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憧れの世界でもう一度  作者: 五味
36章 忙しなく過行く
1205/1233

第1205話 トモエの反省

「つまるところ、私は喜んでしまっているのです」


オユキに変わり、オユキの成果を。オユキが、巫女として己を捧げる事で得られる対価。それを、伴侶でもあり創造神の功績を持つからこそ切欠としてトモエが向かえば問題なく得られるものでもあるだろう。事実、そのように考えて向かってみれば、一体いつからと、ついついその様な事も考えてしまうものだが、教会の中には風翼の礎がきちんと安置されていた。

後はこれを、それこそローレンツに預けて新年祭までにどうにか華国へと。生憎と、そちらはいよいよ没交渉でもあるため、アルゼオ公爵やクレリー公爵のどちらかを頼った上で更には細々と行われていただけの物を、今後は大々的にとしなければならない。少なくとも、神殿からは間違いなくトモエとオユキ、というよりもオユキの要望をかなえる形の人員は送られて来はするだろう。その先、そこから先の事に関しては、いよいよ政治的な思惑が乗るだろうからトモエに理解が及ぶものではない。

そんな事を考えながらも、目的の者は置かれており変わらずトモエが触れれば動かせるようになるため後は運搬の算段を、それこそ運び出すときにはそのままとなるだろうから一旦はこの場にとその様に話を纏めて。

そして、そうした話をするためにと案内された先。

マルタ司祭とエリーザ助祭、すっかりと顔なじみと呼んでも問題が無い相手ときちんと時間を取ろう、前々からオユキに戦と武技の巫女として、彼の神がどのような物であるのか。逸話や、種々の祭りに関して話をするだけの時間もねん出できるようになったのだとそうした話を聞きながら。

そして、そうした折に、どうしてもトモエから滲む物があったからだろう。

何か、悩みでも、オユキに関して少々心が重くなる事でもあるのではないかと、そう水を向けられることとなった。


「それはそれは」

「生前からの事でもあり、こちらに来てからも。それを思えばこそ、もう少し、どういえばいいのでしょうか」

「いえ、仰りたい事は分かります。その、どうにも私は言葉で語るのが得意ではなく」


悩みがあるのは事実でもあり、オユキに散々に周囲に甘えろと言い続けているトモエがそれをしないのもどうかと考えて。生前の性別と同じ相手、そういった気安さもあり、勿論それ以外もあるには違いないのだがここ暫くの悩みを口にしてしまう。実のところ、カリンやヴィルヘルミナにも気が付かれているという理解はあるのだが、後者はともかく前者は寧ろオユキへの挑発のため、トモエへの挑発に使うそぶりを見せるため相談するのも難しい。そして、後者に話すという手段も選べないのは、なんと愉快な事でしょうとばかりに曲に仕立て上げられても困るのだ。オユキは勿論の事、トモエにしても流石に気恥ずかしさくらいは覚えるのだから。


「いえ、順序の説明がありましたね」

「言わんとするところは、およそ察することもできますが」

「司祭様は、そうなのですか。生憎、私は頼まれている準備に関わる事かと」

「それも間違いではないのでしょうが、当教会にしても迷えるものの前に閉ざすべき門はありませんとも。少し、感づいておられるようですが、私は司祭として勿論」

「告解の秘蹟を修めておられるのですね、であるならばその、少々恥ずかしい身内の恥と言う訳では無く、私自身の事となりますが、少々お付き合いを下されば」


つまるところ、トモエはオユキを大事にと、それを勿論念頭に考えている。

だが、実際の行動を己で振り返ってみたときにどうだと首をかしげることが、実に多い。

今もこうして、病床に臥せるオユキを放って、建前となる仕事を持ち出してこうして外に出てきている。必要な事なのかと言われれば、かつて己がローレンツに対して、新しく生まれた子供を抱える家庭に配慮を見せよといったのがどの口かと、そう言わなければならない程に今の振る舞いは矛盾している。

オユキは、ローレンツに、彼に付き従う騎士たちに急がせればそれでよいと言う。そして、その裏には、どうしても頼まなければならぬ以上、離れる期間が短い方がいいのではないかと、以前トモエが見せた振る舞いに対する配慮としての事がある。

他の行動にしてもそう。

オユキが、これまでトモエと暮らす中で更新してきた価値観。こちらにあるためには、トモエにとって心地よい物にと考えての振る舞い。少し前には、確かにトモエが伝えたはずの事。

それらを、ここ暫く尽く翻して見せている。


「その、つまり、トモエ様はオユキ様の事を試されて」

「いえ、そうではありません。そうであれば、どれだけよかったでしょう」


エリーザ助祭の言葉に、トモエは少々力なく首を振る。

部屋の外には、変わらず人の気配。側には今回の事を頼むと決めているローレンツに、その姪でもありオユキの思考というのを良く汲むようになってきているシェリア。外にいるのは、結局そこまで身内意識も無く、踏み込むことを許してもいない護衛ではあるのだが。


「先の言葉に戻るのですが、どうしようもなく、嬉しいのです。オユキさんの嫉妬であったり、私の為にと考えての行い全てが。どうしようもないほどに、いとおしいのです。そうした振る舞いが、いじらしさが。かつては、やはり今のような強い物では無かったので」


どうしたところで、過去のオユキのトモエに向ける感情というのは。トモエが求めている物ではあったのだが、結局のところ淡い物でしかなかった。老境に至っては、互いにそれが当然となり満足もしていたものだが、それ以前を想えば、こうして改めて体が若くなってしまえば。


「身を焦がす、夏の日差しを、偲ぶほど。それほどの熱を、私に向けてくれている。その事実を、私はどうしても」


そう、トモエはどうしてもそれを喜んでしまうのだ。

そして、オユキを何より大事にしなければならないというのに、それがうれしいのだという事実がどうしたところでトモエにこうした振る舞いを起こさせてしまう。


「心身の制御を至上とする流派ではありますし、皆伝の身としてまさに恥じ入る想いです」


故に、トモエはどうしたところで気落ちする時間というのが増えてしまう。そこで、オユキに誤解を与えてしまう。

トモエの気落ちの原因は、特にここ暫くの間での事はオユキに由があるというのは事実だが、オユキが思うようなものではないのだ。


「オユキさんに、オユキさんの武に、私の隣に立つためにという研鑽に失望など無いというのに。では、それを伝えてしまったときに、私のこうした醜い部分を改めて伝えるのかと考えると」


オユキが最も恐れていることは、己の隣に立つに相応しくないとそうトモエに判断される事。何より、トモエの私生活というのが武の道とは切っても切り離せないために、ここ暫くの事で陸に体も動かせていないという事実がオユキを苛んでいるのは、トモエにはよく分かる。

今日にしても、種族の長としてセツナがそうしたオユキの振る舞いを受け止めた上でどうにかしてくれようと、そうした風であったため任せて出てきてしまっている。


「どうにも、言い訳ばかりが心に先に立ってしまい」


そして、トモエのこうした振る舞いの根底には生前と逆の立場になったのだと、そうした言い訳が存在している。

まったく、過去のオユキ、その周りにミズキリという男が女性を置くたびにトモエの心に立ったさざ波どころではない、暴風の如き感情を今オユキが感じているのだろうとそんな暗い喜びすらトモエの心にある。


「お話は分かりました。されど、それを罪と断じることが出来る物はやはりいないでしょう」

「私自身が、いえ、それについてはオユキさんの語るものと同じですね」

「ええ。そう言うものでしょう。やはり、創造神様より与えられた功績、互いではなくいよいよ一つに見える者として。成程と、そう思えるお話でした」


比翼の鳥も、連理の枝も、まじりあって、一つに。これでオシドリではないあたりに、あのかつての世界の造物主というのが良くも見定めた物だとトモエとしても理解が有る。

こちらの神職の者達の語る言葉、創造神、それが差すのはなにもこの世界におけるその柱ばかりではないとトモエが気が付いたのは、さていつの事であっただろうか。オユキとトモエで、あまりにも見え方が違っているらしいものがある、それに気が付いたところからであっただろうか。オユキにも澱を見て伝え得ているはずなのだが、どうにもまだ早いのか伝わり切っていない様子。


「ですから、私からいえる事はやはり一つしかありません。頂いた功績、それに恥じぬ様に正しくお二人で話をされるのが良いでしょう。トモエ様も既にお気づきでしょうが、オユキ様の考えている物もあります。そちらまでは、もう間もなく」

「流石に、採寸などを細かくいわれれば、どころではありませんが、オユキさんが私に隠そうとしていることですから」


オユキにしても、最早隠しきれているなどとは考えていないだろう。

既に、秋も暮れが近づき、冬の気配も近い。そして、今暫くも忙しさに実を良くしていればまた年の瀬が。そして、そこで一つ歳を進めて、正しく成人となったオユキが改めてファンタズマ子爵家という家督を正式な物に。そして、伴侶にトモエを迎える事だろう。司祭からはいよいよ過去にもあったこととでも言えばいいのだろうか。


「トモエ様は、オユキ様よりも私どもの在り方をご理解いただけているようですね」

「書籍として読んでいたこともありますし、かつての世界を想えばオユキさんのほうではそうした方とのお付き合いは仕事上の事だけでしたでしょうから」


如何なる秘蹟であろうとも、やはり解決するのは人の手による物であるべきだというのが、こちらの世界なのだろう。だが、だからこそと言えばいいのだろうか。


「トモエ様は、それがお望みの様子ですから」

「ええ。背中を押してほしいと言いますか、やはり、己一人で考えていてはという物ですから」

「手を取り合う、これは神と人による物ばかりではありません。人と人の間でも」

「改めて、オユキさんと向き合う時間を持ちたくはあるのですが」

「そのために、今日お二人も席を同じくとされたのでしょう」


こちらの司祭という人物は、さて、一体何が見えているのだろうか。

華やかに笑う相手からは、やはり読み取れるものもそこまでは多くない。そして、こうして話してみれば、やはり心の内に、澱の様にたまっていたものが軽くなっている。

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ツギクルバナー アルファポリス
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