に返事が返ってくる。
それに笑いながら、改めて、特に領都からついてきた子供たちを気遣えば、すっかり不調はないとのことだった。
「で、狩りに出ようかって、そんな話をしてたんだけどな。」
そう、シグルドが歯切れ悪く言う。
「ああ。自覚はありますか。」
「まぁ、流石に。こっちを出る時だって、な。」
「一応、河沿いの町に行くことも考えていますが、ひとまず今日は軽く体を動かしましょうか。」
「ま、それでいいなら、良いさ。」
そうして、ぞろぞろと門のところまで行けば、お馴染みの顔に、新人たちを紹介して、外に出る。
そして、その結果はやはり分かり易いものだ。
「あー、確かになぁ。なんか、こう、町から離れる理由が、本とよくわかるし、誰かに習ったりって、そんな必要なさそうに思えるよなぁ。」
あたるを幸いと、丸兎を散々に蹴散らして、シグルドの第一声がそれだ。
「で、結局武器の痛みは変わらないし、これじゃ、そうなるよなぁ。」
「うん。直してもらった、安いの使おうかな。」
アナもその意見に否定はないようで、そんなことを武器の手入れをしながら言い出す。
周辺は人数も増えたことも有り、今は交代して、新たに加わった子供たちが丸兎を乱獲している。
こうなってしまうと、魔物が増えた、それが良くない方向に働いていると、そう思わざるを得ない。
「ごもっともです。なので、河沿いの町まで、足を延ばそうかと。」
「森のあたりは。」
「そちらに向かうときは、傭兵の方にお願いしてからですかね。私達も入ったことが無いので。」
「ここが楽勝だからって、そうだな、油断は駄目だよな。」
「うん、魔物情報も調べてないし、木が邪魔になるから、剣の振り方も考えなきゃいけないしね。」
「あー、セリーはオユキと同じのにしてるもんな。」
長大な長刀を使うセシリアは、今の武器では森の中、対応もそれなりに困難だろう。
振るのに十分な隙間はあるが、戦闘には十分ではない。その程度に森は濃い。
「そっか、疲れも抜けたし、また向こうに行くのもいいかも。」
「だな、前はなんだかんだで、そんな戦ってないし。」
向こうに行けば、魔物の難度も少々上がる。領都ほどではないにせよ、灰兎くらいは大量にいるし、蟹もいる。
きちんと関節、切れるところを狙う、その練習にもいいだろう。と、オユキはトモエと昨夜のうちにそんな話をした。
「えっと、あのねーちゃんは、いつ頃来るんだっけ。」
「そっか、馬車のお礼もあるもんね。」
「でも、私達だけじゃ、干物にしないと、持って帰ってくる間に痛むんじゃない。」
「あー、カナリアおばさん、誘うか。」
「あんまり便利に使うのも、どうかと思うけど。」
これは完全に集中力が切れてしまったなと、一応周囲の警戒は続けているが、緊張感が維持できていない少年たちの意識を手を叩いて集める。
「はい。おしゃべりはそこまでにしましょう。馬車と護衛の手配もあります。町に戻って聞いてみましょうか。」
「そうだな。それにしても、あいつらも強くなってるんだよなぁ。」
シグルドがそういって視線を向ける先では、丸兎を探しては、討伐している少年たちの姿がある。
後追い、加護が働くことも有って、明確に差はあるが、初めて彼らが狩りに出た時と比べれば、彼らの実力も分かり易いだろう。
「ですね。動きや型は、正直まだまだと、そう思いますが。」
「そっか。良し、荷物を纏めて、戻るか。」
シグルドがそういって、気分転換が出来たのか、改めてきちんと周囲に意識を向け始める。
そうして、ワイワイと、一先ず集めていただけの丸兎の戦利品、たまに混ざるグレイハウンドの物を袋に詰めていく。
そうしていると、こちらの話声が聞こえていたのだろう、トモエも苦笑いを浮かべながら、子供たちを連れて合流してくる。
そして、その後はこれまで通り納品をして、傭兵ギルドに顔を出す事になるのだが。
「なかなか、盛況ですね。」
門から出たところで、こちらに戻った時に見た新人らしき影がないと思えば、何日かおきになのだろう、訓練の日というものを設けているらしい。
確かに、ある程度手元に金銭をためて、その方が身が入るのだろうが。
「おー。」
昨日持ちかえった木材を、傭兵ギルドにおいてもいいかと、そう頼んでみたところ、一部を使ってもいいなら、そう言われて承諾した結果、木を丸兎の大きさに切り分けたもの、それを受け手が取り手に投げつける、そんな光景が繰り広げられていた。
「面白い訓練ですね。」
「ええ、私には無い発想です。」
それを興味深げに眺めて、何やら頷くトモエに不穏を感じたのか、アナが恐る恐るといった感じで、トモエに尋ねる。
「丸兎の、対策ですよね。確かに役には立ちそうですけど。」
「いえ、以前イマノルさんかアベルさんが、注意が散漫だと、石を投げると、そんな話をしていましたし。
対複数の訓練として、周囲から何か物を投げ込むのもいいかもしれないなと。」
「いや、俺らあんちゃんとオユキ二人相手もできないけど。」
「新しいことを試して、緊張感を維持するのも大切ですから。ただ、流石に怪我をしそうですね。」
「加減してくれりゃ、大丈夫かもしれないけど。」
「いえ、対処した後、足元にも残りますから。」
そうして、トモエは少々何事かを考える様子を見せる。恐らくは、何か程よい物を考えているのだろう。
その様子を少々の怯えをにじませている少年たちに、オユキが声をかける。
「今直ぐにと、そういう訳ではありませんから。あちらに立木を用意しています。早速やりましょうか。」
「お、おう。」
「トモエさん、全員ですか。」
「いえ、ティファニアさん達は、まだ素振りですね。後で少し、あれもやってみましょうか、足を止めて三方向くらいなら、訓練になりそうですし。」
「あ、うん。まぁ、あんちゃんはそうだよな。」
そういって、少年たちがそれぞれに立木に向かい、子供たちはいつものようにトモエの前に整列する。
なんだかんだと、子供たちも数週間でしっかりと馴染んでいるらしい。
オユキはオユキで、少し離れた場所で型を確かめながら、回りを改めて観察してみる。
誰も彼も、意外なことに訓練には真剣に向き合っているようだ。いや、始めでもあるのだから、そういった物を集めているのだろうが、それでも投げられた木材を、手にした模造刀で程よい緊張感を持ちながら打ち返している。
監督は誰がと思えば、トラノスケとルイス、アイリスの姿もあった。
軽く目線だけで礼をすれば、アイリスの方から近づいてくる。
「数日ぶりね。有難く使わせてもらってるわ。」
「はい。とすると、こちらはアイリスさんが。」
「いいえ、トラノスケの発案よ。」
「成程。」
そう言われてトラノスケを見れば、彼は彼で、木材を青年に投げつけながらも、周囲に気を配っている。
「アイリスさんも、あちらに加わりますか。」
「今は監督があるもの。」
そういって肩を竦めるアイリスではあるが、その目は確かに新人たちを捉えている。
「アイリスさんは、ハヤト流を彼らに伝えたりは。」
「同じ型で、あなたを超えたら考えるわ。」
「それは。」
「こちらに来た理由の一つは、やっぱり試合、したいもの。」
そうして少しアイリスから圧が増し、トモエがそれに気が付いたのか、視線をよこすと楽し気に素振りに戻る。
トモエはトモエで、数を数えながらも、子供たちの姿勢を直し、少年たちにも、声を飛ばしている。
「トモエさんを目指したりは。」
「あなたの後ね。」
「易々と踏み台になると、そう思われるのは心外ですね。」
「どっちにせよ、あなたより強いんだもの、まずはあなたよ。」
さて、以前の一戦から、彼女の方にも改めて心構えを伝え、正しいかどうかはさておき、流派で行っていた鍛錬を伝えたため、その一刀の鋭さは、増しているが。
話している間に、アイリスは武器を手に取るような仕草をしているあたり、訓練の後、恐らくそいう事になるのだろうなと、オユキとしても腹を決める。
言葉は悪いが、初伝程度、それもようやく正道に立ち戻ったばかりの相手、そんな相手に勝ちを拾わせる気はさらさらないのだから。
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