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第127話 神の実在

傭兵ギルドを後にした後、別れた少年たちが、何処かおぼつかない足取りで去っていくのを見送り、オユキとトモエは、以前聞いた肉屋へと足を運んだ。


「いらっしゃい。ああ、あんたらか。用意できてるぞ。」

「覚えていてくださったのですね。」

「まぁ、珍しい組み合わせだからな。もう少し早く来るかとも思っていたが。」

「その、河沿いの町まで出向いていたもので。」

「ああ、もうそんな時期か、さてと、今あるのは4種類だな。

 どうする、味見して決めるか。」


店主がそういって、台の上に、4つの肉の塊を並べる。

色も薄い桜色、見慣れたハムの色をしたものもあれば、茶色を帯びた物、表面に香草の類がまぶされているものと様々だ。

そして、そのどれもが、大きい。

前の世界で見た、ハムのブロック、それの倍はあろうかという大きさだ。


「その、随分と大きいようですが、切り分けて売ってもらうことは。」

「ああ、やってるぞ。ま、あんたら二人じゃ、流石に多いよな。」

「宿の方にお願いして、任せてしまえば、大丈夫かとは思いますが。」

「ああ、宿住まいか。狩猟者だもんな。どこの宿だ。」

「渡り鳥の雛亭ですね。」

「あそこか。どうする、重たいだろうから、買ってくれりゃ、こっちで運んでおくぞ。

 あそこの女将は煮込みが得意で、こういったのはまず買わないからな、もってきゃ喜ばせる自信はあるが。」

「そうですね、他にも寄りたいので、お願いしてもいいでしょうか。それぞれ、少し試させて頂いても。」


そうトモエが声をかければ、一口大に四角く切られたものが差し出される。

そのどれも、味は間違いなく良く、そこで出るのは好みの問題でしかないだろう。

見慣れた色合いのものは、やはり慣れた味が、茶色を帯びた物からは、柔らかな木の香りが、それよりも少し色が濃いものは、表面を焼いてあるのか、触感も含めて面白く、向こうであればハムと言わず、焼き豚などと呼ぶものに近い。

そしてもう一つ、香草を使った物。オユキは流石に詳しくなく、爽やかな香りが、油のくどさを、加工の段階である程度落ちて、食べやすくなっていることに加えて、さらに食べやすく感じられる。


「どれも、美味しいですね。お値段は。」

「一つ、ああ丸ごとでな、200だな。」

「では、それぞれ一つづつ貰えますか。」

「毎度。どうする、後で宿に届ければいいか。」

「申し訳ないですが、それでお願いしますね。知人に酒飲みもいますから、良い当てと喜びそうです。」

「間違いないな。」


そういって、笑う店主に後を任せて、オユキとトモエは宿ではなく診療所に向かう。

その道中、時間があれば始めてくる区画でもあったため、他の店も覗こうかなどと考えていたが、既に日が傾き始めていたため、急いで移動することとなった。


「遅くに申し訳ありません。」

「いえ、大丈夫ですよ、おや、手首ですか。」

「はい、それと打ち身にいい薬などはありますか。」


トモエがマルコに尋ねる言葉に、明日からの少年たちの苦難を偲ぶ。

自分も、打ち合い稽古が始まってからは、隙があれば、おかしいところがあれば、ポンポンと、相応の痛みを加えられたものだと。


「今は、無いようですが、狩猟者の方ですからね。

 分かりました。少し用意してきます。手首は、明日には問題ないでしょうが、簡単に処置だけしましょうか。」

「お願いします。」


そういったマルコは裏手に行くと、いくつかの薬を手に、戻ってくる。

そのうちの一つをトモエの手首に塗って、手早く包帯を巻くと、打ち身用の薬、ぱっと見軟膏に見えるそれの説明を行う。

木箱に入れられ、紐で括っただけのそれを示しながら、保存がどれくらい聞くのか、適量がどの程度か、その説明は実に的確で分かり易い。


「患部全体に塗らなくてもよいのですか。」

「それだと使いすぎですね、それで何か問題が出るわけではないので、そのように使っていただいても構いませんが。」

「いえ、馴染みのあるものだと、そのように使っていたので。」

「ああ、そういう物もありますよ。ただ、それだと嵩張るので、狩猟者の方には向かないでしょう。」

「気配りを頂き、ありがとうございます。」


そうして、診療所を後にすれば、すっかり夕焼けとそう呼べる光景の広がる道を、二人で歩く。

傭兵ギルドを出て、正しくは、少年たちを見送ってからだろう、何処か元気のないトモエの手を取り、オユキは歩く。


「あの少年たちに話すとき、神について触れたことを、後悔されていますか。」

「ええ、少しばかり。」

「実在し、実際にその力を振るえる。また善悪の判断に、その価値観に、大きな影響を持っている。

 そんな世界で、教会というまさしくお膝元で暮らしたのです。彼らにとっては、確かに重いでしょう。」

「そうですね。少々軽率、いえ、やはり価値観として、以前のものを引きずりすぎていますね。」

「しかたないではありませんか。」


気落ちして、ため息のようにこぼすトモエに、オユキは殊更明るく話しかける。


「向こうでも、それは避けられませんから。気を付けたところで、そこには気遣いが互いにあるだけです。

 違うからこそ、私達は異邦と、そう呼ばれているのですから。」

「そう、でしょうか。」

「ええ、あの子たちの神に対する考えは、私達では推し量れないでしょう。

 餅は餅屋です。教会の方に任せましょう。そして、後日改めて教会に謝罪にいきましょう。

 それしかできませんよ。今後も教えを説くときに、精神修養も、入ってくるでしょう。」


そう、オユキが言えば、トモエも頷く。

戦うものとして、戦いの場で、持つべき心構え。

最終的には、あの子たち自身が、己の内に固めるものではあるが、それを固めないことを許せはしない。

さもなくば、危険なのだ、あの子たちが、誰か一人、戦場で迷えば、誰かがその負担を被るのだから。

日常であれば、まだよい。関係性の中、持ちつ持たれつ、それで済む。助けられた今回を、助けた前回、もしくは助ける次回で、挽回が効く。

しかし、魔物との戦いでは、命を落とす。そうなれば、そこから先は無い。

戦える力を持ち、戦いに臨む、前の世界では、それこそ心構えでしかなかったが、こちらでは、壁一枚、その向こう側でしかないのだから。


「ならば、どうにもなりません。先ほども示したように、神の教えに背くものではないと、そう示すしかありませんから。

 伝え方がわからなければ、それこそ教会の方を頼りましょう。

 ミズキリも言っていたではありませんか、頼るのは恥ではありません。

 出来もしないことを、出来ると言い張るほうが、恥じ入るべき行いですから。」


トモエの正面に回り込み、両手を取り、そう語り掛ければ、トモエの迷いも消えたようだ。


「そうですね。いけませんね。

 どうしても年を取ると、どうにもできるのだと、自惚れてしまいます。」

「私もそうですよ。なので、私はトモエさんが、トモエさんは私が。

 それでいいではありませんか。」

「ええ、まったくですね。」


そうして、今度は二人で足取り軽く、並んで歩き、宿へと戻る。

フラウから鍵を受け取り、身支度を整え、改めて食堂に顔を出せば、既にハムは宿に持ち込まれていたようで、かなりの量が纏めて焼かれて、机に運ばれてくる。


「はい。おすそ分けですよ。」

「いいの。あ、美味しい。こういうのもいいな。

 あ、お母さんが余ったのはどうするかって。」

「皆さんで食べていただいても構いませんよ、私達では、半分も食べるころには痛みそうですから。

 ああ、あと、トラノスケさんとミズキリが気になっているようなので、二人にも出してあげてください。」

「分かった、伝えとくね。」


そういって、フラウが机から離れていく。


「悪いな。にしても、この町にも燻製なんてあるんだな。」

「干し肉だって、燻していますよ。」

「そういやそうだな。」

「私達も、魔物と往復だけで、町を見回っていませんが、二人もですか。」

「まぁ、どうしても、こっちに来るとそればかりに目が行ってしまってな。」


そして、そんな話をしながら、どことなく慌ただしかった一日が終わっていく。

アルファポリス

https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/160552885

カクヨム

https://kakuyomu.jp/users/Itsumi2456

にて他作品も連載しています。

宜しければ、そちらもご一読いただけましたら幸いです。

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