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女貴族に買われた少年が厳しく可愛がられて、養われます。  作者: beru


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第四十ニ話 幼い使用人のプチ家出

「セシリア様」

「ポール? どうしたのこんな夜中に?」

 夜中になり、ポールはまたセシリアの部屋にこっそり出向き、ノックをして部屋に入る。

「何か用事? 明日はまた出かける用事があるから、あなたには……きゃっ!」

「うう……」

 セシリアの部屋に入るや、ベッドに座っていた、彼女に抱きつく。

「ちょっと、何なのよ、急に?」

「抱っこ~~……」

「は? もう、抱っこはしばらく禁止よ、禁止。ていうか、まだお仕置きが済んでないわ。そんな赤ちゃんみたいな事を言っても駄目なんだからね」

「セシリア様に抱っこしてもらわないと、嫌です。早くしてください」

「めっ!」

 執拗に自分にしがみついていたポールをセシリアは突き飛ばす。

それがショックだったのか、ポールは泣きそうになっていたが、

「用がないなら、もう出なさい。命令よ」

「ふええ……」

「泣けば良いって物じゃないの。早く出ないと、人を呼ぶわよ」

と、セシリアも少しバツが悪そうな顔をして、ポールにそう命じると、ポールも拗ねてしまい、

「セシリア様の意地悪」

「こら、それが主に対する態度なの? あ、待ちなさい」

 そう吐き捨てた後、ポールは部屋から出てしまい、セシリアもため息を付く。

 何であんなに聞き分けが悪くなってしまったのかと、頭を悩ませながらも、セシリアは追いかける事もせずに床に就いたのであった。


「はあ……セシリア様、どうしたら抱っこしてくれるのかな……」

 翌日、庭掃除をしながら、ポールがボンヤリとそう呟く。

 セシリアが今までみたいに自分を甘やかしてくれないのが酷く不満であったが、彼女の言うように大人になれ、甘えるななどと言う命令は、一切聞く気もなく、彼女がどうしたら、元の優しい女性に戻るのかばかり考えていた。


「んしょっと……」

「ハーイ、元気してる?」

「あ、フローラ様……」

 ゴミを屋敷の外のゴミ集積所のまとめていた所で、またフローラが彼の元にやって来た。

「ふふん、今、暇?」

「お仕事中なので、ちょっと……」

「仕事なんかたまにはサボりなさいよ。セシリアの奴、ちゃんと休日与えているの?」

「いえ、大丈夫です……」

 と、可能な限り、フローラは嫌味を言うが、ポールは苦笑しながら、そう答える。

 いつもの事だと思っていたが、フローラはいつもより、顔色が優れなかったのを見逃さなかった。

「何か元気なさそうだけど、大丈夫?」

「え? いえ、別に……」

「いいや、何かあったわね。セシリアと喧嘩したでしょう?」

「っ! そ、そんな事は……」

 フローラに指差されてそう言われると、ビクっとしてしまい、彼の様子を見て、図星だと確信し、

「あら、本当だったんだ。あーあ、あの子も大人気ないわねえ。じゃあ、ちょっと私に付き合いなさいよ」

「え? またですか……?」

「うん。今度は私の家に招待するわ。ほら、そこに車あるから、乗りなさい。セシリアもたまには頭を冷やさないと懲りないわよ」

「あ、あのー……」

 またもフローラに強引に手を引かれて、近くに停めてあった車に乗せられる。

 が、フローラの言っていた事を真に受けた訳でもないが、何となく屋敷に戻りづらい雰囲気もあったので、今回は特に抵抗もせず、乗り込んでしまった。

「セシリアは屋敷にいるの?」

「今日はちょっとお出かけしていて」

「そう。じゃあ、ちょっと待ってて」

 そう答えると、フローラは、メモ用紙を取り出して、万年筆に何か書いていく。


 メモ用紙に書き終わった後、フローラはそれを持って、セシリアの屋敷に向かい、

「こんにちはー。誰かいる?」

「はい。あ……フローラ様ですね? 何か御用ですか?」

「これ、セシリアが帰ってきたら、渡しておいて。それじゃ」

 玄関をノックして、応対に出た若いメイドにフローラが、車の中で書いたメモを渡すと、さっさと立ち去ってしまった。


「さあ、出発よ、ポール。今日は私の屋敷に招待してあげるからね」

 車に戻ると、フローラは意気揚々とエンジンをかけて、車を発進させる。

 セシリアに知られたら、確実に怒られるのはわかっていたが、彼女が甘えさせてくれない事に、拗ねていたポールは今日は大人しく、フローラの屋敷に向かっていったのであった。


「ふふん、でも珍しいわねー。あなたがセシリアと喧嘩なんて」

「あの、喧嘩とかじゃないんですけど……」

「顔に出ているわよ。よかったら、相談に乗るわ」

と、車を軽快に運転しながら、後部座席にぎこちない表情で乗っていたポールにそう聞くが、流石に恥ずかしくて、顔を赤くして黙り込む。

だが、ポールの態度を見て、大よその事情を察知したのか、フローラはハンドルを握りながら、

「あの子も、融通が利かないわねえ。昔から、そんな感じよ。変に頑固なのよ。プライドも高いし、こうだって決めたら、中々、態度を変えないわよ、あいつ」

「はあ……」

「ま、あいつが嫌になったら、いつでも私が引き取るから、安心なさい。ほら、もうすぐ着くわよ。よっとっ!」

「うわっ!」

フローラがアクセルを踏んでスピードを出すと、車体が大きく揺れてしまい、ポールも思わず座席にしがみつく。

舗装されてない道路のため、どうしても大きく揺れてしまい、ポールも気分が悪くなりながら、フローラの車に揺られて、彼女の家に向かっていった。


「さあ、着いたわよ」

「うわああ……」

 車を走らせて、何時間か経過し、ようやくフローラの自宅に着くと、その屋敷を見て、ポールも圧倒される。

「セシリアの家より大きいでしょう。我が家は元々、この地を治めていた領主だったからね。さ、来なさい」

 丘の上に聳え立つ、大きなお城がフローラの家であり、フローラも茫然としていたポールの手を引いて、彼を中に案内していった。


「はい、ここがあなたの寝室よ」

「え、えっと……」

 フローラが城の中にある来客用の寝室にポールを案内し、あまりの広さと豪華な装飾、ベッドに困惑するポール。

 使用人に過ぎない少年にはあまりにも豪華で身の丈が合わない部屋であった。

 城もセシリアの屋敷より大きく使用人の数も明らかに多かったので、

「遠慮しなくて良いわ。今日はあくまでお客様として、あなたを招いてるのだから。ね、夕飯は何かリクエストはある?」

「特には……でも、本当に良いんですか?」

「良いに決まってるわ、私が招いたんだし。何か不満でもある?」

「ありません!」

「なら、良かった。夕食は後で使用人に運ばせるわ。本当は一緒したいんだけど、セシリアの家の使用人だなんて紹介したら、同席は許してくれないだろうし」

 セシリアの家でもそうだったが、基本的に貴族と使用人が食事を共にする事は許されず、食事はいつも使用人用の食堂で賄いを食べるのが一般的であった。

 が、ポールに取ってはむしろ、貴族の大人と同席してのディナーは荷が重すぎたので、フローラの心遣いに感謝していた位であった。

「んじゃ、また来るから。セシリア、明日あたり来ると思うけど、来たら追い返してやるから、安心して」

そう告げたフローラはポールを部屋に残し、お抱えの使用人の元へ向かう。

 一人残されたポールはフカフカのベッドの上に座り、上流貴族の居城をまじまじと見学していた。


「ただいま」

「あの、セシリア様。先程、フローラ様がお出でになられて、この手紙を」

「ん? またあいつ来たのね、暇人が。何なに……っ! はああっ!?」

 セシリアがメイドからフローラの手紙を受け取り、開いて見ると、その文面を見て、声を張り上げる。


『ポールは今日から家で世話するから、よろしく〜〜♪』

「な……ポールは何処っ!?」

「え? 今日は庭の掃除と倉庫整理を……」

「く……あの女っ! アンジュ! 今すぐフローラの家に行くわ! 準備して!」

 またフローラにポールを連れて行かれ、苦虫を噛み潰した様な顔をしながら、手紙を握り潰すセシリア。

 きっと無理矢理連れて行かれたに違いないと思ったセシリアはすぐにフローラの家に向かう準備を始め、ポールを取り戻しに行ったのであった。


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