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第139話 領都の中

「その、目立っていますね。」

「まぁ、当然ですね。」


隣を歩く騎士に、思わずトモエがそう漏らせば、彼からは笑いながらそう返ってくる。

始まりの町では見ないほどに、門から続く目抜き通りは、人が多く歩き、軒先で商品を見る者、大通りに面した売り場で道行く人に声をかける者等、活気にあふれていたが、オユキ達が進めば、その後ろ、荷馬車からはみ出た虎の顔を目撃した場所から、沈黙が広がっていく。

屋敷から出たときには、後からきて別の場所へ案内されるオユキ達を見る目に、少々の厳しさもあったが、屋敷から出るころには、そのような視線は無くなっており、殊更視線をそらそうとする者もいる始末であった。


「その、このような言い方は礼を欠くものかもしれませんが、町からほど近い場所にいた魔物ですし、ある程度慣れておられるのでは。」

「町の側には結界があるため、寄ってきませんから。

 だいたい、ゆっくり歩いて、2時間ほどの距離でしょうか、その間は魔物が現れません。

 あと、東側は魔物が強い、森が近いですからね、それもあってまず、町の者は狩りに出ませんから。」

「となると、あそこで並んでいた人たちは。」

「そうですね、壁沿いを移動した方がほとんどです。領都は初めてですか。」

「はい。お恥ずかしながら。」


そう、トモエが答えれば道すがら、騎士が簡単に町の案内をしてくれる。

オユキとしてもゲームでの事などは、うろ覚えであるし、そもそもここまで巨大ではなかったはずだ。

初期の町、始まりの町でさえ、オユキの記憶よりも広がっているように感じたのだから。

騎士の説明によれば、中央に行政区画、その周囲に貴族街、次に富裕層向けの商業区画、居住区と続き、そこから今度は東西南北で分かれるらしい。

加えて拡張の際に残された壁もあり、それぞれの区画へは、町の外を回る必要があるとのことだ。


「壁に門を新たに作ったりはしないのですね。」

「そこは公爵様が常に頭を悩ませていますね。その、うちも人出が不足していますから。」

「町の中であれば、門番も必要ないように思えますが。」

「そうもいかないのが、難しいところなんですよ。

 入り込んだ烙印者が、町中を自由に移動できると、困りますから。」

「門で、止められないのですか。」

「完全には、力不足で申し訳ありませんが。町の中で、新たになる物もいますからね。

 後は、壁を超えたりと。結界はあくまで魔物に対するものですから。」


その言葉にトモエが一つ頷くと、腰の剣に手をかける。

何処とははっきりわからないが、僅かに良くない気配を感じたためだ。

そのトモエを見ることもなく、近づいてきた人物を騎士が叩き伏せる。

そこには顔を隠すようなフードをかぶり、肌を露出させないよう、手袋迄つけている人間がいる。


「御覧の通りです。」


そういって騎士が地面に転がる人物のフードをずらせば、顔の半分を覆う入れ墨を施された人物と目が合う。


「顔を隠すものには気を付けろと言われていましたが。」

「烙印は落とすことはできなくとも、覆ってしまえば、一目では見えませんからね。」


意識は無いのだろう、その人物を傭兵に渡せば、傭兵達が荷馬車から縄を取り出して縛り上げる。


「見つけ次第、可能ならこうして捕縛した後、狩猟者の方でしたら狩猟者ギルドへ。

 門の近くでしたら、私達の詰め所でも構いませんから。

 ああ、生け捕りが難しければ、仕留めて頂いても構いませんよ。」

「生死不問ですか。」

「はい。そもそも更生の余地ありとされている者は、顔に烙印は入りませんから。」


そう言われて、トモエは苦笑いを返すしかない。

騎士がこうしてついているところに、近づいてきた犯罪者がなにを考えていたのかわからないが、まぁ、ろくな事ではないのだろう。

そうして暫く進めば、騎士がここですと、そういって大きな建物を示す。

道に並ぶ商店らしき施設も、始まりの町に比べればどれも大きなものであったが、それと比べても大きく堅牢な石造りの建物がそこにはあった。

そして、掲げられた看板には、見慣れた文字が躍っている。

騎士はそこに入っていくと、受付に声をかけ、用件を伝えると、それではと、そう言い残して犯罪者を担いできた道を戻っていく。


「ようこそ。領都マリーアの東部狩猟者ギルドへ。

 こちらで、受付をしますから、狩猟者の方は、どうぞ。」


そう言われたトモエがオユキ達を呼べば、それぞれ登録証を受付の女性に渡す。

その間にも、傭兵とホセがあれこれと荷物を狩猟者ギルドの中へと運んでいる。


「ありがとうございます。そちらの品の取り分などは、もう決まっていますか。」

「今降ろしているのは、こちらの皆様の分ですよ。残りは傭兵ギルドに。それから、こっちの梱包済みのものですね、こちらは武器の素材にとのことです。」

「成程。そちらの新しいトロフィーは。」

「そちらは別途相談させてください。」

「分かりました、それでは、これを持って二階に上がってください。

 あと、こちらが受領札ですね。後で生産の時に必要になりますから。」

「分かりました。ホセさんありがとうございました。」

「いえいえ、仕事ですから。それと工房の案内ですが、明日以降にしましょう。

 先に宿の手配をしておきますから、決まればこちらに言付けをしておきます。

 そこで、食事をしながら改めて日程の話をしましょうか。」

「なにからなにまでありがとうございます。では、また後程。」


そうして、ホセと別れて、受付の女性に言われた階段を上がると、そこではまた別の受付があり、トモエが用件を伝えると、別の部屋へと案内される。

一目で応接室とわかるそこに入り、それぞれに椅子に座って待つこととする。

少年たちも慣れない場所で疲れたのか、何を話せばいいのか分からなかったのか。

ようやく気が抜けたのか、思い思いに初めて見た領都の感想を話し始める。


「ここまでの町は正直そんな変わんなかったけど、ここは凄いな。」

「ああ。」

「ほんと、壁もすっごく高かったし。並んでるお店もどれも立派だったし。」


そうして、キャイキャイと話す少年たちに、オユキが声をかける。


「しばらくは滞在しますから、町中を見て回るのもいいかもしれませんね。」

「そうですね、戦いばかりというのも、あまりに殺伐とした人生ですから。」


トモエがそう言うと、シグルドがひどく不思議そうな顔でトモエを見返す。


「あんちゃんなら、戦いこそわが人生とか、いうかと思ってたけど。」

「これでも、それ以外の事も好みますよ。

 話たかは分かりませんが、私達は10の神殿を巡ることを目的としていますし。」

「素敵。あ、私教会に行きたいです。旅の無事のお礼を言わないと。」

「そういやそうだ。ばーさんから手紙も預かってるしな。」

「おや、そうなのですか。私達もここは不案内ですが、場所は、伺っていますか。」


そうトモエが尋ねれば、アナが答える。


「えっと、本教会って、言ってました。」

「分かりました、後で尋ねてみましょうか。」


そんな話をしていると、初老の男性が二人ほど人を連れて部屋へと入ってくる。

ノックの音でオユキとトモエが立ち上がれば、それを少年たちが真似をし、三名を出迎えてそれぞれに挨拶をする。

初老の男性が、このギルドの長フレデリック、魔物の素材の在庫管理を行うフランシス、それから会計を担当しているアーノルド、その三名の男性が向かいに座るのを待つと、オユキとトモエも席に着く。

それを横目で見ながら真似る少年たちに微笑ましく思いながら、オユキから話を始める。


「本日はお手間をかけます。」

「なに、嬉しい手間ですとも。」

「改めて、シエルヴォ、ソポルト、プラドティグレは私たちが、グレイハウンドはこちらのシグルドが。」

「成程。」

「それとこちらを、始まりの町、そこの狩猟者ギルドから預かってきた書類です。」

「拝見させていただきます。」


内容は、運んだ素材に関する希望であったり、そういった事が書いてあるとミリアムからは聞いているが、内容の詳細は知らない。

数枚の紙にさっと目を通したフランシスが、それをアーノルドに渡すと、早速とばかりに話始める。


「武器の素材ですか。残りは商人ギルドへとの話も分かりました。事が決まるまで、保管はこちらで請け負いましょう。」

「助かります。それで新しく得た物なのですが、武器の素材としては、如何な物でしょうか。」

アルファポリス

https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/160552885

カクヨム

https://kakuyomu.jp/users/Itsumi2456

にて他作品も連載しています。

宜しければ、そちらもご一読いただけましたら幸いです。

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