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第159話 オユキとトモエの発注

「お客様ですよ。」


ホセがそう苦笑いと共に告げれば、店の主だろう人物が無遠慮な視線をトモエたちに向ける。

少し品定めのような視線を贈ると、店主はため息をついて、ホセに応える。


「ちょっとはマシなのを連れて来るようになったじゃねーか。

 だが、そっちの小娘は論外として、そこのガキどももうちの武器がいるようには見ねぇな。」


その言葉にホセが苦笑いをしながら、話しかける。


「こちらの7人がお客様ですよ。こっちのカレンはまぁ、荷運びの手伝いです。」

「そのガキどももか。まだまだ、安物のほうがお似合いだろ。うちのじゃ赤字になるだけだろ。」

「そのあたりは、私が判断するわけではありませんから。

 それと、こちらを。武器の素材です。こちらの方々の持ち込みですよ。」


ホセがそう言いながら、馬車からカレンと二人掛で持ってきた木箱を置けば、トモエたちも残りを側に並べる。


「ほう。」


早速とばかりに、中を開けて覗き込み、その中から少し手に取って、しげしげと見定め始める。


「トモエさん、こちらが今この領都で徐々に名前を売り始めている、ウーヴェさんです。」

「トモエと言います。」

「おう。で、これか。溢れのソポルト、これならいいもんが作れそうだ。」


そう言うと、ウーヴェが他の木箱も覗き込み、そこに入っているものを確認していく。


「まずはこちらの作品、それを見てお任せするか決めたいとのことです。」

「ほう。いいだろう。魔物を使ったものだな、そこに座って待ってな。すぐ持ってくる。」


そういって裏手にウーヴェが引っ込むと、ホセがトモエに謝り始める。


「その、腕は確かなのですが、あの通りの気性の方でして。

 もう少し人当たりが良ければ、もっと評判も出るのでしょうが。」

「いえ、お気になさらず。こだわりを持っている方というのは、往々にしてそういうところがありますから。

 それに悪意は感じませんし。」

「まったく、無礼な男です。なにが論外ですか。」


カレンがそんなことを呟いているのを横目に、辺りを興味深げに見まわしている少年にオユキは声をかける。


「何か気になる形状の物はありましたか。」


工房らしく、辺りには数打ちか習作か、少なくとも見本として出すようなものではない、そんな武器が壁際の樽にまとめて入れられたり、壁に掛けられたりと、所狭しと並べられている。


「いや、たくさんあるなって。俺はあっちの両手剣が良いかな。今持ってるのによく似てるし。」

「ほんと、短剣だけでもこんなにたくさんあるんだ。あの片側が櫛みたいになってるのは、オユキちゃん分かる。」

「ソードブレイカー、聞き手と逆に持って、相手の剣をからめとって折る、盾のように扱うものですね。」

「へー、そんな短剣もあるんだ。」

「トモエさん、あれって槍なんですか。」

「長柄にも色々ありますから、あれは種類としては戟と呼ぶものですね。出来る事は多いのですが、その分取り扱いが難しくなります。」

「アレが、戦槌か。」

「あれは、何でしょう。槌鉾の一種でしょうが、なかなか威圧的な見た目ですね。」

「モーニングスター等と呼ばれていたかと。」


あれこれと始まりの町で見ることもなかった形状の武器に、楽し気にあれはあれはとオユキとトモエに聞きながらも、それぞれに興味のある武器に視線を向けていると、裏手からウーヴェが戻ってくる。

その手には長剣に片手剣、短剣と三種類の武器と、なぜか2つのインゴットらしきものをもって。

そのインゴットにしても、二つ合わせれば、持ってきている短剣なら4本は作れそうな、そんな大きさだ。


「おう、待たせたか。これが今うちに残ってる中で、一番新しい奴だ。」

「ありがとうございます。抜いてみても。」

「勿論だ。」


そういって、トモエが手を伸ばし、片手剣を持とうとするが、少し眉を上げる。


「かなり、重さがありますね。」

「ああ、一番いいのを選んだからな。まぁ、やっぱり知らなかったか。

 武器を見る前に、少し話を聞け。」


その言葉にトモエが片手剣から手を放すと、ウーヴェが持ってきたインゴットを指して、トモエたちに質問を投げかける。


「こっちに鉄も持ってきたが、これで、どの武器が作れると思う。」

「長剣なら一つ、短剣と片手剣を合わせて一つ、くらいでしょうか。」

「短剣だけなら、4本は作れそうですが。」


トモエとオユキがそれぞれに応えると、ウーヴェはにやりと笑う。


「ああ、鉄だけで作るんならその見立てでいい。だがな魔物の素材を使うなら、これで短剣一本だ。」

「は。いや、そりゃないだろおっさん。どう見たって、こっちのほうが倍以上あるじゃねーか。」

「誰がおっさんだ小僧。ま、知らんだろうが、魔物の素材は鉄を吸う。文字通りな。」

「それにしても、その量は。」

「そのあたりは鍛冶と火の神の領分だ。儂らにはわからんよ。なんにせよ吸わせる鉄で品質がある程度代わる。

 むろん目一杯吸わせたものが、一番いい。鉄以外にもあれこれ混ぜることもある。

 その辺の配合は秘伝だがな。」


言われた言葉に、トモエが短剣に手を伸ばし持ち上げる。


「その割に、こちらの短剣は、そっちの鉄に比べて軽すぎるようにも思いますが。」

「言ったろ。鍛冶と火の神の領分だ。そこにどんな奇跡があるかはわからんよ。」


トモエはウーヴェの答えにオユキを見るが、オユキにしてもゲームの中で鍛冶などしたわけがない。

さっぱりわからぬその理屈に、ただ肩を竦めて応える。


「そこの骨で作っていただくとしたら、同じくらいの重量増加、そうなりますか。」

「いや、これは寄せ集めの素材で拵えてるからな、もう少し重くなるだろう。大体、そうだな3割り増しくらいか。」

「それほどですか。」

「どうする、質を落とせば、勿論軽くなる。ああ、グレイハウンドだと流石にこれよりは軽くなる。つっても持ってもなんとなく軽いと、そう思う程度だがな。」

「おっさん、俺も持ってみてもいいか。」

「言葉は選べよ小僧。なに構わん、持ってみろ。」


そう告げられて、シグルドが両手剣、アナが短剣を手に取り、少年たちの間で回す。


「げ、こんな重いのか。」

「わ、ほんとだ。全然違う。」

「俺はむしろ安心できるな。」


そうしてわいわい騒ぐ中、トモエはどうやら腹を決めたらしい。

改めて鞘から抜いた片手剣を、じっくりと見分してから鞘に戻し、改めて頭を下げる。


「では、最も良いものを、まず一振りお願いできますか。」

「ああ、作りの指定はあるか。」


それにトモエが、以前よく使っていた太刀、刀身が85センチほどあった、あと少し大きければ大太刀とそう呼ばれるような大きさの刀、その形状を説明している。


「随分と身が細いな。持ちが悪いぞ。」

「そのあたりも試しも含めて、ですね。一番使い慣れた形の物も持っておきたいですから。」

「納得してるならいいが。鎬はこっちの背の方に入れればいいのか。」

「ええ、その様に。」


合わせてオユキも長刀の依頼を行う。重量もかなり増えるため、本当に持てるのかと心配されはしたが、両手剣を軽々と持って見せて、納得させた。


「どっちも見慣れない形だが、まぁ、いいだろう。そうだな、今の話だと、腕の骨一本その半分あれば足りるが。」

「その程度ですか。いえ、鉄を吸うと、それを考えれば、むしろ多いのでしょうか。

 そうですね、同じものをもう一つ、それから私は両手剣を二つ。オユキさんは。」

「私も同じものをもう一つと、片手剣、それから、こういった形状の武器なのですが。」


そういってオユキはファルシオンとカトラス、その中間のような、幅広の片手剣、僅かに反りを持ち、切っ先は両刃、そういった物を説明する。


「作れんことはないが、重いぞ。」

「慣れますよ。それを二つ。それだけ作るとすれば、こっちの素材はどれだけいりますか。」

「ま、腕が全部と爪を半分、牙を少し、ってところか。」

「そんなに残りますか。」

「そりゃお前、本来ならたまに手に入る牙とか爪を寄せ集めて作る問題しな。」

「分かりました。余剰はいりますか。」

「それも込みで、その量だ。」

「では、ホセさん。残りは任せます。」

「畏まりました。ではウーヴェ、今から取り分けてしまいましょう。」


そういって、ウーヴェとホセが素材をより分け、トモエとオユキの注文に必要なものはウーヴェがそのまま裏手に持っていく。


「いや、想像以上に残りました。ありがたい事です。」


そういってホセは実に楽しげに笑うのだった。

アルファポリス

https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/160552885

カクヨム

https://kakuyomu.jp/users/Itsumi2456

にて他作品も連載しています。

宜しければ、そちらもご一読いただけましたら幸いです。

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