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憧れの世界でもう一度  作者: 五味
35章 流れに揺蕩う
1150/1233

第1150話 乾いた音に

色々と、興味深い話が出来そうだと。オユキは頭の中でそんな評価をパヴォに。そうしているうちに、ヴィルヘルミナがそろそろ一度とオユキよりも遥かに上手く流れを掴んで、喉を休めるためにと一度下がる。それに合わせてと言う事も無く、その前からこちらも用意を始めていた侍女たち。彼女たちにしてみれば、机の上に並べられた茶菓子の量。きちんと暖かい紅茶を用意するために、ポットの中身の入れ替え、カップに注いでとそうした流れの中で察する物もある。

かつての世界では、それこそ千差万別ではあるのだが、こちらではポットの中身を入れ替えることが本題に進む合図になる。

主催が侍女に指示を出すのが美徳とされる事ではあるのだが、この辺りエステールにしても己で主催する機会がどうしたところで少なく、それを補佐するためにシェリアが動いている。後で、この辺りは侍女たちの間で共有されて、オユキには今後話すこともあるだろう。少なくとも、暫くの間はオユキが主体とする事は無く、侍女たちの側でそのように動くと決まっている。


「さて、私から貴女方に伝えることがあります」


そうして、王妃がまずは口火を切る。

今回の相談事、オユキから尋ねたい事にしても神国が武国に対してどのような態度で行うのか。それが決まらなければ、理解できなければ、決めようもない。

今回、こうして集まりを開催したのは、狩猟者ギルドの問題。クレドという人物の取り扱いに対して、オユキは明確に今後の関係もある以上は融通を利かせる事を求める。だが、そのためには現状武国の者たちに、特に王兄という存在に配慮をする者たちが今回ばかりは明確に邪魔になっている。

そもそも、事をややこしくしているのは武国における公爵。この国の王兄という存在。この存在に対して、神国がどういった配慮を行うのか。それが決まらなければ何か事を起こそうにも立ち行かない。武国の神殿に勤める、戦と武技の巫女に対しても。

何よりもまずいのは、前回トモエとオユキが見せた対応があると言う事。それに関しては、あくまで現ユニエス公爵でもあるアベル、こちらに対して配慮を行っただけ。だが、武国から見たときには、他国から来たとは言え前公爵でしかないのだ。聞けば、先の一件の後にアベルの兄に家督は譲ったものであるらしい。当時は、間違いなく公爵であり他国からと言う事もあるのだが上位の者に対して配慮を行ったのだと、そう見えるのだ。武国の者たちにしてみれば。

そして、現在のファンタズマ家はといえば、高々子爵家。それも、彼らの求めるトモエというのは、その当主の配偶者でしかない。他国との交流である以上、当然そこに名を連ねている者たちというのは侯爵に伯爵に。さらには、その係累の者たちに。

身分制度が存在する社会では、事実彼らの振る舞いというのはあながち間違いでもないのだから。

故にこそ、トモエに我慢をさせて迄、己の恩人と呼んで何一つ間違いのない相手に辛酸をなめさせてまで、オユキはこうして機会を求めるまで特段何も行動を起こさなかった。


「武国との国交、これを改めて閉ざすことまでを考えています。これについては、現陛下ではなく、禅譲が行われた後に現在の王太子が」


そして、王妃から告げられた言葉、それはオユキの想像よりもかなり大きなもので。


「わが国にとっては、武国の存在というのはもはやそこまで重要ではありません。魔国との関係で、少々困るところも出てきますが、その魔国にしても武国からの者たちは持て余すとはっきりと抗議が行われました。ああ、勿論武国へも行われておりますが、合わせて我が国へも」

「それは、申し訳なく」

「魔国の迎賓館で過ごす神国の者たち、こちらについては壁の破壊などについての抗議は受けましたが、そこまでではありません。これに関しては十分な資材と金銭、作業を行う人員。それらを供出することで今後は問わぬと」

「それについては、当家からも」

「子爵家に期待するものとしては、人員になりますが」

「では、申し訳ありませんが」


魔国での粗相、そちらについてこちらで求めるのならば人員というファンタズマ子爵家に全くもって足りていないものを求めなければならないのだぞと、そうした話が王妃から。ならば、何一つできる事は無いと、オユキはすぐに己の言葉をっ撤回する。

成程、道理で狩猟者ギルドが少々頑なにもなるわけだと、そんな納得を改めてオユキは己の中で作って。

そして、王妃が改めてため息を一つ。


「華国、こちらもまもなくとなるでしょうが、魔国からの話を聞く限り、あちらの国も受け入れられないことが多いでしょう。テトラポダ、木々と狩猟の神殿を擁するかの国にしても同様」

「不勉強故申し訳ありませんが、その、武国の者たちは何故あのような貴きものとしての振る舞いを知らぬものが」


王妃の言葉に、心底理解が出来ぬのだとレジス侯爵夫人が尋ねる。彼女のほうで理解が及んでいないこともあるのだろうが、こうして話を聞いて既に三国から苦情の出ている振る舞いを、何故武国がとり続けるのかと。心底理解が出来ないのだと首をかしげているラスト子爵夫人の代わりも兼ねて。


「そのあたりは、王兄殿下からの伝聞となりますが、決闘法が根拠となるようです」

「決闘法、ですか。わが国でも、かつては存在していたはずですが」

「ええ。問題の解決の為に、意見の対立の解決の為に。ええ、わが国では、既に廃されたほうではありますがかの国では、今もまだ有効なようです」


さて、どうやら法律の詳細を知らぬのはオユキだけであるらしい。言葉から、ある程度の想像はつくものではあるのだが、あくまでそれだけ。実際に、どのような物かは想像がつかない。


「申し訳ありませんが、代表の二名が互いの約束をもとに決闘の方式を決め、その上で勝者がと言うもので間違いありませんか」


オユキの認識では、確かそのような物であったはずだと。それこそ、馬での早駆けであったり矢を用いた遠当てであったり。そうした方法があっただろうと、どうにか記憶を辿りながら。


「いいえ、オユキ。貴女が考えている物とは、はっきりと異なります」


しかし、オユキの考えている物はまた違うのだと、公爵夫人から。


「法と裁きに定められた決闘というのは、戦と武技の神、その神前にて刃をもってどちらかの命が失われる。それをもって、正当と」

「あの、明確に不当といいますか」

「だからこその、法と裁きです。互いに正しく、しかし相対するのならば。決着として、どちらかが失われるほどでなければならぬのだと。勿論、闘技大会、既に日も近づいてきたその催しと同じくして、実際に何かが失われることはありませんが」

「道理で、皆様馴染むのが早かったといいますか、理解が有ったといいますか」


闘技大会において、仕合が終われば怪我がなくなる。かつては存在していた、よくある仕組み。それに対して、こちらで暮らす人々が随分と早くに馴染んだなと。それこそ、かつての異邦人にとっては当然であった仕組み、それを理解するのが早かった理由が、そういった部分にあったらしい。オユキは、嬉しい誤算だなどと考えていたものだが、その背景には、過去からただ続いて存在している、過去の異邦人たちの負の遺産がどこまでも存在している物であるらしい。


「ええ。過去にあった物、それが改めてといった形でしたから。勿論、法と裁きのお姿も置かれている以上はと、失われたものを求める者たちもいましたが」

「それは」

「我が国においては、用意された場で法と裁きに願ったのならば、加護を排してとなります」

「戦と武技の巫女のお二方、こちらのおかげでこれまで軽んじられていた我ら武門の家が改めて評価されていますのよ」


胃の奥から、何かがせりあがってくるような感覚と。同時に起こる、胃の奥に重たい物がたまる感覚と。相反する、そんな二つを感じるオユキに、レジス侯爵夫人が気にしてくれるなと、それで得られたものもあるのだぞとそうオユキに伝える。何よりも、この場は、オユキが用意した場なのだ。此処で、オユキが退場と言う事になってしまえば、また準備をしなければならない。それもまた、手間がかかる事でもある。


「話を戻しましょう。つまり、かの国では、わが国で失われた法というのが今もまだ残っている、その事実が大きいのです」

「ですが、神国では」

「類似の物が、戦と武技の巫女二人によって。さらには、王兄殿下の振る舞い、これを聞いた者たちが勘違いをしたとしても、ええ、やむを得ない物でしょう」


事前に調べることが出来ないわけでもなかった、それこそ、全てを一度止めて。今のように、己に設けられた制限時間、本来であれば無いはずなのだからと。こちらで長く在るのだと決めて、必要な事をきちんと整えていけば今回のようなことは起きなかった。王妃の言葉が示すその事実に、オユキはやはり苦く笑いながら。


「では、その勘違いに関しては、王兄殿下からと言う事でしょうか。いえ、既に武国に向かわれて長いはず、だというのに未だに理解が得られていないと言う事は」

「ええ。彼らにしてみれば、何故そうした分かり易い手段を失わせたのかと、そうした話をしてくることでしょう。そこで両者の間で納得がいかぬとなれば」


つまりは、同様の理屈をもって、神国に対してとするだろうと。

人同士が相争って、現状そんな暇は無いはずではあるのだが、成程武国の者たちはそれを良しとはしない者たちなのだと言う事であるらしい。だからこそ、神国の判断として、国交を閉ざすことまでを考慮に入れているのだと。


「今話したのは、あくまで一部の暴走しがちな者達に対してです。王兄殿下が舵取りを、それこそ我が国にとって不利益にならぬ様にとそう動くのでしょうが」

「先の事もありと、そういう事ですか」

「ええ。だからこそ、オユキ」

「そのあたりは、アイリスさんにも相談しなければなりませんが」


王妃としては、武国との関係に関してはもはやそこまで考慮に値しないのだと話をしたうえで、オユキからの相談事。武国の神殿に勤める戦と武技の巫女。そこから持ち込まれた相談事、それをいかに解決するのか。そこに関しては、加減の必要はないのだと。

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