表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
146/1233

第146話 領都の商人ギルド

「さて、お待たせしましたかしら。」


ノックの音に、入室を促せば、ホセと長く横に伸びた耳が特徴的な女性を先頭に、7名の人物が室内へと入ってくる。


「いえ、着いたばかりです。」

「ああ、ごめんなさいね、先にお茶を運ばせるわ。」


そう言うと女性が軽く一人の女性に目配せをすれば、声を出すことなく頷き、部屋を出る。


「それまでの間に、簡単に自己紹介をさせて頂くわね。

 私はアマリーア、それとこっちがカレン。後の三人は屋敷の使用人だから、今は紹介は省くわね。」

「こちらは、そうですね私がオユキ、こちらがトモエ、そしてシグルド、この三名がそれぞれにトロフィーを得ています。」

「ホセからは聞いたけど、話が速そうで何よりね。」


そういって、アマリーアが緩く微笑むと、先ほど出て言った女性が、ワゴンに茶器を乗せて運んでくる。


「どうぞ楽になさって。あなた方はお客様ですから。もてなすのがこちらの仕事ですもの。」

「ええ、そうしたいところではありますが、この子たちは見た目通りですから。」


そういって、オユキが苦笑いを浮かべて、未だに固まっている少年たちを見る。


「そのようね。粗暴な方は苦手だけれど、狩猟者の方々が持ち帰ってくださる物が、私達の主要な商品ですから、あまり畏まられても、困るわ。」

「それこそ、経験でしょう。さて、私としても予想はありますが、本日こちらへお呼び頂いた理由をお伺いしても構いませんか。この子たちも、それが分かれば、少しは安心するでしょうから。」


そう、オユキが笑いながら話せば、アマリーアもただ微笑みを浮かべる。

特にお互い何を言うでもなく、入れられたお茶が並べば、彼女が先に口をつけ、そのあとに、オユキとトモエも頂きますと、そう告げて口を付ける。

オユキは飲みなれないものであるが、甘い香りが鼻をくすぐるそれは、とても気に入る物であった。


「そうね、先に予想を伺っても宜しくて。」


そう水を向けられて、オユキとしては、随分と懐かしいやり取りだなと、そんなことを思いながら、横に並べられた茶菓子、焼き菓子ではあるが、つまんだ感触が柔らかいそれを口に運ぶ。

こちらは柑橘の香りが強く、それでも下にはしっかりとした甘さが残る、そのような品であった。

一つを美味しくいただいてから、オユキは話を切り出す。


「トロフィーの扱いに関してでしょう。シグルドの得た、全身の毛皮、トモエの虎、両断されていますが、縫って使えばこれも全身、そして、私は頭部を丸ごと。

 飾りとしても、実用としても、一級品、そういう事でしょう。

 その揶揄するつもりはありませんが、嗜好品、高級品として申し分のない物でしょう。

 このあたりに住まわれる方にとっては、魅力的な。」

「ええ、競りをと、そう言い出したのは、私ではなくこっちのカレンだけれど。」


それにカレンと、そう呼ばれた女性に視線を向ければ、彼女が変わって話し出す。


「ご想像の通り、需要が非常に高い品です。皆さまの防具には向かないでしょうが、それでも生活の豊かさを求め、示す必要のある方には、まさしく喉から手が出るほどです。」

「ええ、その、こちらでも同じかは分かりませんが、家格や身分、それを示すことで回避できる面倒、その理解はありますから。」

「話が早く、有難い限りです。」


そういって、頭を下げるカレンに、トモエが少年たちに向けて話始める。

その前に、一度この場の主人であるアマリーアに目を伏せて断ってはいるが。


「この場が用意されたのは、あちらの方によってという事ですよ。」

「特に、何かしたわけでもないと思うけど。」

「あの方々が、取り扱える高額な商品、それを用意しましたからね。」

「でも、別に、そいつらの為ってわけじゃないぞ。」

「そうですね。しかし結果として彼らは嬉しい。だからそれにたいして、そういう事です。

 用意していただいた苦労、その分は受け取りましょう。」


トモエの言葉にある程度納得がいったのか、シグルドたちから肩の力が抜ける。

そうして諭すさまを見ていたアマリーアも、くすくすと静かに声を立て口元を抑えながら微笑みをこぼす。


「あー、どういたしまして。ただ、トロフィーを下賜してくれたのは、神様だから、俺らよりもそっちにお礼を言ってくれ。」

「言葉遣い。」


そういったシグルドの脇に、アナが拳をたたき込み、小声で叱る。


「勿論ですとも、気持ちの良い少年、シグルド。我が名に賭けて神への感謝を捧げると、そう約束しましょう。」

「お、おう。その、強制したいわけじゃ、無いからな。」

「だから、丁寧に喋りなさいよ。」

「良いのですよ。敬意を表すには所作が分かり易いですが、その少年にそれを払われるに足る何かを、私は示した覚えもありません、加えて真心があるのは分かりますから。

 それにしても、聞きましたかカレン、この若芽のなんと心地の良いことでしょう。」


話を振られたカレンは、頷きながらも苦言を呈する。


「狩猟者ギルドが、値段を決めるとはいえ、あなた方も名を上げれば、直接物品のやり取りをすることもあるでしょう。もう少し、こういう場に慣れたほうが良いですよ。」

「お、おう。そういうもんか。分かった慣れてみる。」

「そういう事ではないのですが、まぁそのあたりは保護者に任せましょう。」


カレンが頭を押さえたことで、何か悪いことをしたのかとシグルドがそわそわとしだすが、そんな彼にアマリーアがお茶と菓子を進める。

しかし、彼はどうにも甘いものが得意ではないようで、そのまま横にいる少女たちの方へと流す。

そしてそれにカレンが苦い顔を浮かべ、そっとトモエが苦言を呈する。


「その、勧められたものを何の断りも無く誰かに渡すのは。」

「ああ、そうだないい気はしないよな、その悪かった。ただ、こういう甘いのはあまり得意じゃなくて、こいつらが好きだから、つい。」

「分かりますわ。そうね、確か西方からの品があったわね、そちらをお出ししましょう。」


アマリーアがついに抑えきれぬ笑いと共に、控えている使用人にそう告げる。


「少し、重たい話もありますからね。せめて、会話は楽しく行いましょう。」

「ああ。そのような話も出ますか。どちらからと、先にお伺いしても。」


オユキにしてみれば、求める先がどのような相手かは分かっている。

であれば、それが誰かと、そういう話にしかならない。

そもそも何事もなく競りが行われるのであれば、欲しがる人物が、その場で競り落とせば済むのだから。

そうではない、つまり、そこで万が一にも邪魔されたくない、そのような人物がいる、そういう事だ。

後は、それが誰か、それだけの話ではある。


「話が早くて良いことだわ。ただ、そちらの子たちはわかっていないようですから。」

「ええ、ゆっくりとお茶とお茶菓子を頂きながら、そうですね。」

「ええ、せっかくの良い品ですもの。楽しい時間、そのために使うほうが良いでしょう。」


そうして可憐にほほ笑むアマリーアに、平時であればそれも構わないと、そうできるのだが、オユキとトモエには少々急ぐ用事もあるため、少し相手を急かす。


「そうですね。ただ、シグルドたちもこちらの、本教会ですか、そちらへの手紙を預かっていますから。」

「あら、そうでしたか。それに武器も予備が無いのでしたね。

 成程、では今日は改めてお話しさせていただく、その日取りを決めましょうか。

 シグルドさん達も、という事ですが。」

「ええ、私達も水と癒しの神を祀る教会、そちらへ向かう必要がありまして。」

「ああ、そちらが本教会ですわ。」


そう言うと、アマリーアは少し考えるそぶりを見せて、オユキに質問を行う。


「そちら、手紙と用件を果たすのに必要なものは。」

「ええ、持っています。シグルド君は。」

「ああ、手紙は持ってきてる。」

「そうであれば、今からご案内しましょう。工房はすぐにといきませんが、まずはそちらを。カレン。」

「分かりました。」

「では、面倒な話は、道中で少し行いましょうか。私も教会には用がありますから。」

アルファポリス

https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/160552885

カクヨム

https://kakuyomu.jp/users/Itsumi2456

にて他作品も連載しています。

宜しければ、そちらもご一読いただけましたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー アルファポリス
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ