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第二話 女主人との甘すぎる午後の一時

「セシリア様、お帰りなさいませ」

 夕方になり、街に行って商談を終えたセシリアが帰宅したので、使用人たちが玄関の前で並んで、馬車から降りたセシリアを出迎える。

 ピンっと背筋を伸ばして、気品の高さを漂わせながら自分の前を通り過ぎるセシリアを見て、ポールは改めて自分とは住んでる世界が違う人なのだと思い知らされていたが、

「ポール。ちょっと」

「? はい」

 セシリアに呼ばれて、顔を上げ、彼女の元へ向かうと、

「喉が渇いたわ。お茶と茶菓子を部屋に持ってきて頂戴」

「畏まりました」

 とポールに告げ、彼もすぐに屋敷の台所に向かう。

 使用人らしく使われていたポールだが、全く悪い気分はせず、むしろ彼女に仕えて喜ばせたいという気持ちがどんどん高まっていったのであった。


「お待たせしました」

「ご苦労」

 紅茶とクッキーをセシリアの待つ部屋へと運び、ティーカップを置き、ポットから紅茶を注いでいく。

 緊張しているのか、ややぎこちない手付きであったが、ポールが淹れた紅茶を機嫌よさそうに手に取って飲む。

「結構、紅茶を淹れるの上手いじゃない。家に居る時に、良く入れてたのかしら?」

「いえ、アンジュさんに教わって……」

「そう。私の付き人になるのであれば、お茶くらいちゃんと淹れられる様にならないとね」

「ありがとうございます」

 自分の淹れた紅茶がセシリアのお気に召した様で安堵し、一礼してお礼を言う。

 彼女の紅茶を飲む仕草もとても上品で丁寧であり、セシリアの一挙手一投足が優雅で、貧農出身のポールが見とれてしまう位に美しく見えていた。

本当にこんな女性に自分が仕えて良いのだろうかと恐縮していたが、そんな彼を見て、セシリアが、

「ここに座りなさい」

「は、はい」

 セシリアが隣に座るようポールに命じると、すぐに彼女の隣に緊張した面持ちで腰をかける。

 彼女の隣に座ると、ほんのりと甘い香水の香りが漂い、真横に座っている主の美貌を間近で見て、更に胸が高鳴っていった。

「今年は小麦の出来がちょっと悪くて、色々と苦労しそうなのよ。その癖、取引先の業者も足元を見てきて……」

 と、紅茶を飲みながら、セシリアが仕事の愚痴を色々と話、ポールもよく内容を理解出来ないまま、ただ相槌を打っていく。

 大地主の彼女も苦労しているのだと思っていたが、セシリアはそんな彼を見て、

「でも、ポールはもう私の物だから。仮に私が破産しても、付いて来てもらうわよ。良いわね?」

「は、はい……」

 彼の頭を撫でながら、そう言うと、ポールも顔を赤くして、頷く。

 冗談で言っているのだろうと思っていたが、セシリアが本当に破産しても、今のポールが彼女を見捨てる事など想像も出来なかった。

「ねえ、ポール。マッサージして頂戴」

「マッサージですか? っ!?」

 セシリアがそう言って立ち上がると、不意にドレスを脱ぎ始め、ラフなシースルーのキャミソール姿になり、ベッドにうつ伏せになる。

「何を驚いているの? このドレス着たままじゃマッサージしにくいでしょう。さ、腰の辺りを揉んでちょうだい」

 いきなりドレスを脱いで、大胆なキャミソールの姿を晒した事に困惑していたポールであったが、主の命令には逆らえないと腹を括り、うつ伏せになっていた彼女に跨って、くびれのある腰の辺りを手で揉み始めていった。

「ん……そうよ、その調子……もっと強くしても良いわ」

 貧農出身の自分が、貴族である彼女の肌に触れても良いのかと思っていたが、ポールはぎこちない手付きながらも、セシリアの腰と背中を手で揉んでいき、セシリアも心地よさそうにする。

 彼女の肉付きの良いお尻を触れないように、気を遣いながら、丁寧に揉んでいき、背中の真ん中辺りを揉んでいくと、

「んっ、ああんっ♪ あ、やあん……ダメよ、そんな乱暴にしちゃあ……」

「す、すみません!」

不意にセシリアが艶かしい声を上げながらそう言い、ポールも思わず、手を離す。

「くす、良いわよ、続けなさい。別に止めろとは言ってないでしょ」

「は、はい……」

 乱暴にするなと言いながら、止めるなとは意図がよくわからなかったが、今の色っぽい喘ぎ声を聞いて、ポールも更に彼女を意識してしまい、恥ずかしさのあまりとても気まずい気分になってしまい、滑らかなキャミソール越しにただ力を抜いて、背中と肩の辺りを揉んでいく事しか出来なかった。

「ほら、もっと下よ。腰の辺りを揉みなさい」

「こ、こうですか……」

「もう少し下ね。お尻を揉んで」

「っ! そ、それは……」

「くす、冗談よ。でも、触りたいなら触っても良いわよ」

「はうう……」

 セシリアは冗談のつもりではなかったが、まだ来たばかりの十代の少年にそこまでさせてははしたない女に思われると自重し、ポールも困惑しながら、目を丸くして、パニックになりそうになっていた。

「ご苦労。もう良いわ。初めてにしてはまあまあだったわね」

 だいぶ体も解れて来たので、セシリアがそう命じると、ポールも安堵して彼女から離れて、ベッドから降りる。

そして、セシリアもまたドレスを着用し、ソファーに腰をかけ、

「もう下がって良いわ。ご馳走さま」

「は、はい。では……」

「ポール」

「?」

「今夜、そうね。夜の九時ごろ、私の部屋に来て。話があるわ」

「話ですか? わかりました」

「約束よ。それじゃあね。ちゅっ」

 一体何の話があるのかと首を傾げていたポールの右の頬にセシリアがキスした後、ポールも顔を真っ赤にして一礼し、逃げるように部屋を出る。

 そんな初心な幼い使用人の様子をセシリアも得意気な笑みで見つめ、彼を手の平で弄ぶ事に快感を覚え始めていった。


 トントン。

「どうぞ」

「失礼します」

 夕飯も終わり、シャワーを浴び終えたポールがセシリアの寝室に向かい、ノックをして彼女の部屋に入ると、肩を出した大胆な紫色のドレスを着て、彼女がベッドに座り、読書をしていた。

「ここに座って」

「は、はい。あの……お話とは……」

「私と一緒に寝ないなさい」

「い、一緒に……えっ!?」

 突然、セシリアにとんでもない事を言われて、ポールは混乱して目を泳がすが、セシリアはそんな幼い使用人の頬を手に添えて、自分の方を向かせ、

「えっ? じゃないわ。一緒に寝なさいと言ってるの。嫌なの?」

「で、ですが、その……僕なんかと」

「ふふ、もしかして冗談かと思った? その通りよ。でも、私が冗談で言ったとしても、私が言う事には『はい』と言いなさい。ポールは私の物なのだから、命令には絶対服従よ」

「は、はい……」

 冗談だと聞いて、ホッと胸を撫で下ろしたポールであったが、それと同時に残念な気持ちにもなる。

 まだ十代前半であるポールは、『一緒に寝る』の意味を言葉通りに受け取っていたのだが、それでもセシリアと同じベッドで寝ると言われて、思春期の情欲を自然に刺激され、体が熱くなってしまったのであった。

「もう一度言うわ。私と今夜一緒に寝なさい」

「はい」

「くす、そうよ。でも、今のは冗談よ。悪かったわ。でも、仮に本気にして私を押し倒しても、私が 冗談と言ったら、その場で止めなさい。良いわね?」

「? はあ……」

 セシリアの言っていた意味がよく理解出来ず、ポールは首を傾げるが、彼女はそんな彼を手玉に取っている事に異様な昂ぶりを覚えてしまい、胸がゾクゾクと高鳴っていた。

「話はそれだけよ。じゃあ、お休みなさい。ちゅっ♡」

「――お、お休みなさいませ……」

 彼の唇に人差し指をそっと触れた後、セシリアが彼の左の頬にキスをし、ポールも顔を赤らめながら、一礼して立ち去ろうとすると、

「あ、待ちなさい。今、冗談を言ったお詫びよ」

「え? ん――っ!」

 咄嗟に彼の手を掴んで引き寄せ、セシリアが彼と口付けを交わしていく。

 彼女の唇が自分と重なっているのを感じて、ポールは目を見開いて固まっていた。

「ん……じゃあ、今日は下がって良いわ。また明日ね」

「はい……」

 セシリアが顔を離して、呆然としていたポールにそう告げると、彼も虚ろな口調で返事し、フラ付きながら退室する。

 全身が蕩けてしまいそうな気分の中、セシリアが何故自分にここまでしてくれるのかと考えながら、寝室に戻っていったのであった。

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