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憧れの世界でもう一度  作者: 五味
37章 新年に向けて
1209/1233

第1209話 婚礼衣装の用意

「オユキ、聞いていますか」

「一応は」

「まったく、実に気のない返事を。それに、ラスト子爵子女も」

「私のほうは、その、先達にある程度習おうと考えていたのですが。どうにも、ウニルではそれも難しく。家を頼るのがまずは筋ではないかと断れることも」

「それは、確かにそのように応えるものですか。しかし、寄り親を変える、いえ、変えたばかりだからこそという側面の問題が改めて出ましたか」


王都にて、今は生活している。

どうしたところで、魔国へと足を運ばなければいけない日もあるだろう。始まりの町に戻って、それがなかなか許されない状況が続いていることもある。何より、武国の狼藉者達への仕置き、その結果が明確に出るまでは、始まりの町にそのような物たちを引き連れていくような、そうした判断というのはやはり色々難しい。

つまりは、どうしたところで王都で逗留をしなければならない、特に新年に向けての事があるために、年の瀬に向けて行わなければならないこともあるため、王都で暮らさざるを得ない日々が続いている。要は、門が安置されている神殿が近く、基本としてマリーア公爵の代わりに王都の屋敷を一人切り盛りする公爵夫人が暮らしている場が近いのだと、そういった状況が現在。

そうして、そのような場所で暮らしていれば、報告であったり相談であったり。相も変わらず、王太子妃から定期的に送られてくる引き抜きの言葉が躍る手紙など、そうした物への対処は容易になる。反面、こうして少年たちに話した結果としてトモエが問題があると判断したこと。それが実に手早く整えられてしまう。


「以前に、こちらの政治に配慮する形と申し上げたと思うのですが」

「貴女にそこまでを行えとは言いませんとも。それに、一応はかつての世界で経験がある事、そうとでもしなければ」


言ってしまえば、とてもではないのだが儀式としての婚礼というのを、オユキは行えるはずも無いと公爵夫人による判断がなされているらしい。


「体を動かす事であれば、型として」

「そのように硬い動きを、はたから見て決まり事とされている動きを行うだけで」

「ですが、その場合は王太子様ご夫妻は」

「あちらは既に一度終えています。今回の場では、改めての婚礼を行うのではなく、新たな子供と、今後も変わらぬ関係性、今後も進めていく関係をと」

「新たな、子供、ですか」

「失言でしたね、忘れていなさい」

「それは、流石に」


公爵夫人にしても、オユキにもはっきりと理解が出来る様に話した、それよりもクララでも理解が出来る様にと明確に意図をもって話した事。今も衣装合わせとして、一体どこの誰から習ったのかオユキに白無垢と呼ぶには色々と不足もあれば、形もおかしな衣装を着せようとしている公爵夫人の侍女。翻って、こちらは桃に近い柔らかくそれでいて華やかな色合いのドレスを、慣れた者とばかりに着せられているクララ。その二人を、衣装合わせの前のそこまで短くも無い時間の中で婚礼の儀における動きを採点していた人物がまさに苦虫を噛み潰したような顔で。


「式次第としては、王太子ご夫妻は、貴女達、今度の事は広く民にも開かれるために盛大に、それこそ多種多様な形で行われる物であり、いえ、そちらは置いておきますがそれが終わった後に改めてとのことです」

「その、まさかとは思いますが、選択を許容されるのですか」

「華と恋の教会から、司祭の進言がありましたから」

「それは、その、申し訳なく」


元より、オユキの中では華国ラフランシアからの手助けを借りた上で、トモエとの式をと考えていたのだ。だが、トモエがそちらに難色を示し、ではトモエが思う相手にと相談してみたところ実に簡単に承諾をされたものだ。つまり、そこでオユキの中では少々どころではなく、あまりにも明確に優先順位が下がったのだ。なんとなれば、声を懸けなくても良いのではないかと。寧ろ、こうして身内の事として済む、そうした形を確かにトモエも求めているらしいこともある。ならば、今回に関しては、どうしたところで頼まなければならぬ相手、それ以外はもはや声をかけずとも良いのではないかと。そうしオユキの心情の変化、それに容赦なく気が付いて見せたからこそという物だろう。

生憎、今となっては少年たちはトモエから正式に頼んだこともあり、始まりの町に報告に戻っている最中。入れ替えと言わんばかりに、クララが来たのがつい昨日の事。イマノルのほうは、こちらはこちらで流石にもうしばらくはウニルの町で先代マリーア公爵に領地経営、統治という物をレジス候と共に学ばなければならないと言う事らしい。

実態としては、新郎としての心構え、振る舞いというのをそちらで徹底的に叩き込まれているのだろう。トモエがそちらに連れていかれていないのは、トモエが既に最低限を身に付けていることに加えて、オユキの側から放すわけにはいかないとそれが既に周知の事実となっているから。


「それにしても、私の知っている物とは、かなり違いがあるのですが」

「オユキの知る物、ですか」

「はい」


何やら、完成とでも言えばいいのだろうか。

随分と不足極まりない、どうしたところでそう感じてしまうものだ。


「その、どなたが語ったのかは相も変わらず分かりませんが、白無垢とは言ったところで、そこには様々な物があります。由来といいますか、元来はその言葉のままに、只白一色の装いを差す物ですから」


そう、神前式、和装での婚姻で行う際に着る物も含まれる、そうした物でしかない言葉なのだ。


「最近では、私もすっかりと寝巻としている物もそうですし」

「オユキ、よもやとは思いますが」

「はい。正直な所、今のようないよいよ一重の物であれば、寧ろそちらに近しいと言いましょうか」


そして、そもそも和装としての正装を行うのであればまずは肌襦袢、その上にオユキが近頃寝る時にはトモエに着せられている浴衣によくにた長襦袢、加えて掛下を。そして、その上に漸く振袖をという流れになる。それが白一色であれば、白無垢と呼ばれるものとなるし、その上からさらに色打掛を羽織ることもあれば、そもそも振袖自体に色がついていることもあるのだとそうした話を行う。


「つまりは、オユキにとって」

「正直、洋装、その、こちらでの衣類と変わりません。形だけをまねている、そのように」


公爵夫人が、あまりにもはっきりと落胆の色を浮かべて。


「その、エステール。確か、トモエさんが、正式な和装の用意をしていたかと」


そして、あまりにもあまりな様子に、オユキから助け舟を出す心算で。

そうしてみれば、主人に声をかけられたからとすぐに話すことなく、きちんと一度公爵夫人、主人の主人でもありこの場の一切を用意して見せた人物に、きちんと目線で確認をとった上で。この辺りの所作を、エステールはきちんとオユキに教えているのだとそれを示すかのように分かり易く。勿論、雇用主としては一応オユキにはなる物の、実際には公爵夫人から子爵家の女当主とはこうした振る舞いをするのだという教師役として、公爵夫人に色々と言われていることもあるだろう。事実、オユキも一応内容は全くもって気にしていないが、やり取りがある事を把握はしている。その量や頻度だけでも、察せる物がある、というよりも分かる様にエステールにしても公爵夫人にしても行っている。


「その、それなのですが、オユキ様。どうにも、試作としていくつかは完成しているのですが、トモエ卿からはなかなか良い反応が得られず」

「私からも、簡単に設計周りの図面は起こしたはずですが」

「どうにも、こちらの職人たちでは初めての物が多いとのことで。中に、一人手を挙げたものが居るとのことでしたから、そちらに今は任せてみてはと」

「手を、ですか。そちらは、よもや」

「確証はありませんし、トモエ卿も、私も知己を得ておりませんが、恐らくは」

「王都には、確かに他にもと言うものですか。そちらの仕上がりを、改めて公爵夫人にご確認いただいても」


オユキがそうして伺いを立ててみれば、しかしそちらはそちらで難しい顔。


「日が、足りるかどうか」

「その、衣装の合わせを、こんな時期から本当にやらねばならないものなのですか」


ただ、こうしてもはや数時間以上、オユキの体感としてははっきりとそれ以上の時間がたったように感じるほどに、着せ替え人形の役割を全うしてみれば。どうしたところでまだ二月は先にある新年祭、それに向けての衣装を今から用意する必要が本当にあるのかと疑問を覚える。

少々己で刺繍を嗜んだところで、和装に限らず盛装を仕立てるのにどれほどの期間が必要かというのはどうしたところでオユキにとっては。


「オユキ、貴女、まさかとは思いますけどここまでの間の事を」

「此処までのというと」

「貴女の衣装に施さなければならない刺繍、教会の監修を経なければならない立場、よもやそうしたことまで」


公爵夫人に、一番分かり易い、オユキでも理解が出来るだろう部分を強調されてしまえば、オユキとしても確かに頷かざるを得ない。だが、それにしてもいくつか抜け道とでも言えばいいのだろうか。


「いえ、赤ふきとすることもできますし、筥迫や懐剣、あとは末広、扇ですがそうした小物を緋色にすることもできますから」


実際には、紅梅色と呼ばれていただろうかと、そんな事をオユキは記憶として辿りながら。

だが、そのオユキの言葉に公爵夫人が随分と笑みを深くする。


「オユキ。己の衣装だというのに」

「その、そちらに関しては、以前にお話ししましたが」


そうして公爵夫人に迫られたところで、オユキは以前にもこちらの政治に配慮すると、そう伝えたはずだとそうとしか返せないのだ。


「いえ、貴女にしてみれば先の発言が、そのままを示していると言う事なのでしょうね」

「その、私の発言のどこかに、こう」


オユキとしては、一体公爵夫人が何をと、そのようにし返せない。少し考えてみれば、いくらか思い当たることもあるのだが、そうした当てこすりをするような人間だと思われていたのかと、オユキとしては甚だ疑問を覚えてみるのだが。


「いえ、どう言えば良いのかしら。基本的に衣装に興味はなく、というよりも己を飾る事を望まぬ割にはと、どうしても。トモエとのことである以上、大事だと考えているのは分かるのですが。そうなると、こうした形式の衣装を用意するとして、オユキからトモエの衣装に求めるところは何か」

「そう、ですね」


公爵夫人から、まさかと、表情がそれをまざまざと語っているのだが、まさにそのような声音で尋ねられて。オユキからは、己が求めるとすればどういう形なのか、それをただつらつらと。

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