第201話 日常風景
領都の壁の外、草原に、少年たちと子供たちの声が響く。
領都での滞在も、間もなく3週に差し掛かろうというところ、だいぶ馴染んだこともあり、今日は少年たちが、改めて鹿の魔物の狩りに挑戦していた。
子供たちはそれを見ながら、グレイハウンドとどうにかこうにか戦いを繰り広げている。
オユキが少年たち、トモエが子供たちを監督し、全体としてはルイスとアイリスといった護衛に雇っている傭兵が注意を払っている。
「よっしゃ。」
そういって、シグルドがきれいに首を裂いた鹿の魔物、その体が消えていくのを前に、喜びの声を上げる。
鋭く枝分かれしたナイフのような大きな角、それをどうにか回避しながらの戦いで、緊張が続いたのだろう、他の者たちも、大きく息をついて、緊張を解くように肩から力を抜いている。
「今回はオユキちゃんの助けがなくても、倒せたね。」
「つっても、寄ってくる魔物は対処してもらってだからなぁ。」
「そこは、今後だろ。」
そういって、少年たちは、そそくさと荷物をまとめている場所、そこで休憩すると決めている箇所に、魔物が落とした収集品を拾い集めて戻ると、武器を確認しながら話し合いを始める。
「にしても、やっぱいい武器は、いいなぁ。」
「なによそれ。」
「前だと、たぶん毛に引っかかって切れなかったからな。」
「オユキちゃんやトモエさんは、首毎ばっさり言ってたよ。」
「一緒にされてもなぁ。」
シグルドがこちらに来て新調した武器を眺めて呟けば、アナやセシリアから茶々が入る。
「はい。ひとまずお疲れ様です。前回よりも良くなっていましたよ。」
「ほんとう。」
「ええ、手を出さなくてもいいと、そう思えましたから。」
「やった。」
オユキが褒めれば、少女たちも喜ぶ。
「俺は、やはり鉱山が向いているな。」
少年たちはともかく、子供たちにはまだ鉱山が早い、そもそも荷物持ちとして、そう言った話もあるため、どうしても鉱山では荷運びに終始してしまう子供たちと、同じ敵ばかりも良くないと、そうオユキが話し、草原と鉱山を一日ごとに狩場としている。
「相性が悪い敵とどう戦うか、それを考えるのも、良い鍛錬ですよ。」
「ああ、分かる。だから鉱山が向いていると、改めて実感した。
あっちに慣れすぎるのは良くないな。」
「ええ、良い心構えです。ですが、自身の強み、それをここで生かすことを考えるのも大事ですよ。」
「ふむ。」
「進捗については、トモエさんにお任せしているので私からは口を挟めませんが、そうですね。出来る事、強みを生かす方法、それは色々あるかと。」
「分かった、考えてみる。」
それこそ、パウが当身を使うようになれば、その力を持って魔物を浮かし、完全に無防備になったところをどうとでもできるようになるだろう。
空を飛べない魔物なら、地に足を付けられない状態にすれば、その時点で、ほとんど形成が決まるのだから。
「そういえば、オユキちゃんとトモエさん、後アイリスさんもかな。外に出るときは、指輪付けないんだね。
武器の邪魔になるからかなって思ってたけど、訓練の時はつけてるから。」
「ああ、あれは身に付いた加護の一切を抑える物ですから、訓練ならまだしも実践では流石に。」
そうあっさりと答えると、少年たちが恐ろしいものを見る顔つきになる。
「訓練の時は、ゆっくり動くなと思ってたけど。」
「えー。トモエさんも加護無くて、あれなの。」
「あれは、失礼よアン。」
「まぁ、気持ちは分かる。」
そうしてわいわいと話す少年たちに、手を叩いてオユキは意識を集める。
「この草原程度であれば、等とは思いますが、万一がありますからね。
戦と武技の神から頂いた物、それを付けて慢心では笑えませんから。」
「慢心、なのか。」
「ええ。変異種が出れば、流石に。」
「ああ、そういや、居たな。変異種。こっちでは見てないけど。」
「氾濫以外でも、出るはずではありますが、まぁ、騎士団の方もおられますし、対応されるでしょう。
さ、休憩は十分ですか。次に行きますよ。向こうも頑張ってますからね。」
「おう。」
そうして少年と子供たちを引き連れていつものように、日々ペースを上げながら魔物を乱獲、既にそう呼んでいいほどになっているが、狩り、昼食を町の外、結界の中で皆でとる。
「俺らはいいけど、あんちゃんたちはもう少し強い魔物狙わなくても良いのか。」
そうして食べていると、シグルドにそう聞かれる。
「鉱山で、鉄人形は探しているのですが。」
「へー。まぁ、あんまり奥いけてないもんな、その前に馬車一杯になるし。」
「そうなんですよね。石人形からトロフィーが得られてしまう、いえ、言葉が悪いですね、頂けるので、それを積んでいくと、どうしても。私たちの加護が増え、格下となったらでなくなると、そう聞いていますので、それを待つ、といったところでしょうか。」
「あー、なんかギルドの人も最近面白い顔してるよな、狩りの成果持ち込むと。」
「いい、少年、あれは面白い顔ではないの、心を殺し、ただ業務に邁進する、そういた覚悟の表情よ。」
「へー。」
アイリスの言葉にシグルドが気のない返事を返せば、アナがシグルドの頭を後ろからたたく。
「でも、ギルドの人、最近持ち込まれるトロフィーが増えたって。
御言葉も関係あるんじゃないかって。」
「全体的に増えたことと、あなた方が毎日持ち帰る事、意味が違うでしょう。」
「えっと。」
「アイリスさんも、そうですね。最近は素振りに鋭さが身についてきましたから、ハヤトさんの物では無く、その源流の稽古の仕方をお教えしましょうか。いえ、すでにあるかもしれませんが。」
「あら、是非とも聞きたいわね。道場だと、素振りと打ち合い、型の稽古しかなかったもの。」
「横木打ちは伝えませんでしたか。」
「初めて聞くわね。」
そう言うアイリスに、オユキは森に、町から南に広がるそこに視線を向ける。
「そうとなれば、木材の調達が要りますね。」
「でしたらちょうどいいですね。シグルド君たちも晴眼が身についてきましたし、上段と立木打ちをやりましょうか。場所は、傭兵ギルドで許可を頂けるでしょうか。」
トモエがそう言うと、少年たちから歓声が上がる。
さて、そうして喜べるのは今の内だけだろうけれど、進歩を認められて喜ぶ少年たちに、オユキは水を差すのはやめる。
「おう、こっちに任せとけ、木がいるってことはそれなりに場所がいるって事だろ。事前に言ってくれりゃ構わんぞ。うちの連中も楽しんでるしな。」
「ありがとうございます。では、木材の確保ですね。明日あたり、少し森に近づいてみましょうか。
町で購入出来ればよいのですが。」
「伐ってもすぐ生えるからな、正直必要な分以外はあまり貯めないな。場所も取る。拡張中の町なら、貯めて置いたりもするが。」
「そういう物でしょうね。では、そろそろ体を動かしましょうか。」
そう、トモエが声をかけて立ち上がれば、皆で手早く片付け、また、魔物をしばらく狩る。
時折突っ込んでくる鹿の魔物はオユキか、少年たちが。
トモエは子供たちを監督しながら、グレイウルフの相手をし、護衛の二人は、数が多いと見て取った魔物を時折間引く。
それを少し続ければ、また狩猟者ギルドに収集品を納品し、魔石の金銭、それから前日以前に納めた物、その料金を受け取って傭兵ギルドへと向かい、そこでまた徹底的に訓練をする。
技だけでなく、体力をつけるためにと、訓練所の中をただ何週も走り、それから素振り。
それが終わるころには日も沈みかけているため、宿に戻って身支度を整え、食事をとり、眠る。
そんな実に充実した領都での生活を、ここしばらくは繰り返していた。
懸念事項はまだいくつかあるし、そんな訓練を鼻で笑う狩猟者らしき人物など、目につくものはいるが、少年たち、子供たちのどちらもが着実に、腕を伸ばしている。
トモエにしても、以前に比べて加護も含めれば技の冴えは一段どころではなく増しているし、オユキも己の目指すものが一先ずと、そう呼べるものが一つ出来上がりかけていた。
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