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第222話 街歩き

「5年後に、期待、というところかしら。」


トモエは淑女の着替えに同席するつもりですかとつまみ出され、オユキはただただ覚悟を決めて着せ替え人形の役割を全うした。

普段は長袖長ズボン、持っている服にしても、魔物と戦う、その革鎧の下に着られるよう、厚手で丈夫な物ばかり。

それに引き換え、メイとトモエの意見を基に、服飾士のセンスが光る服は、全体としては今となっては懐かしさも覚える、宿の娘フラウが来ていたものに近く、肩回りが下品にならない程度に露出し、服装としてもただまっすぐではなく、スカートの裾がAラインで軽く広がっている。

生地にしても、薄いというわけではなく、仕立てがよく、軽やかな印象を受けるものだ。


「髪、括るわけには。」

「狩猟者、戦いが生業と、その気持ちは分かりますが、騎士とて休みに剣を手放し、鎧を脱ぎますもの。」

「今の状況にあった装備は、これと。」

「ええ、淑女の鎧、武器は化粧かしら。」


そうしてメイがくすくすと笑い声をあげる。

侍女、高貴な身の上に使え、身の回りの側にいると、そういった職業だけあり、実に慣れた手際でオユキに服を着せ込み、化粧を施した。

髪も軽く編み込まれてはいるが、その長さはほとんど生かされている。

部屋に置かれた鏡で、全身を一目で簡単に確認できるようなものではないが、見てみれば、確かに普段と違う、そう見える姿がある。


「気に入りましたか。」

「どうにも。トモエさんが喜んでくれたら、誇れるとは思いますが。」

「仲の良いことで。さて、それでは。」


そうして早速裾に足を取られながら、メイに連れられ部屋を出ると、既に着替えを終えたトモエが、何事かをメイの従者と話しているところだった。

トモエの衣装は、一言で言ってしまえばロングコート姿、それに尽きるだろう。

勿論装飾などは相応になされているが、シルエット自体は実に見覚えのあるものだ。

こちらでは、それこそこれまでであった中では、ギルドの職員がシャツにベストといった服装をしているのはみたが、トモエもシャツにタイ、パンツに加えてといった、そういった格好をしている。


「よくお似合いですよ。」

「ありがとうございます。トモエさんも。」


上背があり細身だからというのもあるだろう、トモエもその出で立ちがよく似合っている。


「お二人とも姿勢が良いから、良く似合いますね。トモエさんは特に。」

「こういった格好は慣れないので、気恥ずかしさもありますが。」

「それは私もですよ。」


トモエが照れたように笑うので、オユキもそう言葉を添える。


「慣れないうちは、そういう物でしょう。先ほどまでは、どのような話を。」

「剣帯を付けようかと、そういった話を。」

「やめておいた方がよいでしょう。そちらの服は、そのような物ではありませんから。」


そんなトモエの言葉をメイが笑顔で切り捨てる。

オユキからは見えなかったが、その表情はトモエにそんな無粋はしてくれるなと、そう全力で訴えるものであった。


「まぁ、帯剣して街歩きと、それもいかがかとは思いますから。

 それにしても、普段出入りしているあたりでは、少々浮きそうですね、この格好では。」


そうオユキが言って、軽く裾をつまみ上げると、その手をメイがそっと抑える。

どうやら、望ましくない振る舞いであったらしいと、手を離せば、メイから提案がある。


「そうですね、よくある道のりを案内させましょうか。

 宿の者に伝えておきましょう。」

「お手数かけます。」

「いえ、私としても、そちらは考えていませんでしたから。

 確かに、外周には向かない服装ですからね。夜会はともかく、正餐なら出られる装いですからね。」


他にも3着ほど衣装は用意されているが、それは普段使っている者と見た目は変わらないものであったり、サーコートのようなもので合ったりと、もう少し普段に即したものになっている。


「なにからなにまで。」

「いえ、こちらも楽しませてもらいましたから。」


そうして、近々一緒に始まりの町へと戻る事を改めて話して、メイが連れてきた一団が部屋を出ると、一息ついて宿を出る。

用意されていた馬車は、これまでと同じものではあるが、いつもと違い御者だけでなく、もう一人が御者席に座っている。

それに乗り込めば何処へと、そういった事を言うまでもなく、出発する。みじか時間であったというのに伝えられるほどに、定番のコースというものがあるのだろう。


「なかなか、贅沢なといいますか。」

「少々思っていたものよりも仰々しくはなりましたね。改めて、よくお似合いですよ。」

「ありがとうございます。慣れないので、どうにも。」

「まぁ、そうでしょうね。私も仕事でもなければ、こういった服装はしませんでしたが。」

「ロングコートの下は、シャツとベストですか。」

「はい。流石に暑いかと思えば、流石ですね、面白い布地があるものです。」


そうしてトモエが微笑む。

春も終わりが近いのだろう、そんな予感を感じさせるよう気が続いていることもあり、以前と同じ生地でその服が作られていたら、さぞ難儀したことだろうが、ひんやりとした生地、等という実に不思議なものが存在するこちらでは、問題にもならなかった。

これまで顔を合わせた伯爵や公爵が、実に涼しげな顔で着込んでいることに疑問はあったが、そういった生地によるものなのだろう。


「私としては、肩が出ているのが気になりますが。」

「一応、上掛けのようなものも頼んでいたかと思いますが。」

「あちらはカジュアルすぎると、要約すればそのようなことを言われましたね。」

「成程。ファッションとは我慢、そのような言葉もありますから。」

「コルセットが無かったのは、救いとそう考えましょうか。」


そうして、改めて互いの来ている服について言及しあっているうちに馬車の速度が落ち始め、止まると、扉が空けられる。

それから、どういった役割かと思えば、観光の案内と、そういった人物であったようで、外に出てその景色を楽しもうとすれば、邪魔にならない程度に説明を行ってくれる。


「遠目に見えることはありましたが、近くで見ると、なかなかの威容ですね。」

「ええ。行政としての、というよりは、防衛用の設備が散見されますが。」


まず最初に訪れたのは、領都の中心部、そこに在る公爵がその職務を行っているであろう、巨大な城であった。

城門越しと、流石にそうなりはするが、他にもいくつか馬車が止まっており、幾人かがトモエやオユキと同じように遠くにしろを望みながら、何事かを語らっている。


「いざというときには、民を中に入れる、最後の砦としての機能もありますので。」

「中心の施設で、魔物もいれば、その備えもいりますか。」

「どうでしょうか。そうなった時点で、既にと、そう考えてもしまいますが。」

「心構えとして、そう伝わっています。」

「成程、高貴なるものの責務、その体現としてですか。近くに河川がないのに水堀があるのは。」

「はい、教会から。貴族区全体に水路が張り巡らされています。」

「望めば、そちらで町を巡ることは。」

「可能ではありますが。」


そこで言葉を濁されれば、流石に見当もつく。


「流石に人気がありそうですからね。」

「ご期待に沿えず。」

「いえ、こうして案内を頂けるだけで、有難いですから。それにしても。」


そういって、トモエが改めて城に視線を向ける。

門は金属らしい光沢、そこからは石が積まれた防壁が。ところどころから尖塔が伸び、その奥には灰色の威容。

水堀からは見える範囲で2本の水路が伸びており、流れる水は底が見えるほどに透き通っている。


「素晴らしい作りですね。」

「本当に。庭園などは無いのですね。」


周囲は石畳で舗装され、少し離れればいくつもの屋敷が立ち並び、そこからは美しい庭がのぞいているが、白の門前、そこはあくまで橋がかかっているだけだ。

どうにも武骨な印象を受けてしまう。


「庭園もそうですが、城壁の飾り、旗などもですね。初代の公爵様が、嫌ったと、そう伝わっています。」

「おや、こう言っては失礼かもしれませんが、それも威を示すにはよいかと思いますが。」

「あくまで城塞である、国内の事であるから所属を示す旗もいらぬと。

 その余裕は領都を広げるためにこそ使うべき、そう申されたそうです。」

「何と、まぁ。」

宜しければ、感想、ブックマーク、評価等、ひと手間頂けますと幸いです。


アルファポリス

https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/160552885

カクヨム

https://kakuyomu.jp/users/Itsumi2456

にて他作品も連載しています。

宜しければ、そちらもご一読いただけましたら幸いです。

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