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憧れの世界でもう一度  作者: 五味
37章 新年に向けて
1222/1233

第1222話 オユキの気分転換に

前日は、どうしたところでオユキにとってはそこまで楽しめる時間ではなかった。

勿論、トモエのためにと妥協のない時間が齎す喜びがあったには違いない。

だが、やはりそれ以上は難しいと言うものだ。

何より難しいことと言うのが、新しく用意された靴。

生前には、トモエも避けていた踵が高くなった靴。

そもそも、オユキの中では来歴が遊女からとなっているため、現状己が頂いている位を考えたときに、一切そぐわないものだろうと考えているというのに。


「やはりトモエさんも極め技の類いは効果が薄いと考えますか」


そして、オユキ自身が気がつかぬ不満にしても汲んだトモエが、日を改めた今日、魔物の狩猟に出ることもなく庭先で、ただオユキと向かい合って。

やはり、オユキはここ暫くのことで、昨日の買い物だけでなく溜め込むものがあったのだろう。

今日は珍しくオユキの方から当て身術の練習をといいだして。


「どのような形で加護が発揮されるのか、それが分からぬ以上は選択すべきとは言えない術理になるでしょう。

「先の事では、アベル様相手に交差方は」

「あの状況であれば、それこそ過去の話をするのであれば、間接を砕けていたはずです」


だが、現実にはそうならなかった。


「私の体躯が」

「そうした不利を潰すための理合いですから」

「とすると」

「私が以前腕を折った相手にしても、そこまでの間に軽く確認を行っていましたから」


当て身術の鍛練を、改めて行うとして。

では、そこに問題がなにも無いのかと言えば、そのようなことは当然ない。

これまでの間に幾度か行ったのは、いよいよ戦と武技から与えられた功績を用いた先での事。

互いに狩猟者としての軽装な着替えて、庭先で。

当然外から見えるようなことはないのだが、侍女たちにはやはり評判のよろしくない衣装で。

更には、当て身術を行う以上はやはり距離が非常に近い。

伸ばされたトモエの腕をオユキが抱え込むように動いた時まだしも、振りほどくためにとトモエが動きを作った時にはいよいよトモエを非難するような気配が一部の、視線に乗ったものだ。


「ですが、そうなると」

「そうなんですよね」


そして、オユキからの質問に対してトモエから返せる言葉と言うのがいよいよないのだ。

流派として、おゆきは既に目録を得ている部分ではある。

だが、そこから先をというオユキの願いは正しく。間合いの利点を生かすと考えたときには、まずこれを選択せよとかつてであればトモエにしても口にしたには違いない。

だが、こちらで改めて魔物相手にではなく、人相手にと考えたときには。


「異なる種族の方々にたいして有効かどうか。その確認を行いたくもありますが」

「流石に実験というのは」

「いくら治るとはいえ、いきすぎていると我ながら」


極め技、絞め技。

どちらも、有効かどうか。

確認するためには、相手が必要になる。

そして技の確かを試すのであれば、その先に待つ結果は実験対象の悲劇でしかない。

流派における極め技とは文字通り、関節であれば折るか外すか。首を狙うのであれば、小刀を併用するのか、もしくは首そのものを折るか。

その様な技であるため、過去にしてもいよいよ練習などトモエにしてもその手前までしかできていない技。

今も、オユキがトモエに対して仕掛けようとした動き、それを見てトモエがわざと許したうえでこうして声をかけている。

言ってしまえば、流派で方の中に基本として含まれる直突き、同じ向きの手足を同時に動かしてまっすぐに相手に向けて己の拳、ないし掌打を突き込む技。

それに対して、オユキが選んだのが、生前から体格に差がある時には有用だとトモエが伝えていた関節技。

その言葉にしても、かつてのオユキも物理学的には正しいのだと考えていた技。

周囲からの目線が厳しくなっているのは、何も距離が近いばかりではない。

鍛錬用と言う事もあり、今は袴を着ているオユキ。足元は、流石に昨日の履きなれないハイヒールではなく。どちらにせよそこまでの慣れがあるわけでもないのだが、こちらも厚底のぽっくり。

その様な衣装で、オユキに向けてまっすぐに伸びたトモエの腕に、今は両足を絡めてぶら下がるような形。

今となっては、極端な身長差があるため、本来であればまっすぐ突き込むはずが、少々上から下へと打ち下ろす形になっていたこともある。

顔を狙えば、それを避けることもできるのだが、当身である以上的が小さい場所を狙う意味というのが途端に薄くもなる。だからこそ、オユキの胴体を狙って角度をつけて伸びてきた手を、オユキは改めて抑え込むようにして。

そして、ついでとばかりに飛びついてみたわけではあるのだが。


「あの、トモエさん」

「これがただ体重差というだけであれば、オユキさんの言葉も最もとは思うのですが」


そして、次にへと動きを作るための、牽制の意味も大きい。

要は、次に動きやすい、動く前提のある体制でもあるため、本来であればバランスを崩しやすい、オユキにとってはそのような物ではあるはずなのだ。


「ええと、体重の配分は、こちらではなく、後ろですか」

「ええ。正直な所、このまま半日程度であれば、どうとでもなる事でしょう」


一体どの程度負担が無いのか、それを示すためにトモエがそのままぶら下がるオユキごと上を軽く上下に動かして見せる。

それに対して、オユキとしてはもはや苦笑いしかない。

先程から、トモエの手首に加えて、肘関節を決めてくれようと動いているのだが、それにしても全く効果が見られない。

まるで、鉄棒に絡まっているだけだと、そうした印象しか手ごたえがオユキに返ってこない。


「アベルさんには、交差法も効果があったはずなのですが」

「あれは、また区分が違いますし」

「いえ、物理学的にはそこまで差異があるわけでも、いえ、確かに速度から生まれる物、力を加える面積や時間を考えれば」

「ええと、そのあたりは私にはよく分かりませんが」


そうして話しているうちに、オユキの髪がほどけそうになっている、オユキ自身の意志でいっそ髪も使ってみようか等と、そのように考えて動き出す素振りが見られるために、トモエはこの辺りで切り上げる事とする。

オユキがそこまでなりふり構わぬ真似をするとなれば、今は苦々しげに見ているだけの侍女として振る舞っている近衛たちも止めに入ってくるだろう。

そうした振る舞いを行うために、トモエとオユキが戦と武技から与えられた空間もある。

人目の多い、慣れていない者たちの目も多いこの場でやるのではなく、そちらで行うようにと言われればトモエにしても否定のしようがない。

マナを使うから、そうした言葉をオユキは零すのだろうが、そもそもそのようなマナも捻出できぬ、明確に体調に不安を抱えているというのであればまずは療養を行えと容赦なく指摘されて終わる事だろう。


「さて、このような塩梅ですので、オユキさんは基本として寸鉄を帯びるのが良いかと」

「その、以前から、いえ、こちらに来てからトモエさんに勧められていますし、私も嫌いではありませんからこうして持ってはいますが」


そして、振りほどくことも無く、只するりとオユキの極め技からトモエが腕を抜いて。

オユキにしてみれば、トモエの服の袖をつかんでいたはずではある。だというのに、どういった理屈なのか実にあっさりと腕が抜かれてしまう。

前にも話に聞いた衣服を掴まれている場合の対処方法。

己の手で、己の衣服を引っ張ることで、相手がつかんだ居るだけの余裕をなくすという技術。

それが行われたのだろうとは、オユキにしても理解が及ぶ。

だが、それにしては己の手に帰ってくる反動が少ないなと内心では疑問に思いながら。

己の体を支える物が急に無くなったとはいえ、それでも己の手から、要は上半身からゆっくりと地面へと向かう流れを作られたために、そのまま地面に手をついたうえで、軽く体を回してトモエの正面に改めて。

そして、言われた言葉に袂に仕込んである寸鉄を取り出して見せる。

本来であれば掌からこぼれる程のサイズ。十六センチほどではあったはずなのだが、トモエがオユキ用にと用意した物はその半分とまでは言わない程に小さなもの。

勿論、今の矮躯を誇るオユキの掌からは余るのだがトモエであれば隠れてしまう程の大きさ。


「当身の際に使う方法は、父は既に」

「暗器術の範囲ですので、その、一応簡単には」

「では、そちらの確認から行いましょうか」


ただし、オユキが習った方法というのはやはり数が少ない。

掌に握りこんで、振り下ろす拳からわざと少し出して。掌打と見せかけて、押し付ける。

そうした使い方を、習った型に合わせてトモエの前で行って見せる。

だが、どうにも、トモエのほうでも色々と心当たりがあるらしい。

つまりは、かつてのオユキの様子を見た上で、父がそれでもとオユキに伝えた事。そして、目録を父が与えなかった以上は、明確に抜けている技術というのも、やはり存在している。


「やはり、父は極め技の補助としての扱いは、教えませんでしたか」

「極め技、ですか。いえ、締め技の際に使うというのであれば、想像もつきますが」


もう少し先をとがらせれば、締め技が成立する距離になった時にでも、わざわざ己の腕力や相手の体重、己の体重などに頼る必要もなく、相手の喉を割いてしまうのも良いだろう。

こちらでも、多くの生き物は血液が流れている。

かつてと違って、何を運んでいるかまではオユキもとてもではないが把握できる物ではない。

だが、それでも先ごろ、あまりにも流血が酷かった結果としての自覚がオユキにはあるため、そうして相手から明確に生きるために必要で煽ろうものを流させるというのは、確かに一つではあろうと、そのように考えている処に。


「いえ、極め技です。こちらの補助としても、使えるものですし、当流派ではそちらが本義とでも言いましょうか」

「極め技に、ですか」


今一つ要領を得ないというオユキに、では早速とばかりにトモエが実戦に移る。

極め技として、己の体だけで花難しい。そうであるならば、武技、もしくは明確な加護をと考えるものではあるのだが、それ以外の工夫もやはり伝えておかねばならない事ではある。

暗器術、目録を得るためにと習っているオユキではあるのだが、何分数が多く他を今は伝えているために、どうしたところでオユキがある程度の知識を持っている素振りを見せる物に関しては後に回してしまっているのだから。

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