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第四話 ご主人様の厳しくて甘すぎる罰

「何をやってるんですか、ポール!」

 ある日の午後、ポールはうっかり皿を落として割ってしまい、近くで見ていたアンジュに叱責される。

「全く……ほら、早く箒とちりとりを持って来て」

「す、すみません……」

 言われた通り、近くに居た他のメイドが持って来た箒とチリトリを使い、割れた皿の破片を片付けていく。

 これはセシリアが使っていたかなり高価なお皿な為、彼女に知られたら怒られるだろうと青くなっていたが、すぐに騒ぎを聞きつけたセシリアが駆けつけ、

「あらー、皿を割っちゃったの?」

「セシリア様……あの、本当にすみません……」

「怪我はない?」

「はい、大丈夫です」

「そう。でも、後で部屋に来なさい。これから、出かける用事があるから、改めてちょっとお説教をしてあげるわ」

「わ、わかりました……」

 と、ポールに告げた後、セシリアは屋敷を出て、庭で待機していた馬車に乗り込む。

 思いの外、寛大な態度を取ってくれたので、ポールもホッとしていたが、自分がミスをした事を恥じ、どんな叱責も受け入れる覚悟を固めていたポールであった。


「失礼します」

「くす、来たわね。そこに座りなさい」

 夜になり、ポールは言われた通り、セシリアの部屋へ行くと、彼女はソファーに座って本を読んでおり、彼を向かい側に座らせる。

 彼女に怒られると思っていたポールは、罰の悪そうな顔をして縮こまっており、そんな幼い使用人の様子を見下ろすような笑みでセシリアは眺めていた。

「あの、さっきは本当にすみませんでした……セシリア様が使っていたお皿を割ってしまって……」

「誰にでもミスはあるわ。私だって皿の一枚か二枚でうるさく言いたくはないの。食器や花瓶なんかを誤って壊した事くらい、他のメイドや三十年近くウチで働いているアンジュだって何度もあるのよ。だから、ポールだって例外じゃないに決まってるわ。でも、今度は気をつけなさい」

「は、はい」

 と、畏まっていたポールを宥める様に、セシリアはそう言葉をかけ、怒られると思っていたポールも彼女の使用人を思う気遣いに感激して、頭を下げる。

 普段は凛として隙のない様な堂々な振る舞いをしているセシリアは決して、意地悪な訳ではなく、こうして使用人が失敗をしても怒鳴り散らしたりは滅多にしなかったのであった。

「わかれば良いわ。でも、やっぱり失敗をした以上はお咎めなしって訳にもいかないわね。あんまり甘くして、同じ様な事を何度も繰り返されても困るし、この私が特別に罰を与えてあげるわ」

「は……はあ……」

 ポールがホッとしたのも束の間、セシリアが何か企んでいる様な、艶やかな笑みを浮かべて、彼にそう言うと、ゆっくりと立ち上がり、

「そうね……今夜、一緒に寝なさい」

「は、はい?」

 何をされるのかとビクビクしていたポールが、セシリアの放った予想もしなかった言葉に目を丸くして、首を傾げる。

「だから、一緒に寝なさいと言ってるの。今回は冗談じゃないわ。本気で言ってるわよ」

「えっと……い、一緒に寝ると言うのは……」

「口答えするなと言った筈よ。ましてやこれはお仕置きなんだから、あなたに拒否する権利はないわ」

 と、有無を言わさないとばかりに、セシリアがポールに宣告し、逆にポールも恐ろしくなってくる。

 セシリアと一緒に寝るなど、自分のような平民出身の使用人がしても良いのかと思っていたが、自然に胸が熱くなってしまい、パニックになりそうになっていた。

「ただし、本当に一緒に寝るだけよ。そこのベッドに寝ている間も、あなたはただ横になってなさい。良いわね?」

 と困惑していたポールにそう告げると、セシリアはその場で身に着けていた服を脱ぎ、寝巻き用のネグリジェに着替え始める。

 下着姿までポールの前に惜しげもなく晒していたセシリアであったが、彼女のそんなあられもない姿を見る度に、自然に息が荒くなってしまい、体も疼いてきてしまっていたが、主人の命令だからと言い聞かせ、目を瞑って着替え終わるのを待っていた。


「じゃ、お休みなさい」

「お、お休みなさいませ……」

 着替え終わったセシリアとポールが同じベッドに横たわり、顔を真っ赤にして固くなっていたポールにセシリアがそっと抱き付く。

「ふふ、動くんじゃないわよ。今日のあんたは私の抱き枕。このままの状態で、一夜を過ごして貰うからね」

「は……はいい……」

 と艶やかな口調で、セシリアがまだ十代の少年にベッドの中で抱き寄せ、自身の胸元にポールの顔を押し付ける。

 頬に滑らかなシースルーのネグリジェと彼女の豊満な乳房が押し付けられ、ポールの理性を容赦なく削ぎ取っていった。

「温かいわ……抱き枕としては中々優秀じゃない。くす、余計な事をするんじゃないわよ。あんたは今夜は、このまま私の抱き枕として一夜を過ごすんだからね。変な事をしたら、すぐに投げ飛ばしてやるんだから」

「はうう……」

 セシリアの胸の谷間に顔を挟まれ、彼女の柔肌と香水のにおいを感じながら、目を眩ましていたポールであったが、更にセシリアの胸に顔を圧迫され、息苦しさで呻き声を上げる。

 今夜、ずっと彼女に抱かれたままベッドの中で過ごすなど、ポールにとっては拷問以外の何物でもなく、とても耐えられそうになかったが、そんな彼の頭をセシリアは母親の様に優しく撫で、

「別にそんなに強張る必要はないわ。あなたはただ私に身を預けて、じっとしてれば良いの。条件は同じでしょう? こうして抱き合っていればお互い、温かく眠れるじゃない」

 と、セシリアの胸に顔を埋めて、理性が爆発しそうになっていたポールに穏やかな口調でそう諭し、彼女の言葉を聞いて、ポールも自然に落ち着きを取り戻す。

 普段は厳格な雰囲気を漂わせていたセシリアであり、初めて対面した時は、ポールも怖がっていたが、いざこの屋敷で働いて、彼女と接していくと、とても気さくで貧しい農家出身の自分にもこうして肌を触れ合う程に心を許す程、優しい一面も持っていた。

 何故自分に対してここまで……と思っていたが、彼女の肌の温もりを感じていく内に、自然に眠くなってきた。

「くす、それで良いの。でも、これはあなたがお皿を割った罰も兼ねてる事も忘れちゃだめよ。今夜のポールは私の抱き枕♪ それ以上でもそれ以下でもないわ」

「はい……」

 眠りに付こうとした所で、セシリアに釘を刺されるようにそう言われて、思わず苦笑しながら頷く。

 そして、セシリアが一旦、ポールを胸の谷間から開放して顔を、自分の顔に近づけ、

「じゃあ、お休みなさい。ちゅっ」

 と、いつもしている様に彼の頬にキスした後、またぎゅっと胸元にポールの顔を押し付けて、そのまま眠りに付く。

 自分より二十センチ近く背の高いセシリアの肌の温もりはまるで、母親の様であり、赤ちゃんに戻った様な気分の中、ポールも眠りに付いていった。


 翌朝――

「ポール、起きなさい。ポール」

「う……はっ!」

 セシリアに体を揺すられ、ポールが目を覚ますと、ハッと起き上がると、セシリアが朝日に照らされながら、穏やかな眼差しでポールを見下ろし、

「おはよう。寝坊よ、ポール」

「す、すみません!」

「くす、駄目よ、使用人が主人より後に起きちゃ。こんな事じゃ、また今夜もお仕置きするようかしら?」

 うっかり寝過ごして慌てていたポールのおでこをコンと軽く小突いて、セシリアが笑顔でそう告げると、またポールも顔が真っ赤になる。

 そして、ベッドの中でセシリアと一夜を共に過ごしたと言う事実を思い出して、心臓が異様に高鳴っていったのであった。

「ま、今度は気をつけなさい。次、お寝坊したら、また同じお仕置きするから。じゃあ、さっさと仕事に戻りなさい。ちゅっ♡」

 寝坊したにも関わらず、全く怒ってるようすも見せずに、ポールの頬にキスをして、部屋を出るセシリア。

 彼女にはとても敵いそうにないと頬に残るセシリアの唇の感触を感じながら、蕩けた気分になってしまい、しばらくその場に立ち尽くしていたポールであった。


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