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憧れの世界でもう一度  作者: 五味
37章 新年に向けて
1212/1233

第1212話 問われては見る物の

困ったことでも言えばいいのだろうか。

アベルから告げられた言葉に、トモエとしても改めて悩みというのが生まれてくる。


「正直な所、洋装での物にも憧れはあったのですが」


どうやら華と恋からの試練らしい新郎に対して課される贈り物。

特別な日に、特別な物を用意して見せよという試練。そして、容赦なく思考を暴く事の出来る神だからこそ、その評価は確かに何処までも簡単だろう。さらには、神国ではこれが当然の事となっている様子でもある。来歴はそれこそ王祖が己の伴侶にと贈ったことから等と言われているのだが、それにしても怪しい物だとトモエは考えている。

マビノギオンを原典に持つらしい、今となっては門番という存在のあの人物。建国神話に多くある様に、その伴侶にと迎えたのは言ってしまえば人以外。こちらではそうした種族も間違いなく存在するのだろうとは考えるものの、原典の通りと考えればいよいよ何でもあり。それこそ、トモエの記憶にある範囲では妖怪と同じものだという感想しか出て気はしない。


「ああ、成程」

「どうかしたのか」

「いえ、少々考え事の結果、得心のいくところがありましたので。それと、アベルさん。アイリスさんはそうした単色の物は好みませんよ」

「そう、か。だが、複数の色の組み合わせとなると、あいつが衣装に選ぶ色によっては」

「それくらいは、日々の会話で、いえ、そういえば未だに当家に避難していましたね」


アイリスにしても、ヴァレリーと共に未だにファンタズマ子爵家にいるのだ。そこで、色々と細かく話を持てというのも、確かになかなか難しいだろう。実際には、ファンタズマ子爵が王都て使う邸宅として、マリーア公爵に貸し与えられている屋敷でしかないこともある。特に、武国の者達からの面倒を避けるために、先の闘技大会で確かに不心得者の一部は改善が見られているのだが、どうにも未だに軟禁したうえで国に送り返す予定の者達もいるらしい。そちらに関しては、今も神国の第一騎士団、言ってしまえば近衛で構成されている団が実に容赦なく監視の上で取り囲んでいるという話らしいのだが生憎とトモエもオユキも近づく事すら許されていない。


「迷惑をかけているとは、わかっちゃいるんだが」

「そこに、クララまで、ですからね」

「イマノルさんとクララさんに関しては、私からお呼びさせて頂いたわけですし」


少女たちからの、密告というのも可愛らしい物ではあるのだが。要は、クララが今のままではリュディにすら合格点をもらえない状態だという話を聞いて。そこで、トモエはオユキが止めるのも一切構わずにマリーア公爵夫人に諮る事とした。


「口実としては、オユキさんの事もあったので都合が良い事もありましたから」

「巫女様、いえ、オユキさんを口実に、ですか」

「はい。どうにも、オユキさんはデビュタントには一切乗り気でないようですから、そちらをクララさんに、年が近く位も子爵家当主という差はありますが」

「そういや、それもあったか。騎士団に入ってくる前は、確かにあいつも一応は合格が出ていたんだったか」

「懐かしい、ですね。そうでしたね、確かに、私はその時に」


さて、トモエの作った言葉に、何やらイマノルの中で明確に指針が決まったのか先ほどまでのように勧められる商品の中から消極的に、そうした目の色が消える。どうやら、その時に改めてイマノルからクララを騎士として身を成そうと誘ったのか、ついてきてくれと声をかけたのか。その時に、この色々と足りないところのある青年が改めて何かを渡したのか。


「話を聞くだけなら、シェリアがいるだろうが」

「シェリアさんは、こう、どういえばいいのでしょうか」


クララよりも若いというのに、近衛として既に身を成している相手だ。そもそも、王家の近衛、それも王妃に認められている人間等と言うのは間違いなく上澄みどころの話ではない相手だ。その場での振る舞いや、貴族としての振る舞いを聞いたところでそれを片手間で済ませるだけで十分だった人物の言葉等と言うのはいよいお当てになりもしない。そして、本人がそれを当然とできてしまったため、何故ぢきないのかが理解が出来ない側の人間なのだ。

オユキであれば、理論立てて話をすればまだついていけるのかもしれないが、生憎とシェリアからなされる説明等と言うんのはいよいよ感覚に完全によってしまっている。オユキをして、シェリアは教師役には向かないと言わしめるほどの人物なのだ。これに関しては、近衛としての教育を施したタルヤまでもが苦笑いと共に受け入れている氷菓ではある。本人を前にして、オユキが放言したその場でシェリアはこれまでにも散々に同じ言葉を言われてきたものだと平然と笑い飛ばしていたものだ。そして、そんな姿にタルヤとトモエのため息が重なったりもしたのだが。


「まぁ、あいつは確かにな」

「レイン家の才女に関しては、私も噂だけは耳にすることはありましたが」

「まぁ、数年とはいえお前とクララの下だからな。そんな人間があっさりと近衛にまで上り詰めたんだ、そりゃ少しは聞こえてくるだろうよ。お前らも、その頃には俺の後をついて回ってたが」

「始まりの町にまで、聞こえてきましたからね。正直な所、今オユキさんの側にというのがどうにも」

「シェリアさんよりも数年上となると、イマノルさん、よくもクララさんをそこまで」

「それは、言わないでいただけると」


実際に年齢をそれぞれから聞いているわけではないのだが、クララにしてもどうやらリュディとは少し年齢の離れた姉妹であるらしい。母親が同じかどうかまでは、流石にトモエとしても聞く気は無い。振り返ってみれば、確かに姉妹というには少し似ていないか、等と考えもするのだが、そのあたりはトモエが未だに合って話していないレイン家の当主のほうににているのかもしれないと一度おいて起き。


「オユキさんが和装での婚姻をと言われると、途端に準備をする物が増えるのですが、さて」

「そういや、お前らのところでとなると、どんなもんなんだ。王太子殿下は、そのあたり随分と乗り気なんだが」

「こちらでの形に近い物は、それこそヴィルヘルミナさんやアルノーさんの物となるでしょうが、神への誓いという意味では、確かに私たちのほうがとも」

「形と内実が異なるのか」

「かつての文化でいえば、その、正直な所私が知っているのはあくまで私たちの国に持ち込まれていた物だけでしたから、実際にはお二方に尋ねて頂くしかありませんが」


その時には、トモエの憧れとでも言えばいいのだろうか。寧ろ、オユキが招待を考える相手、トモエが呼べる相手。そうした相手というのが、何処まで行っても身内ではあったのだが親類という意味ではいよいよ数が少なかったこともある。神前式であるには違いないのだが、ガーデンパーティーのような形式で行うには、トモエの希望を叶えるためには和装で行うものよりもとされた形を結局は選ぶことになった。トモエとしても、常々和装をしていることが多く、なんとなれば鍛錬は当然のように袴で行っていたこともあり形として、実際には足を通すために袋のようになっている部分が無いものであるため、全く異なると呼んでもいい物ではあったのだが。


「あの子達にも、話さねばなりませんか。いえ、司教様、司祭様であれば知っていそうな気もしますが」

「そのあたり、式次第に関しては王太子妃からのと言う事で、今頃オユキに相談が言っているんじゃないか。いや、だから、そこで話が戻るわけか」

「そうなんですよね」

「あいつはそうしたことに理解が有るというのは分かっちゃいたし、誤解を招いてるってのが本当にわかってるのかわかってないのか」

「内実も取りますので、形式主義というのもまた異なります。私の記憶にある言葉でいえば、近代に提唱された儀礼主義というのが、少し近いかとは思うのですが」


ただ、それにしてもまた難しいと言えばいいのか。


「恐らく、以前の物と異なる形、オユキさんの中では異なる方法とできるから私が喜ぶだろうからと、随分と張り切ってしまいそうなのですよね」

「それは、寧ろお礼をしたい側としちゃ願ったりかなったりだが」

「全く異なる文化、これまでになかった儀礼。それを行うのに、果たして十分な期間があると言えますか」


トモエの至極もっともな疑問に、アベルはただ何を言うでもなく遠くを見る。

成程、生前にオユキも度々このような顔を働いている間はしていたものだが、彼にしても同じような経験を共有している物であるらしい。ただ、そうなってくると。


「私が選ぶものは、今ご用意いただいている物の中には、なさそうですね。金属製というのも悪くはありませんし、そうした文化もありましたがそれにしても銀製品は少なかったわけですし、貴石や木材のほうが一般的でしたから」

「お前がオユキに常々用意している物が」

「あれらにしても、代替とでも言えばいいのでしょうか。ただ、オユキさんとしても儀礼として行う事を考えれば結納をと言い出しかねませんし。そうなると、親となるのは私のほうを公爵夫妻とする心算でしょうか」

「何を言っているのかは分からんが、あいつのことで色々と心配があるのは分かった。そのあたりは、俺らにじゃなくて、是非とも公爵夫人と王太子妃との間で話をしてくれ」

「それも、そうかもしれませんが」


アベルが、実に投げやりに言い出すものだが、正直な所トモエとしては其処でも心配があるのだ。


「その、アベルさんも、是非とも努力をして頂かなければ」

「俺が、か」

「はい。私は、まぁ、殿方であれば、そうしたこともありますかと流せはするのですが」


オユキは、困ったことに己の気が付くことなどというのは他が気が付いて当然と考える。過去では、そこでも己を調整するだけで済んだような事柄なのだが、こちらでのオユキはとてもではないがそうもいかないのだ。今、まさにイマノルがトモエの言葉も耳に入らない様子で何やら非常に単純な造りの銀の腕輪、それを二つ選んで商人にあれこれと細かく注文を付け始めているのを眺めながら。


「オユキさんは、戦と武技の巫女でもあり、どうやらあのアイリスさんの祖霊もオユキさんを依り代とできる相手もいますので」

「おい」

「私が、以前に一度少しはと話していますが、そこでも随分と不満そうにしていましたから」


オユキが、実際には表層としても根の部分としてもそれなりに違いがあるというのに、トモエによく似ていると考えているアイリスという娘。そう、文字通り、何処かオユキがそのような考えを持っている相手。その相手に対して、オユキの考える無作法があった時に、間違いなくアベルに対して課される試練というのがとてもでは無いものに変わるというのはトモエにしても想像に容易いのだから。


「オユキさんも目にする場でとするのは、正直私としても避けた方がいいと思うのですが」


そして、アベルがオユキの目から見て醜態と呼べるものをさらすたびに、オユキの思考はまた傾いていくことだろう。ともすれば、アイリスの熱を冷ますほどに冷たい風として。

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ツギクルバナー アルファポリス
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