第十五話 ご主人様への服従の証
「うう……」
フローラの別荘から帰った翌日、ポールはセシリアの部屋に呼び出され、彼女の前で正座させられた挙句、鬼の様な形相で睨まれながら、縮こまる。
セシリアに怒られるのはわかっていたので、覚悟していたが、彼女の威圧的な視線に押されてしまい、怯えながら、処罰を待つしかなかったのであった。
「はあ……ねえ、ポール。あなた、私の物だって自覚、本当にある?」
「あ、あります」
「ふーん。じゃあ、何で私の命令を無視して、フローラの言う事を聞いたのよ。ええ、まさかあの子にもう買収されてるのかしら?」
「違いますう……申し訳ありませんでした……はうっ!」
と、泣きながら土下座していたポールに、セシリアは長い足で顔を踏みつけ、問い詰めていく。
理由は何であれ、セシリアの命令を無視してしまったのは事実で言い訳が出来ず、ただ平謝りするしかなかったのであった。
「そう。ポール、私の足を舐めなさい」
「は?」
「は? じゃないわよ。舐めろって言ってるのよ。命令よ」
突然、セシリアが靴を脱いで、地面にひれ伏していたポールに右足を差し出し、舐める様、命じる。
冗談で言っているのかと思ったが、ポールも恥を忍んで、息を呑み、
「わかりました……んっ、ペロ……」
「っ! そうよ……もっと、犬みたいにペロペロ舐めなさい」
右足の指を舐められると、セシリアも一瞬、感じてしまい、ビクっと体を跳ねらせるが、動じてはいけないと、表情を変えず、高圧的な口調で、更に幼い使用人に命じていき、ポールも恥辱を感じながらも、美しい主の足を舐めていく。
まるで、犬になったみたいな気分になり、幼いポールにとっても耐え難い屈辱を感じてはいたが、これも罰だと思って、足を舐め続けていった。
「もう良いわ」
それから、一分ほど経ち、セシリアがやめる様に命じると、ポールもホッとしながら、セシリアから離れる。
「今、あんたが思ってる事を当ててやろうか。セシリアのクソババアが、僕に汚い足を舐めろと命令した事に怒りと屈辱でいっぱいになって、今に見てろと思ってるでしょう?」
「そ、そんな事思ってません……あうっ」
いくらなんでも、そこまで失礼な事、考えもしてなかったポールであったが、セシリアは彼の頭をまた足で踏み、
「良いのよ、別に思うくらいなら。あんたを怒らせる為に、わざとこんな理不尽な命令をしたの。ひどいご主人様よねー? 足を舐めさせるなんて。でもね、私が受けた屈辱もそれ以上なの。忠実だと思った使用人に裏切られたんだからね!」
「ふええ……」
怒りが収まらないセシリアは、八つ当たりの様に、ポールの足を踏みつけ、暴君のごとく振舞うセシリアを見て、ただ泣きじゃくる幼い使用人。
しかし、セシリアの命令に背いてしまったのは事実なので、ただこの恥辱とも言える処罰にも耐えるしかなかったのであった。
「私が足を舐めろといえば、舐める。膝の上に座れと命じて、そこから動くなと言えば、どんな状況でもあなたは従う義務があるの。ましてや、フローラの言うことを優先するなんて……あんたの罪は万死に値するわ。ここから、飛び降りてみる?」
「そ、それは……」
四階にあるセシリアの部屋から、飛び降りろと暗に言われ、ポールも青ざめるが、もし本当に死ねと命じたら、どうしようかと、悩んでいた所、セシリアが溜息を付き、
「そこまではまだ命じないわ。あんたを死なせたからって、別に私の気が晴れる訳じゃないし。でも、罰は受けてもらうわよ」
と言って、セシリアが立ち上がり、机の引き出しから、何か小箱を取り出す。
「今日からこれを付けなさい」
「これは……」
ポールの前に小箱を開けて、中を見ると、そこには指輪が収納されていた。
「左手を出しなさい」
「は、はい」
セシリアに言われて、ポールが左手を差し出すと、彼の薬指にその指輪を嵌める。
ダイヤの高価な指輪で、何故、こんな指輪を自分に嵌めたのか、理解出来なかったが、セシリアは頬を赤らめながら、
「サイズは問題なかったわね。良い? この指輪、私が良いって言うまで、絶対に外すんじゃないわよ」
「この指輪は……」
「あんたにあげた訳じゃないわ。これは私への服従の誓いの証として、嵌めたの。これをしている間は、私の命令に絶対服従よ。良いわね」
「…………」
セシリアがそう説明するも、ポールはわかったようなわからなかったような顔をして、キョトンとする。
彼女から見れば、婚約指輪を渡したような気分だったので、頬を赤らめざるを得なかったが、ポールはセシリアの指輪の意味をイマイチ、理解出来ずにいた。
「ああ、もう。鈍感な子ね。ほら、立ちなさい」
「はい……んっ!」
「んっ、んんっ!」
キョトンとしていたポールを見て、痺れを切らしたのか、セシリアがポールに立ち上がるよう命じると、彼の顔を掴んで不意に口付けを交わす。
いきなり、主と接吻させられ、目を見開いていたポールであったが、セシリアは構わず、彼の唇に吸い付き、あまりの激しい吸引に息が詰まりそうになっていた。
「んっ、ちゅっ、んん……んっ、はあ……」
セシリアが口を離すと、ポールは蕩けた目をして、彼女としばらく見詰め合う。
朦朧としていたポールであったが、セシリアが潤んだ瞳で、何処か弱々しい不安げな顔をしており、その表情が何処か色気を帯びていて、見とれてしまう程であった。
「もう……あんたは私だけの物よ。わかった?」
「はい……」
「うん。じゃあ、もう下がりなさい。今日はあなたの食事は抜きにするわ。これも罰よ。良いわね? 指輪を見る度にそれを肝に銘じなさい」
「は、はい!」
頬を膨らませながら、セシリアがポールにそう命じ、ポールも軽く頭を下げて退室する。
しかし、セシリアはポールが自分に忠実なのは理解しながらも、彼が他の女に奪われないか、不安で頭がいっぱいになり、フローラを初め、彼に近づく女をどう排除しようか、頭を抱えるばかりであった。




