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第212話 落ち込む二人

「その、普通の狩猟者は結構休むもの。毎日狩りにでて、楽しそうに魔物を狩る。

 そんな姿を見れば、そう思うのも無理はないと思のよ。」


結界の中まで後退し、休憩がてら食事をとりながら、アイリスがそうトモエとオユキを慰める。

しかし、その言葉には彼女がそう思っていたことを否定するものは含まれず、むしろ多くの人はそう考えると、そう示すものであって、さらにトモエとオユキを暗い気分にさせた。


「いや、その、自覚がないと思ってなくてさ。」

「私も、楽しんで戦ってると思ってた。」

「戦い方の研究に余念がなかったしな。」


更に無邪気な少年たちのの言葉がトモエとオユキに深々と刺さる。


「もう、二人は仕事熱心、それでいいじゃない。気にしてるんだから、あんまりその言葉を使わないようにしましょうよ。」

「にしても、まさかそう言われて気にするような性質だとはな。言われたところで喜ぶと思っていたぞ。」

「あの、そのように評価されて喜ぶ方はかなりアレな方かと。」

「生活や食事にも、こだわりを持っているようには思うのですが。」


オユキとトモエが、それぞれに言葉を返せば、揃って首を傾げられる。


「あんちゃんたちくらい稼げるなら、わざわざ宿取らずに、屋敷買うだろうしなぁ。」

「まぁ、そうよね。私も今後の事を考えて聞いてみたけれど、今まで払ったお金で、結構広い家を買えるもの。

 私達、町に帰ったらどうしましょうか。溜まったお金で、それなりに広い家買えるよ。」

「そうなのですか。どうにもこちらの物価にはまだ馴染みがなく。」

「ま、始まりの町は特に空き家も多いからな。お前らなら使用人付きで、中央区の屋敷買っても5年くらいなら今の金で維持できるんじゃないか。つか、そのあたりはトロフィーと魔石の差で気が付いただろ。」

「いえ、希少価値と言いますか、ご祝儀価格と言いますか、そのような物と納得してしまったので。

 それに、私達の世界だと、自分の家というのは、高級な宿に1年は泊まるような額でようやくといったものでしたから。」


そう、オユキは弁解する。


「ま、それなら仕方ないかとも思うが。少しは街歩きでもして、確認したほうが良いと思うぞ。」

「そうね、今言っていることが、そのまま戦闘しかしていない、その証拠だもの。」


トモエとオユキはそろそろ座っているのもつらくなってきた。

言われる言葉はいちいちもっともであるため、反論もろくにできない。


「街歩き用の服ができたら、オユキさんと少し町を回ってみます。」

「おう、そうしろ。」

「いや、そんなあんちゃんとオユキは、頼もしいと思うぜ。」

「そうね。色々と助かっているし。」

「私たちに付き合って、そういう部分もあると思いますから。」


ルイスがあっさりと返すが、少年たちは初めて見るほどに落ち込む二人に、言葉をかける。

子供たちに関しては、あまりなじみがないこともあるだろうが、それ以上に戦っている姿ばかりしか目にしていないので、フォローのしようもないのだろう。これまでに彼らを狩りに連れ出さなかったのは、一日だけなのだから。


「ありがとうございます。しかし言われてみれば、確かにまずいですね。狩猟を仕事と捉えれば、私達、これまで、移動の時間以外には、二日ほど休みを取っていませんし。

 そう思われても仕方のない生活でした。」

「そう言われてみれば、向こうであれば怒られるでは済まない事態ですね。」


二ヵ月で休日は二日、うち一日は自主的に研修。

そう言いかえてしまえば、どれだけ多くの存在を敵に回してしまう事か。

世情が違うとはいえ、あまりに休みが少ない、それは事実なのだろう。

オユキとトモエにしても、稼いだ金銭の用途は、宿への物と武器しかない。それはそれで非常に不健全だろう。


「ま、そのあたりは今後考えればいいさ。人それぞれだからな。」


そうルイスがあっさりと二人の悩みを切り捨て、話を変える。


「さて、あの三人組だが。」


話題の切り替えに、トモエとオユキも気持ちを切り替える。

わざわざルイスが護衛として警告する、それほどの何かがあるのだろうと。


「恐らく、ギルドに戻ればまた絡んでくると思うが、どうする。」

「あれだけの無様を晒して、まだ絡んできますか。なかなか救いようのない方々ですね。」

「まぁ、放置でよいでしょう。なにが出来る訳でも無し。ただ悪意をまき散らすだけですから。

 正直、ああいった手合いは構うだけつけあがるので、放っておくのがよいでしょうから。」


トモエが少々嫌悪感を露にするが、オユキとしては殊更どうする気もない。

護衛を超えて、どうこうするほどの能力もない、正面から来たのなら、容易くねじ伏せられる。

そんな相手に、いちいち付き合うほど暇でもないなのだ。

やりたいことはまだまだ多く、そこに労力を費やすほどの何かを感じられない。


「あいよ。ま、度が過ぎればこっちで対処するさ。」

「はい。そのあたりは信頼しています。」


そんな話をしていると、少年たちが、何やらこそこそ話しているが、ただオユキがにこやかにほほ笑みかければ、直ぐにそれを止めて、話を戻す。


「そういや、頼んでた、贈り物用の入れ物も今日来るんだっけ。」

「えっと、昨日アマリーアさんがそう言ってたかな。」

「町に戻るなら、手紙も預からなきゃだし、あんちゃんたちが町でのんびりするなら、その時に俺たちは教会行ったり、虹月石受け取りに行くか。」

「あ、そういえば出来上がってるって話だったっけ。じゃ、それも受け取りに行ってから教会かな。」


あまり怖い顔をした覚えもないが、少年たちがオユキと目を合わせることもなく、休日の予定を話し出す。

その様子にトモエと視線を合わせて肩を竦める。


「私達の方でも、お土産くらいはと思いますが、日持ちのするものはチーズなどでしょうか。」

「工芸品、金属品なども喜ばれるとは思いますが、消え物ならそのあたりでしょうね。」


トモエとオユキがそんな話を始めると、アイリスがただため息をつく。


「あのね、一カ月もいて、それにも見当がついていない、それが戦闘ばかり、その証拠なのよ。」


そう言われてしまえば、トモエとオユキも黙るしかない。


「それに、アドリアーナ、そっちの子以外、碌に魔術に興味も向けないし。」


そう呟いて、アイリスがまたため息をつく。

その言葉通り、適性があると分かったアドリアーナは、水と癒しの教会に手伝いで通っている最中に、少量の水を作る奇跡を覚えていた。

マナの感知も、おぼつかなかったというのに。奇跡と魔術の差なのだろうか。

それ以来、空いた時間で魔術もと、何かと瞑想をしたり、教会で貰ったという水に関わる魔術文字の一覧、その意味などを眺めている。


「その、マナの感知が。」

「時々、カナリアおばさんに言われた瞑想はやってるんだけどな。」

「ね、ちっともわからないから、なんだかあんまり身が入らないよね。」

「あなた達ね。種族として、平均で1年かかるって言われているんだから。」

「ああ、だから1年かけてのんびりやるさ。セリーはどうなんだ。」

「マナは分かるけど、やっぱり食事かなぁ。そのおかげもあって、最近体調良いんだ。体も良く動くし。」

「へー。ルーおばさんに感謝だな。」

「ジーク、あんまりおばさん呼びしてるとまた怒られるわよ。」


そうして少年たちが話す姿をみて、アイリスがため息をつき、ルイスが笑う。

トモエとオユキものんきにその姿を眺めていると、アイリスからそっと釘を刺される。


「まったく、どうにかしなさいよ。」

「いえ、私達も武技は使えていると思いますが、魔術はマナの感知もままなりませんから。」

「そんなわけないでしょ。オユキは感知してるわよ。」


そう言われて自覚のないオユキが思わず首をかしげると、アイリスはただため息をつく。


「この前から、体、重そうにしてるでしょ。マナの濃度が変わったから、その影響よ。」

「ああ、それが原因だったのですか。という事は、この重たい空気が。」

「感じ方はそれそれだけれど、それよ。」

「ただ、分かったからと言って、どうにか出来そうにもありませんね。」

「だから、戦闘以外に目を向けなさいって言ってるのよ。魔術は学ばなければ使えないもの。」

「そういえば、そうでしたね。」


宜しければ、感想、ブックマーク、評価等、ひと手間頂けますと幸いです。


アルファポリス

https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/160552885

カクヨム

https://kakuyomu.jp/users/Itsumi2456

にて他作品も連載しています。

宜しければ、そちらもご一読いただけましたら幸いです。

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