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第16話 旧交を温める、その前に

「それでは、他に質問が無ければ、加入の手続きは以上になります。

 ひとまず、今はこちらの仮登録証をお渡しします。登録証は大体4日後に出来上がりますので、その時にこちらの仮登録証と引き換えさせていただきますね。」


そう受付の女性は告げて、2枚の木札をカウンターに置く。

そこには、番号が刻印され、割符にもなっているのだろう、何かの記号か、図柄のようなものが端に描かれている。

それを確認して、本来の登録証と引き換える。そういう事なのだろう。


「ありがとうございます。どちらが、どちらの物でしょう。」

「はい、お二人の前にそれぞれ置いていますので。」


オユキの代わりに、トモエが二枚ともを受け取り、一つをオユキに渡す。

見た目はどうにもならないが、流石にトモエに自分の物品の全てを管理されるような、そんな年齢でもない。


こうして、ひとまずの登録を終えたものの、さて、これからどうするかと、オユキは考える。

待ち人がいるようではある。旧交を温めたいとの申し出もある。

だが、それを置いても、一度外に出て体を動かす、そんな必要性も感じる。

今の自分に何ができるのか、その確認をしておかないと、オユキとしては落ち着かない。


「それじゃ、さっそく外に行くか。」


そんな逡巡を見て取ったのか、トラノスケがそう声をかける。

その声に苦笑を浮かべながら、オユキはトラノスケを見上げる。


「登録したら、納品まで。それがチュートリアル、だろ?」

「では、お言葉に甘えましょうか。」


そう答え、改めて自分の格好を確認する。

そこにはまさにゲームの初心者装備をしています、そういわんばかりの格好。

ただ、トモエの腰にはショートソードが下げられているのに対し、己はナイフ。

このあたりは体格差を考慮してのものだろう。

恐らく、今のオユキでは、ショートソードであろうと、振れば体も流されるだろう。


「トモエさんは構いませんか。」


オユキはそう確認を取ると、トモエは微笑みを浮かべながら頷く。


「はい。体の動きの確認はいるでしょうから。

 あちらで、軽く動きはしましたが、使い慣れない獲物もありますし。」


そういって、トモエは腰に下げられたものを鞘越しに軽くたたく。


「私も、そちらであればよかったのですが、流石に短刀術は学んでいませんからね。」

「そうですね、かなり独自の理合いが必要になりますが、人を相手にするでもなし。

 これから学び、最適化するほかないでしょう。

 こちらで学べる場所があれば、よいのですが。」

「ああ、そういうのは、どちらかといえば、傭兵ギルドのほうだな。

 まぁ、登録していなくても、訓練は有料で受けられる。興味があれば行くのもいいだろう。」


それにしても、そう呟いてトラノスケが続ける。


「ほとんどやらないにしては、対人戦強かったが、そうか、やはり何か心得があったのか。」

「そうですね。殊更喧伝はしませんでしたし、それで挑まれるのも好みませんでしたので。

 ただ、それも今となっては、まぁ、多少は役に立つ、その程度でしょうか。」

「そういうものなのか?」

「はい。あまりに体の勝手が違いますので。ある程度上背があることを前提とした、そんな技術を学んでいましたし。」


トラノスケは、それにトモエとオユキを見比べて、頷く。


「という事は、そちらも?」

「はい。私も多少の心得はあります。ただオユキさんよりは融通が利くでしょうね。

 それでも、ないよりまし、まぁ、その程度でしょう。」

「わかった、それなら町からあまり離れずに、獲物を探すか。

 何、成人であれば、刃物一本持っていればどうにかなる、そういった程度の獲物を選ぶさ。」


そう応えて、トラノスケは歩き出す。

オユキとトモエはその好意にあまえ、揃ってついていく。

狩猟者ギルドを出れば、大通りに沿って、歩き出す。

ゲームの頃と変わっていなければ、確か、この手の町は4㎞四方くらいであったろうか。

四方を壁に囲まれ、内外を結界とその壁で隔てている。

場所によっては壁の外側に、牧場や畑といった設備が隣接されたりもしていた。

そんなことを考えながらも、遅れないようにとオユキはせっせと足を前に出す。


「その、狩猟者が討伐する魔物とはどの様な?」

「そうか、ゲームはやっていなかったんだったな。

 見た目は動物と変わらないこともあれば、明らかに俺たちの世界とは様子の違うものもいる。

 まぁ、見た目が違うからと、必ずしも魔物ではないのが難しい。

 言葉では説明しきれぬから、あとで狩猟者ギルドで資料を確認するといい。

 今から行く先では、こう、兎を丸くしたような、そんな魔物と、狼型の魔物、それから、キノコ型、このあたりを狙う。」

「キノコというと、狩猟ではなく、採取では?」

「いや、歩いている。」

「キノコが、歩く、ですか。」

「ああ、二本脚でな。」

「それは、なんといいますか、不思議ですね。」

「だが、此処ではそれが当たり前だからな。慣れろとしか言えない。」

「成程。他にも似たようなものがいると、そういう事ですね。」


前を行く、トモエとトラノスケの会話を聞きながら、なるほど、彼を慕う新規参入者が数多くいたのもうなずけると、オユキは懐かしく、そう思う。

説明が実に適当だ。心構えはできるだろう、だが、初めて出会う、そんな楽しみを奪うほどでもない。

実にうまい説明だと、オユキは感心する。

オユキが説明を行えば、恐らくもっと踏み込んだ内容を喋ったであろう。

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