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第107話 帰還して、二人

そうして、河沿いの町で、さんざん魔物を狩り、魚を釣り、始まりの町へのお土産も大量に用意できたところで、当初の予定通りに帰還することとなった。

帰り道に関しては、最低限の助言はあるが、あくまでオユキ達が主体となり、行動をする。

それでも問題なくどうにかなったのは、最後の一日が目前となったところまでであった。


道中は魔物に気を張りながらも、進路や速度に気を配り続け、夜中も主体として行動し、見通しが非常に悪い中で魔物を警戒することとなり、なおの事体力を削られた。

そして、最終日は少年たちとオユキが、めでたく荷馬車の住人となった。

トモエとトラノスケにしても、普段よりも足取りが遅く、反応も鈍い。


「ま、よくやったほうだと思うぞ。」


一方で、傭兵達とミズキリ、同行していたイリア、体力がありそうに見えないカナリアですら、まったく苦にしていない様子を見せながら、門に向けて始まりの町の壁沿いを歩く。


「俺はもう少しやれるかと思ったが、中級は遠そうだな。」

「トラノスケは、もう少し力の抜きどころを覚えるのが先だな。

 休むときは休む、任せるところは任せる。それができなきゃ、四六時中気を張ることになる。

 それじゃ、流石に3日も持たないさ。」

「野営がな。流石に外での寝泊まりは、気が抜けない。」

「それでも休むのさ。ま、それができないうちは、遠くまでいけないと思っておけ。」

「手厳しいな。まぁ、その通りなんだが。」


そんな話声を聞きなながら、一団で門を抜ける。

荷台の有様に、アーサーが苦笑いをしながら、まだまだこれからだなと、そんな言葉をかけるが、オユキが覚えていたのはそこまでだった。

気が付けば明るさで目を覚まし、自分が慣れ始めた宿にいることに気が付く。

トモエも起きたばかりという風で、体を伸ばしながら、体を起こしたオユキに声をかける。


「おはようございます。流石に疲れましたね。」

「ええ、想像以上でした。今日明日くらいは、ゆっくりしましょうか。」

「向こうのように、便利なところでも旅行疲れ、なんて言いますからね。」

「ただ、思ったよりも、でした。歩くことくらいはと、そう思っていたのですが。」

「どうなんでしょう。気づいているとは思いますが、この体、向こうとはかなり勝手が違いますから。」


トモエがそういって苦笑いをする。

オユキよりも、自分の状態、それを把握することに意識を傾けているだろうトモエは、やはり気が付くかと、その言葉に頷く。


「純粋な人、いえ、向こうで言うところの人とは違うようです。

 姿を作るときに、人から離れすぎないように、そう言われてはいましたが。」

「見た目はと、そういう事なのでしょうね。

 そもそも、元の世界ではマナなどは無かったのですから、そちらが原因とも思えますが。」


二人で話しながら、体を伸ばす。

既に習慣となって久しく、こちらでも、常に続けている。

だが、動きは少し奇異に映るようで、旅の最中で何度か聞かれた。

意味を説明すれば、誰もが真似をしだしたあたり、重要だと、それはわかっているのだろうけれど。


「さて、調べようにも、検討が付きませんから。ルーリエラさんのように、同種に近い方と会えば、ご教示いただけるかもしれませんが。」

「そのあたりも含めて、異邦人と、そう括られそうな気もしますね。

 マルコさんも、以前異邦の者は、よくわからないと、そのようなことを口にされていましたから。」

「不都合はありますか。」

「私は、そうですね。恐らく食事が途絶えると、途端に動きが鈍るでしょう。

 燃費、まさに燃費ですね。それがやけに悪く感じます。空腹を覚えると、どうしても体が重くなりますから。」

「私のほうは、疲れやすい、今はそれだけですね。

 正直その点では、前の世界のそれこそ仕事を止めてしばらくでしょうか、その年齢の頃と同程度です。

 食べられないからかとも考えましたが、食事で改善した印象もありません。」


そこまで言い切ると、オユキは少し考えて続ける。


「カナリアさんから、マナに関して教えていただいた時に、私にも感じるところがありましたから、ともすれば、そちらに依っているのかもしれません。」

「そういった、種族が。」

「ルーリエラさんが、身近な最たる例でしょうね。精霊が実在しますから。」

「確かに、そう考えれば、納得もいきますね。」


そういうトモエに軽々と抱えられて、ベッドに座らされ、髪を整えられながら話を続ける。


「トモエさんのほうは、名前の元よりも、見た目の印象ですか、赤獅子、そういった流れをくむのかもしれません。不確かな記憶ではありますが、獣人の方は、肉を食べなければ、著しく体調に影響があるそうですから。」

「お互いに、気を付けるしかなさそうですね。オユキ、その印象が正しければ雪精と、そうなるのでしょうか。」

「常冬の地もありますが、かなり離れていますね。」


旅の間は、トモエに髪を手入れされるオユキを見て、少女たちでなくイリアとカナリアにまで苦言を呈されたが、トモエが好きでしている事でもあるため、今のところオユキはそれが許されるならトモエに任せようと、そう考えている。

自分で触り始めれば、真っ先に切りたくなってしまうというのもあるけれど。


「目的としている場所への旅は、もう少し先になりそうですね。」

「そうですね。旅路をお願いできるのであれば、可能でしょう。

 一度相談してみて、賄えるようであれば、近場に一度行ってみるのもいいのではないでしょうか。

 そうでもなければ、どうにも、ただ殺伐とした日々になりそうですから。」


オユキがそう落ち込んだように言うトモエに声をかければ、背後からは嬉し気な空気が返ってくる。

案内したいと、そう思う気持ちがないわけでもないが、それこそ目的地は今のところ10だが、他にもいくらでもある。

前の世界で見た、他国の風景、それ以外にも、それこそ魔術が無ければ成しえないような、そんな建造物や美術品が収められた場所もあれば、神話に語られるような、そんな風景。

それは、数多くある。

オユキ自身も、以前見た、宝石と水晶の町。

流石に一般の家屋はそうではないが、水晶で作られ、泳ぐ色とりどりの魚を見ることができる、大きな噴水がある公園、神をまつる神殿は、水晶と宝石で作られ、絢爛たる輝きを湛えていた。

そういった、あまりに現実離れした光景、そういった物もあるのだから。


「先延ばしになっていましたが、機会があれば、ロザリア様に面会のお願いをしましょうか。」

「そうですね。一番近い場所が、あの方の祀る神に関わるのでしたか。」

「はい。常闇の地ですので、いえ、明りは十分にありますが、魔物が少々。」


オユキはそこで言葉を濁すと、背後から不思議そうな気配が返ってくる。


「ええ、所謂、ホラーの住人が。魔物です。」


オユキが申し訳なく思いながら、そう続けると、髪を触る手が止まる。

苦手、というほどでもないが、好んでみたいものでもないだろう。

ゲームの時分でも、実に評判の良くない、極端に好むものが一部いた、そんな場所であった。


「神様の、お膝元で、ホラーですか。」

「何か、納得がいくだけの背景があったようにも思いますが、そうですね。

 神様のお膝元で、ホラーが現実になります。幽霊、ゾンビ、なんでもござれです。」

「すこし、考えさせていただいても。」

「ええ、話を聞くだけ聞いて、無理そうなら、別の場所を選びましょう。

 次に近いのは、王都の北側にある、湖ですから。

 そちらも景色のいいところですよ。」

「花と水の神殿でしたか。」


そう呟くと、背後から唸るような声が聞こえ、手の動きが戻り始める。

どちらにしても、話を聞いてからになるだろう。

オユキはそっと、ゾンビの放つ悪臭、それに関しては胸の内に秘めたままにして、朝ののんびりした時間を楽しんだ。

アルファポリス

https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/160552885

カクヨム

https://kakuyomu.jp/users/Itsumi2456

にて他作品も連載しています。

宜しければ、そちらもご一読いただけましたら幸いです。

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