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第180話 試し切り

「その、申し訳ありません。」


馬車から降りて、トモエとオユキが揃って少年と子供たちに頭を下げる。

武器の試しを行う、そのためにどうしても少年たちや子供たち、よりも自分たちの戦いを優先する、それについて指導を買って出ておきながら、そういった気持ちがそこにはあった。


「その、私達だって、きちんと対価を払ってるわけじゃないし。」

「気にしないでください。」


そう、セシリアとアナが笑顔で答えるのに、再びトモエとオユキが申し訳ないと頭を下げる。


「俺は、どうしようか。」


同じく新しい武器が歓声を見せたシグルドが、それを片手に、トモエとオユキを見る。

彼にしてもそれを使ってと、そういう気持ちはあるだろう。


「トモエが構わないなら、こいつらの面倒はこっちで見よう。

 何かを教えたりはできないが、昨日までと同じ、その流れだけなら問題ないさ。」

「お手数かけますが、お願いしても。」

「それこそ、護衛らしい仕事ってもんだ。」


そういってルイスとアイリスが、少年たちの面倒を引き受けてくれたこともあり、オユキとトモエが二人並んで草原を歩く。いつものように南側、ただ門の側には、全市鎧を着こんだ人物が立っていたり、武器を抜いてこそいないが、周囲を経過する人物がいたりと、既に少々物々しい雰囲気となっている。


「久しぶり、と、そう思いましたが初めてでしょうか。」

「氾濫時に、一応、あったといえばありましたが。」


何がとそれを省いてオユキが話しかければ、トモエからはそう返ってくる。

二人で街を歩いたことはあるけれど、思えば魔物がいる場に、少し離れた位置で一緒に行動する相手がいるとは言え、二人で並んで、町の外を歩くのは初めてであった。


「子供たち、後進の様子を見るのも楽しくはありますが。」


オユキはそう言葉を切って、トモエを見る。


「もともとは、こうして二人並んで一緒に旅をする、それを目的としていたんですよ。」

「分かっていますよ。子供たちの面倒を見始めたのは、私ですから。」

「私も楽しんでいますとも。何よりあの頃を思い出せますからね。」


そうして二人並んで、少年たちと少しの距離を開ける。

走れば、1分もかからない、そんな距離までくれば、周囲に散った傭兵達へルイスが手振りで何か合図を送っているのが見え、魔物の多い森迄、護衛が視界に入ることが無くなる。


「今の日々も楽しくあります。新しい技を身に着ける意欲もあります。

 それでも、トモエさんとゆっくりと、この世界を楽しむ、そうい時間を取りたいと、どうしてもそう考えてしまいます。」

「急ぎすぎと、その自覚はあるのですが。やはり十全に体が動く喜び、生前は叶えられなかった、後進の育成、未練ですね。我が事、我が心ながら、思う通りにならぬものです。」

「休日を、決めましょうか。毎週と、そうでなくとも十日に一度、月に一度、休む日を設けましょうか。

 この世界、私もどうしても年長として、経験を積んだものとして、いらぬ責任を負おうと、そんな風ではありましたが、この世界を生きる身として、もう少し自在でも良いのではないかと。」

「そうですね。ええ。そうですね。何も延長とばかり、捕らわれなくてもいいのですものね。」


互いに、そう話して、近寄ってくる魔物に、改めて意識を向ける。


「祭りが終わったら、一日町中を見て回りましょうか。」

「ええ、その前に、休みの前には面倒を片付けたいですね。」


互いにそういえば、体から余分な力を抜いて、8匹ほどのグレイハウンドの群れ、その向こうから突っ込んでくる数匹のシエルヴォ、それを見据える。

正面からはそうだが、横合いからは、灰兎が突っ込んでくるかもしれない。

そして、今見える魔物の向こう、まだいくらかの影がある。

それらが突っ込んでくることもあるだろう。


「お互い、慣れない武器ですから、間合いには気を付けましょうか。」

「そうですね。買ってその日にダメにするというのも格好がつきませんし。」


そう、呟けば、オユキもトモエも改めて武器を構える。


「さて、試し切りと参りましょう。」


トモエがそういって、飛び掛かってくるグレイハウンドを2匹まとめて切り捨てる。

オユキもトモエから少し距離を置いて、まずは突きを放ち灰兎をその一撃で処分する。

グレイハウンドを超えて、角をこちらに突き刺そうと突っ込んできたシエルヴォ、その両角をトモエが切り落とし、難なくその首を続けざまに切り離す、そして、それを避けるように広がったグレイハウンド、その片方の群れに無造作に近寄り、間合いに入ると、これ幸いと、次々と刺突、斬撃、峰で打つ、そういった動作を試していく。

オユキも重さを使って叩き、斬り、時にこれまでの理合いから大きく外れた、石突近くを持って、大きく振り回す、そんな動作も交えながら、届く魔物を次から次へと切り捨てる。

数分もあれば、最初に寄ってきた魔物の一団は全て消え去り、後にはそこらに収集物が転がる、そんな有様となっている。

本来であれば、それらを拾い集めるのだが、まずは二人で武器の状態を確認する。


「良いですね。重量があるせいで、振った時の体の制御が難しいですが、それ以上に頑丈で、威力が乗ります。」

「私の方は、少し茎を長くしてもらったほうが良いかもしれません。重量が柄を痛めそうです。少々無理な振り方をしたせいもありますが。」

「ああ、あの。重さと鋭さ、それを最大限生かせたかとは思いますが、そうですね、元の作りがそれを想定していませんからね。」

「いっそ、全て一体と、そちらのほうが良いのかもしれませんね。さて、次を試してみましょうか。

 長刀を使ってやるような事ではないと、そうであるなら、こちらでやればいいのですし。」

「二刀の想定ですよね。こちらでの身体能力があれば、十分に使えそうです。両手に持てばバランスもとりやすいでしょうし。」

「振りすぎて、腱を痛めないように気を付けねばならないでしょうが。」


そんな話をしながら、互いに、手早く武器の血と脂を落として、次にこちらに突っ込んでくる魔物の一団へ向かう。グレイハウンドだけではなく、一回り大きくより凶悪な爪と牙を供えたグレイウルフが、少々まとめて、

鹿が複数、そして奥には熊の姿も見える。

それに対して、トモエは太刀を鞘に戻し両手剣を構える。トモエも、何かを模索しているのだろう、両手剣であるのに、片手で、肩に担ぐようにして構えを取っている。

オユキはオユキで、アジャ・カティ、ククリ、海賊剣そういった形状のハンドガードのついた片手剣と、これまで使っていた片手剣、それぞれを手に持ち、体を軽く揺らしながら機を伺う。

こちらから少し近づき、そこらに散乱する魔物の収集品、それが邪魔になることが無い位置で、改めて魔物と相対すれば、トモエが両手剣を、まだ魔物が間合いに入る、その前に振り抜き、グレイウルフとシエルヴォをまとめて切り伏せる。

どうやら、離れた位置を斬る、そんな武技を身に着けたようだ。オユキはそれに負けぬとばかりに、以前散々お世話になった歩法。実際に覚えた物でも近いものはあるが、あいてとのまあいを詰める。少しの距離を突然移動する、それを、なぜか出来る事を疑うことなく、当時の感覚のまま使い、狙い通りの効果を得れば、回るように剣を振り、グレイハウンドの首を落とし、そのまま跳ねるように、鹿の首を、その体の上を超えるように体を回して飛びながら切り落とす。

地に足を付けなければできないようなそれも、ここでなら、武技を用いてなら、叶うのだから。

使える物は使ったうえで、技と、工夫を凝らした果てにある、そう動く理由がある、合理的な追求がある、そうなるまで、試し、工夫し、修正し、それを続けて行こうかと、そんなことを考えながら、地に着く足は、あくまで次の獲物へ飛ぶためと、そんなことを考えながら、常に自分から動いて場を作り、相手の場を見出し、自分のリズムに取り込む。そうして、相手が自ら首を差し出す、そんな流れを作ることに執心しながら、ただ側にいる魔物を切り捨て続ける。

トモエのように、間合いに入れば必ず斬る、届くのであれば、必ず後の先を、それとは全く違う、そんな道を探して。


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