第156話 デザート共に
オユキはトモエが少年たちに説明している間に、せっせとデザート、コースに合わせればドルチェだが、それの攻略に勤しむ。
間にチーズをはさむかは、出す側次第ではあるが、デザートはそれをふんだんに使った物であった。
フレッシュチーズの類、固有名は流石にわからないが、を主体に歯ごたえと塩気を感じさせる発酵させたチーズ。
それにいくつかの酸味と爽やかな香りを感じる果物、芳ばしく焼いたナッツを合わせ、蜂蜜だろうか、粘度の高く、鋭い甘みを感じさせるシロップがかけられている。
以前は、何故塩気が強いチーズをわざわざ甘くするのか、そんなことを疑問に思っていたが、今は不思議なくらいに美味しく、好ましく感じられる。
少年たちも、珍しい一品に喜んでいるように見えるし、トモエも生前こういった物を好んでいたこともあり、嬉しそうに食べている。
「お気に召したようで何よりです。」
「ええ、ホセさんには実に良い宿をご紹介頂きました。浴室も備えられていますし。」
「異邦の方は、お好きな方が多いですから。」
「ありがとうございます。それだけに今回は残念な結果となりましたが。」
「いいえ、補填はいただきますし、運んできた、その実績は見せられましたからね。」
「そう言って頂けると。今後も何かあれば相談に乗っていただけると。」
「ええ、勿論ですとも。」
空になったさらにわずかに残念さを覚えながらも、出された飲み物に口を付ければ、さて、いよいよ本題になる。
「さて、それでは改めて、謝罪を。
今回は本当に迷惑をかけたわね。」
「いえ、実際に起きる前に止めて頂けましたから、そこについてはこちらも感謝していますよ。」
「全く、本当にあなた達が物分かりが良くて助かるわ。事によっては、ギルド同士の連携に罅が入りかねなかったんですもの。」
「公爵様と、恩を売りたい方、野心の強い方、その三種類ですか。」
「あとは、ただの馬鹿ね。」
アマリーアはそういって、置かれたワインボトルに手を伸ばし、そのまま口をつけ傾けると、それを机にたたきつける。
「ここならどこにも漏れないから、もうはっきり言うけれど。」
そういう、彼女の眼は若干座っている。
「事の発端は、まぁ、トロフィーよ。それ自体は構わないわ、ただただ、間が悪かったの。」
「王太子妃様のご出産が近いとか。」
「ええ。久しぶりの明るいニュースよ。これまでなかなか恵まれなかった事もあって、懐妊のニュースだけで、王都がお祭り騒ぎになるほどに。
当然待望の第一子。贈り物を、誰も彼もが必死になって探しているわ。」
「その、狩猟者に頼みゃ、魔物を喜んで狩りに行くんじゃないのか。」
「ええ、実際にそういう向きもあるけれど、トロフィーが出るとは限らない。
ご懐妊についても、安定するまで、本当に王家の一部で伏せていたから、出産まで間がないこともあって、狩猟に時間がかかる、それでも確実に贈り物としてふさわしいものが得られる、そんな場所柄の遠征を行うのは現実的ではないのよ。」
「あー、そっか。強い魔物が出るとこに行くのは、大変なんだもんな。」
「ええ、そこでトロフィーよ。それも珍しい一枚物の毛皮。」
アマリーアの言葉にシグルドが首をかしげる。
「んー、そこまで珍しいのか。」
「ええ。大型種になると、そもそも毛皮持ちが少ないし、中型であればいるけれど、それこそ片道2ヶ月は移動しなければならないもの。そんなものが出たときにはそれこそ愉快な金額が動くわよ。
で、町の側だと大量に買ってたまに出ても、二枚合わせて手袋になるかならないか、その程度の大きさだし。」
「へー。」
アマリーアの説明に、少年たちとオユキとトモエも聞き入る。
その様子に、そのあたりの知識が全くないと気が付いたアマリーアがため息を漏らす。
「仕方ないとはいえ、あなた達も商品を仕入れる側なんだから、商品価値くらい知っておきなさいな。」
「いや、ギルドで聞いたら武器の10や20買えるくらいって。」
「それをさらに高く売るのが私たちの仕事よ。買った額と同じ額で売ったら、私達は損するだけじゃないの。」
「おお、そうか。」
「さて、話を戻して、そんな珍しいものが、町に持ち込まれたと。
それも行商人の手によって。ならば商業ギルドに卸す前に、その行商人を。
よく調べれば狩猟者がまだ所有権を持っている、ならば直接交渉を。
そんな話が出て、まぁうちの欲深い馬鹿どもが動き回ったのよ。」
その言葉に少年たちも納得したような顔になる。
「で、それを止めるために、俺たちとはもう話が進んでるんだってのを見せてるのか。」
「そうね、それも正解よ。後はそういう馬鹿が迷惑をかけそうになった謝罪と、本当はギルドに売るだけで済んだのに、ギルドとの約束を蹴ってもらって、改めてうちと直接取引をしてもらう、そこで生じる損失の謝罪と、お礼ね。」
「んー、別に損とは思ってないけど。」
「ギルドにトロフィーをおさめれば、それは狩猟者としての実績になるもの。
かなり大きな損よ。」
「いや、別に。まだまだ半人前以下だしなぁ。あんまり変に高く評価されても、面倒だ。」
シグルドがそう呟いて、他の少年たちに視線を向ければ、思い思いに頷いている。
「なんでこんないい子たちがいるのに、うちは魔窟のような有様なのかしら。」
「そんなにひも付きの方が。」
「行商人以外は皆よ。領都を離れれば変わるのだけれど、此処は貴族も多いもの。」
「希少品関連は、そうなりますか。」
「ま、そうね。また話が逸れたわね、祝いの品、何故これが重要かと、そういう話になるのだけれど。
あなた達もお言葉を頂いたでしょう。原因がわかって何よりだけれど。」
そうアマリーアが言ってまた酒瓶を傾ける。
既に手元のグラスを使う気はないようだ。
「ええ。あんな素晴らしい出来事、忘れられるはずがないです。
でも、それがどうしてお祝いに。」
「癒しの奇跡が、弱くなっているのよ。それと魔物が増えて、溢れの周期も狂っているの。
あなた達は始まりの町から来たそうだけど、他にも何か所か。
後は中級以上の怪我も増えていて、彼らの話だと、魔物が増えている、いつもより手ごわい。
そういう事らしいわ。」
「そうなのか。で、それがなんか関係あるのか。」
「待望の第一子、言い方は悪いけれど、これで出産が失敗、等というのは許されないの。
今王太子妃様の周りは、厳戒態勢よ。
そんな中、魔物の脅威が増している。しかしそこに分かり易く魔物を討伐した証、神々も認めるその功績が形になったトロフィー。
今の情勢を考えれば、実におめでたい品と、そう思わないかしら。」
少年たちは、アマリーアの説明にただ口から意味のない音を漏らしながら、頷いている。
そんな様子に、ああこれはわかってないなと、アマリーアはただ肩を竦める。
「それに毛皮、実際に出産される予定なのは、3ケ月後、夏の最中でしょうがその先には冬が来るもの、子供のために新しく何かを作るには、実におあつらえ向きのタイミングよ。
王都まではここから、一月と少しかかるから、トロフィーにしても、本当にいいタイミング、そうとしか言いようがないわ。」
「成程なー。」
さて、ひどく単純にされた構図を聞けば、シグルドも分かったように頷いている。
まぁ、後で補足が必要であればトモエかオユキで説明すればいい。
「それで、よ。そんな実に都合よく現れた、おめでたい品。
王太子様、ひいては王家、そこに覚えが良くなること間違いない、そんな品を欲しがらない者はいるのかしら。」
「まぁ、そりゃ、居ないよな。」
「で、今回の騒動、そういう事よ。」
「それで、公爵様に売っても問題ないのか。なんか俺らが他から恨みをかったりは。」
「ないわよ。それで逆恨みして何かをするなら、それこそ貴族の面子がつぶれる物。
公爵様も、その贈り物を受け取った王家も、そんな事は許しはしないわ。」
「でも、さっき馬鹿がいるとか言ってなかったか。」
「ええ、居るわよ。その馬鹿の一人は、今日顔を真っ青にしていたでしょう。
水と癒しの神、そのとても大事な、国に関わる大事なお言葉、それに対して無礼を行ったのだもの。」
シグルドがそれを聞いて、気の毒そうな表情に変わる。
「その、まだ何かあったってわけじゃないんだし。」
「ええ、ありがとう。あなたの気遣いは嬉しいけれど、無罪放免とはできないの。
それにあの子はまだましよ。あなた達を直接狙った愚か者は、もう許すのは無理だもの。」
「狙われたのか。」
「公爵様の兵と、傭兵によって、もう片が付いてるわ。
裁判の前に、御言葉を聞くことになるし、公爵様の耳には既に入っているから、それはもう苛烈な対応だったそうよ。」
「まだ、あんま時間たってないけど。」
「ええ、神殿からの使いを耳に入れて、直ぐの事だったわ。
貴族街の方は、もう大騒ぎよ。こっちには影響ないけれど。」
アマリーアがそうため息をつけば、シグルドはホセに尋ねる。
「ホセのおっちゃんは、こんな騒ぎになるって分かってたのか。」
「私もこれで商人ですよ、シグルド君。」
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