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第六話 ご主人様との少し早い二人きりのバカンス

「起きなさい、ポール。朝よ」

「ん……はっ! せ、セシリア様っ!」

 翌朝になり、ポールはセシリアに起こされて、目を覚ますと、彼女の顔を見て慌てて起き上がる。

「す、すみません! 寝坊しちゃって……」

「良いのよ。私が早く起きただけだし。寝顔も可愛かったわよ♪ おはよう、ポール。ちゅっ♡」

「はうう……」

 主人に起こされるなど、使用人失格だと自分を責めていたポールであったが、そんな彼が可愛く思えてしまい、セシリアは思わず彼に抱き付いて頬にキスをする。

 毎朝の事ではあるが、彼女にキスされる度に、顔が真っ赤になってしまい、セシリアの事をどんどん意識してしまう様になっていった。

「今日、午後の汽車で帰るけど、それまではゆっくりしてて良いわよ。今日はあなたの休暇も兼ねているのだから、二人きりの時にまで気張らなくても良いわ」

「ですが……」

「命令よ。使用人にも休みは取らせないとね。くす、早く着替えなさい。朝食を食べ終わったら、チェックアウトするから」

「はい」

 休みと言っても、セシリアと二人きりなら尚更、彼女の手を患わせたくはないと思っていたポールであったが、命令と言われるとまだ年少者の彼には何も言う事も出来ず、言われた通りにトランクに入っていた服に着替え始める。

セシリアがポールの着替えも用意していたので、彼も驚いていたが、

「じゃあ、行くわよ。朝食は昨夜と同じ、一階の食堂に用意されているから」

 着替え終わったポールにセシリアがそう告げると、ポールを連れて、二人で一階の食堂に行き、朝食を摂る。

 いつもは他の使用人たちと同じ、賄いを食べていたポールであったが、主人であるセシリアと同じ豪華な食事を共にしてると、何だか悪い気分になっていたが、セシリアは全く気にする素振りもなく、いつもと同じ様に品良く食事を摂っていた。


「待たせたわね。じゃあ、行くわよ」

「あの、セシリア様……汽車の時間まで、何をするんですか?」

「そこの海で、ちょっとくつろごうと思って。まだ泳ぐには、気温は低いけど、日光浴は出来るでしょう」

 チェックアウトを終えたセシリアが、近くにある海岸に行こうと言い出し、ポールもトランクを持って、彼女の後を付いていく。

 今日は比較的気温が高いとは言え、まだ海で泳げる様な温度ではなかったが、真夏になると観光客で混んでしまうので、ゆっくり出来ないと思い、この時期にポールを連れて行く事にしたのであった。


「お待たせ。どうかしら、この水着?」

 海岸近くにある小屋を更衣室として借りたセシリアが、外で待っていたポールに最新の水着姿を披露する。

 長身でスタイルの良い彼女の体型が良くわかるビキニに、下にはパレオを巻いており、白い帽子も被っている、セシリアの姿は貴婦人その物の品格と美しさを存分に放っていた。

「ごめんなさいね、貴方の水着はなかったの。別に泳ぐ訳じゃないから、必要ないと思うけど、ポールの水着姿も見たかったわ」

「いえ、お気になさらず……」

「そう。あ、これそこのビーチにかけておいて」

「あ、はい」

 持ってきたビーチベッドをポールに渡し、急いでポールも広げて、彼女を座らせる。

 まだシーズン前な上に午前中なので、海岸にはほぼ人はおらず、白い砂浜と青い海をセシリア達が独占してる状況で、彼女もとても気分が良く、存分に温かい日差しを浴びて、優雅な気分に浸っていたのであった。

「くす、こういうの憧れていたのよね。どう? 様になってる?」

「は、はい。とても綺麗です」

「お世辞でも嬉しいわ。泳ぎたかったら泳いでも良いわよ。どうせ、私以外居ないから、裸で海に入っても誰も気にしないわ」

「流石にそれは……」

「命令でも出来ない?」

「う……ど、どうしてもと言うなら、しますけど……」

 水着もない以上、裸で泳ぐしかないのだが、それでもセシリアが命じるのであれば、仕方ないと脱ごうとすると、

「ぷっ、冗談よ。誰かに見られたら、どうするの?」

「あ……ですよね、はは……」

 流石に冗談であったかと、安堵の息を漏らしていたポールであったが、セシリアはここまで忠実に自分の言う事を聞いてしまう彼に、無茶な命令をした事に罪悪感を少しだけ感じてしまい、

「ほら、向こうにある売店で、何か好きな飲み物を買って来なさい。私の分もついでに買って来てくれると嬉しいわ。レモネードがある筈だから、買ってきて」

 と言って、お札を一枚渡し、ポールに飲み物を買ってくるよう命じると、ポールもすぐに頷き、小走りで海岸沿いにあった売店でレモネードを買いに行く。

 ビーチベッドに腰をかけて、日光浴を浴びている、セシリアの姿を遠目から見ても、とてもスタイリッシュに見えて美しく思えてしまい、彼女に自分のような者が仕えても良いのかと思ってしまうほどであった。


「お待たせしました」

「ありがとう。んーー……冷えてて美味しいわね。出来ればワインでも飲みたかったけど、まだ午前中だしね。お酒なんか飲んでいたら、はしたない女だと思われちゃうわ」

 と言いながら、ポールが買って来たレモネードを飲み、そんな彼女を見て、思わずポールも苦笑してしまう。

 まだ年少の使用人とは言え、男の前で、こんな体型の露になった姿を晒しているセシリアがこんな事を言っても説得力はないのではと、レモネードを飲みながら、思っていたが、彼の視線を見て、

「むっ、ちょっと失礼な事を考えてるわね、ポール」

「い、いえっ! とんでもないです……」

「そうかしら? まあ、私に対する不満があるなら、直接言いなさい。直せる所は直してあげるから」

「そんな事は全然……」

 セシリアに対する不満など本当に何一つポールはなく、ずっと二人きりで居たいとすら思っていた。

 飲み終わったコップを脇に置いて、ビーチベッドにもたれかかってくつろいているセシリアを見て、そんな気持ちが高まってしまい、昂ぶりを抑えきれなくなっていった。

「きゃっ!」

「はっ! す、すみません!」

 思わずセシリアに手を伸ばして、彼女の手を握ると、セシリアも悲鳴を上げ、慌ててポールも手を離す。

 自分はなんて事をしてしまったんだと、青ざめていたが、

「もう……駄目よ、ポール。二人きりの時だから、まだ良いけど、人前で主である私の手を握るのは止しなさい」

「すみません……もう二度と……ん」

 と言い掛けると、セシリアは人差し指で彼の唇を塞ぎ、

「『人前では』やるなと言ったの。二人きりの時は大目に見るから。今みたいにね。わかった? んっ……」

「っ!」

 と母の様な穏やかな口調で注意すると、ポールと軽く口づけをし、すぐに離す。

 二人きりの時は良いのかと、彼女の唇が触れるのを感じながら、呆然と考えていたが、

「もう帰ろうかしら。着替えてくるから、片づけをお願い」

「は、はい」

 地元の人間が砂浜にやってきたので、セシリアは立ち上がり、ポールに片づけを命じて更衣室へ向かう。

 二人きりの短いバカンスはこれで終了してしまったが、セシリアへの思慕の情は高まるばかりであった。


「お帰りなさいませ、セシリア様」

 汽車と馬車を乗り継ぎ、屋敷に戻った二人はアンジュ他、使用人たちの出迎えを受け、中に入る。

「注文した脱穀機、来週に来るらしいから、業者が来たら、アンジュお願いね」

「はい」

「ちょっと、疲れたから、休むわ。あ、そうそう。ポール。話があるから、後で私の元に来なさい」

「あ、はい」

アンジュにそう告げた後、セシリアはポールに自分の部屋に来るように告げる。

何の話だろうと首を傾げ、夜、部屋に行くと――」


「失礼します」

「くす、来たわね、ポール」

 部屋に入ると、セシリアがシースルーの刺激的なネグリジェを着て待っており、

「今日はお仕置きをするわ。今朝、私より遅く起きた事。そして、私の手を握った事。軽い罪ではないわよ、ふふ」

「えっと……はうっ!」

 と妖艶な笑みで彼に告げると、セシリアの扇情的な姿に困惑していたポールに抱きついて、彼の顔を胸元にうずめ、

「今夜は抱き枕の刑ね。一晩中、私のベッドで抱き枕として過ごしなさい。ちゅっ♡」

 幼い使用人にそう宣告した後、頬にキスをし、彼をベッドに連れて行く。

 彼女の柔肌に埋もれながら、ベッドの中で、またポールは美しい主人に抱かれながら過ごしていったのであった。


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