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憧れの世界でもう一度  作者: 五味
33章 神国へ戻って
1106/1233

第1106話 先生も交えて

「セツナさんの言葉にも、勿論一定の理があるのですが、オユキさんの場合はそうとも限らないのですよね。確かに、一般的にと言いますか、精霊、妖魔、こうした形質を持つ方々が物質としての器を用意した時には、まず器に満たすだけの物が無ければそこから先に繋がるところにというのが難しい、それも事実ではあるわけです。ですが、現状のオユキさんは、これまでを見る限りは大部分がまずは己の本質に向かっていきますから」

「炎熱の若鳥よ、それは、聞くにつけても」

「ええと、はい。確かにその通りと呼んでもいい部分はあります。現に、以前族長様の炎が今も軽くですけど、オユキさんの本質側にありますし」

「気が付いて居って、その方、何故止めぬのじゃ」

「その、こう、如何に同種とはいえ私ではとても族長様には」

「どうにも、力を見る限りではその方であればと思わぬことも無いが」

「マナの保有量は族長様のほうが確かに少し多いくらいですけど、私はこう、攻撃用の魔術文字というのは本当に相性が悪くて。一応、種族としての炎を最近少し扱えるようにはなりましたが、それもまだ比べてしまえば火の粉以下でしか。ええと、そうでは無くて、ですね。族長様を置いておいても、アイリスさんの祖霊、狐の祖霊だとは思うのですが、そちらの放った氷でしたか、それを取り込んで本質側に補填していたことも」


カナリアが、すっかり昼夜の逆転しているカナリアが馬車が止まり、今夜の野営地はここでと定められた場所にたどり着いてから起き上がってきたカナリアに。まずはとばかりに、それが習慣とでもいうかのようにオユキの様子を見に来たところを、オユキはよく分からぬと、カナリアに聞いてくれと話したこともあって、セツナが早速とばかりに。

勿論、そうして話している間にも、オユキの診察と言うものは続いているし、馬車の中を整えることが出来ないとカナリアが最初に話したこともあり、セツナにとっても少々酷な環境。カナリアが一応、氷柱を置いたり、セツナにしても軽く雪を積もらせて等としているのだが、それでもやはり不足は多い。

環境を変えられない、その理由に関しては、そもそも空間に作用する魔術でもあり固定の要素を含む文字も入っているためにと言う事らしいのだが、それにしてもオユキにとっては全く理解の出来ない理屈。聞いたところで、一応頭に入れておこうと、そう考える程度。どうにも、こうした理屈にしても、合っているかどうか定かでは無いと、そうした考えが働いてしまうために、どうにも本腰を入れられないと言えばいいのだろうか。そもそも、こうした理屈というのはいよいよオユキにとって埒外なのだ。目に見えぬ物、勿論、カナリアの目には映っているらしいのだが、日常生活、常の動きの中で視界、視覚の差というのをカナリアが感じさせることが無い。だからこそ、オユキとしては判断に困るのだ。


「また、幼子だからこその暴挙と呼べることを」

「ええ。私もそちらについては、危険を感じはするのですが、ええと、話を戻しまして。オユキさんは本質側にある程度こうした物理の器に満たされる前に引き込めるんですよね。逆説的には、セツナさんが危惧するように本質にまで苦手を引き込むからこその危険が」

「ふむ。マナの枯渇、物質としてのそれがあるところに、成程、長く夏の気配の強い土地や火の気の強い物を口に運んでと、その結果と言う事か」


これだから、幼子を里の外に出すのは危険なのだと言わんばかりに、セツナは重たい溜息を。


「その、言い訳にしかなりませんが」

「良いよ。話を聞くにその方がこの幼子の周囲を整えたのも、しばらくしてからと言う事なのであろう。人ととしてこちらに、発現形質が人の者である以上は、人として暮らすというのは、いや、それにしても不調を幼子自身が感じてしかるべきではあるのじゃが」

「話を聞くに、と言いますか、トモエさんええと」

「うむ。そこな幼子の伴侶じゃな」

「はい。トモエさんに求められて、どうにもオユキさんが氷菓子の類を好むという事や、部屋に氷柱を置いて気温を下げ、冬の気配に整えてと言う事を」

「その方に頼む程度には、伴侶のほうが先に気が付いたか」


自己管理、それについてオユキは己が苦言を呈されているとそれくらいは理解が出来るのだが。いや、理解ができるからこそ、座りが悪いとでもいえばいいのだろうか。


「成程の、ここまで弱っている理由に、ようやく妾にしてもあたりが付いた」

「そうであれば有難いのですが、ここに創造神様の功績もあって、トモエさんとの間で本質と、その先基質部分でも共有があるようで、オユキさんが苦手な物はそちらにゆるやかに流れていくのですが」

「仮にそうであったとして、伴侶のほうで受けきれぬものは、いや、その方の口ぶりでは幼子が日々取り込む物と意識せずとも流れる物、その釣り合いの話もあるか」

「オユキさんが、自分できちんと変換したうえで取り込めるのなら、改善していくのですが」

「それもあって、伴侶のほうが妾に部屋を整える事を、妾達氷の乙女が暮らしやすい場にと言う事か」


そこまで話して、改めてため息を。


「その方、医師としての見立ては」

「オユキさんについては、私からも再三繰り返しているのですが、聞いていただけず」

「この辺り、理屈を説明すれば幼子もある程度考えて動きそうなものじゃが。いや、幼子に言うても詮無きことではあるのじゃろうな。なればこそ」

「ええと、トモエさんにはご理解いただけていますし、ただ、夫婦の事となるので」

「私が言っても、オユキさんは譲らぬところは譲っていただけませんから」

「トモエさん」


そうして話していれば、オユキの事について随分と興味深いと言わんばかりにトモエまで。オユキの、オユキとセツナの食事の用意を専ら行っているはずの時間帯ではあるのだが、それも終わったと言う事なのだろうか。


「オユキさんには、何度となくきちんと休むようにと、そう私からも伝えているのですが」

「ですが、トモエさんも一緒にとするわけには。私にしても、こう、一日二日であればまだしも」

「それは私も理解ができるので、難しい事なのですが」


オユキは、何も外に出ることが好きだと言う訳でもない。研究者気質でもあり、読書の為にと、本を読むためにとそれなりに長く屋内にいる事を苦にする性質ではない。もとより、トモエと出会うまでは長く部屋の中に居り、そこで生活することに苦を覚えてと言う訳でもなかった。だが、トモエとあってから散々に外を走らせ、晴れた日には屋外で素振りをさせて。そうしてみれば、かつてのオユキが作った姿とでもいえばいいのだろうか。今のトモエ、そこに間違いなく込めただろうオユキの憧れ、オユキの思う、己の理想像に近い物、それに近づくにはどうすればいいのかと、それに気が付いたと言う事もあるのだろう。なんだかんだと、日の光に当たる事を好むようになり、本を読むのにしても時には屋外でとすることも多くなった。


「特に、私が外で活動することを好んでいるというのが、また」

「ふむ。妾にしても、クレドがどうにも屋内は休むところとしか考えてはおらんが」

「ええ、そちらについてきて頂いていると言う所です」

「こらえ性が無いのは、その方もか」


更にセツナが、重たい溜息を。


「恐らく、そのあたりを配慮いただいたうえで、こうした功績を頂いているのでしょうが」

「甘えるのは、その方にしても」

「ええ。ですが、やはりと思う所はありますから」

「度し難いと、それを自覚して振る舞う以上は、もはや処置無しじゃの」


本来の用途、それにしてもここまで色々と話を聞けばトモエにも理解ができるというものだ。オユキの種族、伝承にあやかって以上に、そこに込めた思い。それがある以上は、それに近づけてトモエの思いつくらしさを足してしまえば、どうにもならず。それを汲んだ創造神、あの幼いながらも確かにオユキの両親、彼女の作った世界、それにさらに何かを足すことが出来た者たちに対する感謝は確かにあるのだろう。だからこそ、連なる者たち、その中でも直接となっている者に、幼いからこその特別な配慮。


「有難い事です。感謝は忘れずに、ですが」


ただ、それでも。オユキが自由にこちらで歩き回れる、そうするための配慮でもあり。


「オユキさんは気が付いていないようですが、こちらに来たばかりの頃、その頃に比べてオユキさんが徐々に弱っていた理由というのが私にもようやくわかりました」

「私が、弱って、ですか」

「ええ」


そして、トモエがはっきりと認識していた話を、改めてオユキに。オユキにしても、それを自覚したのは領都での事。そこまでと気が進まなければ、オユキのほうでは自覚がでなかったこと。それを伝える。そうしてみれば、オユキは、なんといえばいいのか。年齢にしてもそうなのだが、そこまで己はこちらに来てからというもの、己の事を理解できていなかったのかと天を仰いで。


「トモエさん、オユキさんについてそうした理解が有るのなら」

「カナリアさんに伝えようかとも考えはしたのですが、その、それよりも先にマルコさんでしょうか。こちらで明確に医師として働かれている方から何も言われなかったこともありますから」

「マルコというのは」

「マルコさんは、眼に蛇神様から奇跡を頂いている方です。確かに、そちらから何もなかったと言う事は、いえ、単に彼の前にいる時に顕在化していなかっただけでは」

「カナリアさんと一緒に、見て頂いたこともあるはずなのですが」


それこそ、始まりの町で、オユキがマナの枯渇、そこから来る本質についた傷が改めて物質側で開いた時にも。そして、カナリアもそれを思い出したのだろう、こちらもただただ頭を抱えて。


「妾たちの種族、それに対する理解不足が原因と見える」

「その、オユキさんにしてもフスカ様がセツナ様をこうしてこちらにとするまでは」

「そこな炎熱の若鳥は、種族の長が妾たちを狙ってとした以上は、知らぬはずも」

「カナリアさんは、種族から出て長いようですから、その」


セツナの言葉に、今度はカナリアが落ち込んで。


「もう少しすれば、夕食ですから一先ず用意をしましょうか」

「そうじゃの」


落ち込む二人のうち、トモエはまずはとばかりにオユキを回収して。

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