第十九話 ご主人様に初めて背中を流せと命じられ
「失礼します」
「どうぞ」
午後になりポールが、いつもの様にセシリアの部屋に紅茶と茶菓子のセットを運び、ノックして彼女の部屋に入る。
部屋に入ると、セシリアは仕事中だったのか、真剣な眼差しで書類に目を通しており、次々とサインを書いていたのであった。
「あの、それではこれで」
「待ちなさい。誰が出て良いと言ったのよ」
「え?」
紅茶のセットをテーブルに置き、一礼して退室しようとしたポールをセシリアが引き留める。
「ここに座りなさい」
「は、はい」
そして、セシリアがソファーに座り、膝の上に座る様に命じると、ポールもすぐに肯いて、主の膝に座る。
まるで飼い猫になった気分にもなっていたが、もうすっかりポールも慣れてしまい、セシリアの胸に顔を埋めて、小さな子供の様に甘えていたのであった。
「んもう、甘えん坊なんだから……」
まるで母親に甘える様に自分に身を預けていたポールをセシリアは我が子を見る母みたいな穏やかな眼差しで眺め、頭を撫でながら抱き締める。
セシリアからすると、母親みたいに見られるのはやや複雑な心境もあったが、自分に気をここまで許してくれた事が何より嬉しく、無邪気に甘える彼を見て母性本能を刺激され、更に強く抱いていったのであった。
「ねえ、ポール。この前、フローラが言った事、まだ気にしてる?」
「? いいえ」
「本当?正直に言いなさい」
「えっと……ほんの少しだけ」
セシリアが強い口調で、ポールに命じると、セシリアにしがみ付きながら、ポールが力なく呟く。
それを聞いて、セシリアも逆に安堵し、ポールの頭を撫でながら、
「学校に行きかったのね、本当は」
「はい……でも、当時はそうでしたけど、今はその……セシリア様とこうしているのが良いかなって思って……」
「ふふ、そう。なら、嬉しいわ」
と、正直に心境を打ち明け、セシリアも本音を曝け出してくれた事に喜び、頬ずりして褒める。
家が貧しく進学が出来なかったので、ハンナや他の裕福な友達が羨ましくも感じたが、そのおかげでセシリアに仕える事が出来たので、今は感謝している位であった。
「ふふ、こら、いい加減になさい。二人きりだからって、あんまり調子に乗っちゃだめよ」
「へへ……セシリア様、嫌ですか?」
「嫌じゃないけど、分別を付けなさいって言ってるの。くす、ポールって本当に甘えん坊ね。もっと真面目な子だと思っていたけど、ちょっと意外だわ」
二人きりなのを良いことに、ポールがいつも以上にセシリアに抱き付いて、甘えてきたので、セシリアも少し苦笑しながら、釘を刺すが、ポールは本気で彼女が怒っている訳じゃないのを見透かし、胸に顔を埋めてしがみつく。
しかし、これ以上やって、本当に困らせてはいけないので、セシリアから離れ、
「困った子ね。くす、でも良いわ。今日は多めに見てあげる。ちゅっ♡」
「えへへ……ありがとうございます。あの、それではこれで……」
「あ、待ちなさい。ポール、何か欲しい物ある? 今日、私に甘えてくれたご褒美に、何か買ってあげるわよ」
「そ、そんなの……」
「物じゃなくても良いわ。何かして欲しい事はない?」
「急に言われましても……」
そう言うが、ポールはセシリアの傍に居るだけで、幸せだったので、彼女にして欲しい事や欲しい物などは本当になかったのだ。
「じゃあ、しょうがないわ。今日、一緒にお風呂入りましょうか」
「え……」
考えているポールを見て、セシリアがそう告げると、ポールも目を丸くする。
「ほら、入って来なさい」
「し、失礼します……」
夜になり、浴室の前に立っていたポールがセシリアに呼ばれて、顔を赤くしながら中に入る。
入ると、広い浴槽と綺麗に掃除されたタイルが敷き詰められた中、シャワーを浴びていたセシリアが居たので、あまりに美しい彼女の裸体を見て、ポールも目を瞑りながら、タオルを下半身で巻いて、彼女の元に近づいていった。
「ふう……くす、まあしょうがないか。ポール、ちょっとこれで背中を流しなさい」
「は、はい……」
まだ十代の彼には自分の裸体を見るのは刺激が強すぎたと苦笑していたセシリアが、スポンジを渡し、バスチェアーに座って、背中を流すよう命じる。
本当は自分の体をすべて洗って欲しかったのだが、まだそこまで要求するのは早いと、背中を流す程度で我慢したのであった。
「ううう……」
「くす、おかしいの。この浴室、いつもあなたが掃除してるんでしょう?」
「いつもではないですけど、昨日は僕の当番でした」
「そうだったわね。使用人達の当番までは把握してなかったわ。アンジュにはたまに背中を流させているんだけど、それ以外の使用人にやらせるのは初めてよ」
長身でスレンダーで、肌理が細かく美しいセシリアの背中を慎重に石鹸で泡立てたスポンジで擦っていき、深呼吸を繰り返して気分を落ち着ける。
最初は緊張していたが、彼女と会話する内に気分も落ち着いていき、セシリアも安心して彼に身を預けていった。
「ポールはいつもお風呂は一人?」
「はい」
「まあ、そうね。ウチの使用人、大半は女だし、料理人は料理する時以外は、別の宿舎に住んでるもの。寂しい?」
「セシリア様が居るので、全く……」
「あん、嬉しい事を言うのね。いつから、そんな上手になったのよ」
と恥ずかしそうに言うと、セシリアも嬉しそうに彼の頬を指で突いて言い、湯気で濡れて一層色っぽくなっていた、セシリアの顔を見て、ドキっとする。
やはりとても美しく、ポールにはまだ刺激が強すぎたが、セシリアは彼の心境を見透かし、ニヤっと笑いながら、
「もう良いわ。体を流して」
「はい」
風呂桶に湯を入れて、セシリアの背中を一気に洗い流す。
彼女にこうして奉仕出来る事に彼も幸せを感じ、思わず背中に抱きついていた。
「きゃっ、こらあ……ポールって結構エッチなのね」
「へへ……駄目ですか?」
「駄目よ、調子に乗りすぎ。あなた、最近、おかしいわよ。そんなに私の体、触りたいの?」
「えっと……はい」
「素直に言ったわね。くす、でももうちょっと大人になったらね。あなたはまだ十四歳なんだから、子供なのよ」
ストレートに言った事にセシリアも少し驚いていたが、まだ十代前半の子とそこまでの関係になるのは彼の為にも良くないと思い、セシリアも釘を刺す。
が、一線を越えるのも時間の問題であり、後はどこまで二人が我慢出来るかであった。
「じゃあ、あなたも体を洗って。そしたら、一緒に入りましょうか」
「は、はい」
そう言って、ポールも慌てて体を洗い流し、セシリアと一緒に浴槽に入っていった。
「ふう……」
セシリアが広い浴槽に足を伸ばして浸かり、その上にポールが座る。
彼の背中には豊満なセシリアの胸が押し付けられ、ポールもその乳肌を堪能するように彼女に背を預けていったのであった。
「どう、初めての私との入浴は?」
「はい、とても嬉しいです」
「そう。なら良かった」
「毎日、入っても良いですか?」
「また調子に乗って。そんなこと言うと、またお仕置き。今夜は抱き枕の刑よ」
「すみません……」
そうおねだりすると、セシリアはポールの頬を抓りながら笑って、注意する。
しかし、二人の距離はどんどん縮まっているのをセシリアもポールも実感しており、熱い湯の中で主と幼い使用人は文字通り乳繰り合っていたのであった。




