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女貴族に買われた少年が厳しく可愛がられて、養われます。  作者: beru


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第十三話 忠実な使用人が奪われた?

「ムムム……」

「あのー……僕、やっぱり今日は……」

「ええ、行きたくないって言いたいんでしょ。わかってるわ。私だって、本当は貴方を連れていくのは嫌だし、今だって断る口実を考えている最中なの。でもね、今回は叔母様が手配したチケットで同行する事になってるから、招待されているあんたを連れて行かないと、叔母様の顔に泥を塗る事になるの。しかも、一番高い席のチケットだしね。本当なら、ポールが入れる様な席じゃないのよ、わかってる?」

「は、はい」

 と、馬車に揺られながら、セシリアがポールに八つ当たり気味に、当り散らすが、ポールは理不尽さを感じながらも、主人には逆らえず、反論もしないで、ただ頷く以外になったのであった。

 今日は、フローラに誘われたオペラが開催される日であり、約束どおり、セシリアはポールを引き連れて、劇場へと馬車に乗って向かっていたが、彼女は終始不機嫌で、ポールもとても居心地が悪い気分になっていた。

「全く、何を考えているのよ、フローラは……」

 窓から外を眺めながら、セシリアはそう呟き、あの日、フローラが去り際に放った言葉が頭に過ぎる。

『あの子、私にちょうだい』

 何故、フローラがポールを欲しがっているのか。

 セシリアのお気に入りである事を察して、ポールを横取りして、自分を悔しがらせようとしているのだと考えていたが、万が一、本気でフローラがポールの事を好きだったらと思うと、気が気ではなく、誇り高かった美貌の貴族の苛立ちは高まる一方であった。

「ほら、着いたわよ。ここが、今回のオペラが上演される、国立劇場よ」

「うわあ……」

 そう考えている間に、今日、オペラを鑑賞する劇場に着き、その豪華な造りの大きな劇場を見て、ポールも圧倒される。

 オペラなど今まで見た事なく、自分には場違いではないかと思っていたが、この国立劇場を見て、改めて自分がこんな所に来て良いのかと思ってしまい、何故フローラが自分をここに誘ったのか、益々理解出来なくなっていた。

「あらー、遅かったじゃない、セシリア」

「フローラ。約束の時間通りじゃない。遅いも何もないわ」

 劇場を見てポールがポカーンとしていた所で、着飾ったフローラがセシリアに嫌味を言いながらやって来た。

「ポール、良く来たわね。会えて嬉しいわ」

「あ、はい。ご招待ありがとう……いたっ!」

 ピシっ!

 フローラがポールを見るや、彼と握手をしようと手を差し出すと、即座に脇に居たセシリアがポールの手を叩いて払い除ける。

「ちょっと、セシリア、何をするのよ?」

「ごめんなさい。彼って、貧しい農家の出身なの。だから、フローラみたいな高貴な貴族の女と軽々しく握手したら、貴女の手が汚れちゃうと思って」

「はあ? 何て、酷い言い草……自分の執事をそんな見下した様な目で見ていたなんて。可哀想、ポール。こんなご主人様の元で働くの嫌よね?」

「そんな訳ないでしょ! もう、行くわよ。てか、叔母様は?」

「ああ、お母様はちょっと急用が出来て、行けなくなったわ」

「は? 聞いてないんだけど」

「今、言ったんだけど。急な用事って言ったじゃない。後、もう一つ悪いニュースがあるわ。今回のオペラ、出演者が体調崩して、上演が中止になったのよ。ああ、残念だわ。とっても楽しみにしてたのに」

「ちゅ、中止っ!? ちょっと、ふざけないでよ! 何の為にここに来たと思っているの!?」

 思わぬ事を立て続けにフローラに告げられ、セシリアも動揺を隠せず、フローラに食って掛かるが、セシリアに詰め寄られながらも、フローラは平然として、

「しょうがないじゃない。私だって、とっても残念だわ。折角、ポールとついでに貴女も招待したのに、こんな事になって。お詫びに、私が食事に招待するから、それで許してちょうだい。ね、ポール?」

「い、いえ、そんな……」

 と、ポールに言うフローラであったが、あからさまに不機嫌な美しい主人の顔を伺いながら、どう反応すれば良いのかわからず、口を濁す事しか出来なかった。

「食事なんか良いわ。オペラが中止になったのなら、ここに来た理由はないわね。帰るわよ、ポール」

「酷いわ、セシリア。私が折角、悪いと思って、食事に招待してるのに、失礼だと思わないの? それに貴女は良くても、ポールが可哀想じゃない。ポールも今日のオペラ、楽しみにしてたわよねえ?」

「はい。でも……」

「そんな事はどうでも良いわ。ポールがどう思おうが、私が帰ると言ったら、帰るの。オペラなら、 後日、私が連れて行くから、それで今日は我慢なさい。じゃあ、行くわよ」

フローラの口車に乗せられて堪るかと、ポールの意見など無視して、セシリアは彼の手を引き、帰ろうとする。

 しかし、そうはさせじと、フローラはセシリアの手を引き、

「待ちなさい。今日は私に付き合って貰うから。ほら、来なさいよ」

「離して! もうここに用は無いわ!」

「どうかしらね。くす……」

「え? あ、ちょっと!」

 セシリアがフローラの手を払い除け、ポールの手を引きながら、強引に馬車を乗り込もうとすると、待機していた馬車がいつの間にか、二人を残してどこかに走り去ってしまった。

「な、何よ! まだ行って良いとは言ってないわ! 待ちなさい!」

 一体、何事かと狼狽したセシリアが馬車を追いかけるが、追いつける速度ではなく、あっと言う間に馬車が見えなくなってしまった。

「何なのよ、一体! ああ、もうどうするのよ、帰りは!」

「あーあ、残念ね。馬車が行っちゃったの。駄目よ、セシリア、ちゃんと待ってるように命令しないと」

「うるさいわね。良いわよ、また手配するから……って、あれ? ポール……あっ!」

「ふふん♪」

 仕方ないので馬車をもう一度手配しようと、業者の下へ行こうとしたセシリアであったが、手を繋いでいたポールの姿が見えなかったので、どこに行ったのか見渡すと、いつの間にかフローラがポールの手をがっしりと繋いでいた。

「しょうがないわね。セシリアは先に帰りなさい。私はポールと一緒に食事に行くから。さ、この車に乗って」

「あ、あの……」

 ポールは困惑しながら、フローラに更に腕を組まれて逃げられないようにされてしまっていたが、それを見て、セシリアは顔を真っ赤にして、

「ポール、今すぐ来なさい! 命令よ!」

「はいっ! あの、フローラ様……」

「駄目。今日は私に付き合ってもらうわよ」

「ふざけないで! ポール、あなたの主人は私よ! 命令が聞けないなら……」

「聞けないなら、どうするの?」

「う……」

 と、言いかけた所で、セシリアが口を噤む。

 普通であれば解雇と言いたい所だが、もしここでポールをクビにしてしまえば、フローラが代わりに雇ってしまう事が目に見えており、そうなればフローラの思う壺であった。

 それに、ポールも仮にも貴族のフローラの腕を強引に引き離す事は出来ず、ただフローラに腕を組まれて、オロオロするばかりであった。

「あ、来たわね。さあ、乗ってポール。タクシーに乗るのは初めてかしら? 今日は本当にごめんなさい。お詫びにお姉さんがたっぷりサービスしてあげるからね」

 ポールがどうしようか悩んでいる間にフローラが呼んだタクシーが来たので、嫌がる彼を引いて、後部座席に乗り込む。

 最近、普及したばかりの自動車に思わぬ形で初めて乗ったポールであったが、感慨に耽る間もなく車が発進してしまい、セシリアが一人惨めにも残されてしまった。

「ま、待ちなさい! 待てって言ってるでしょっ!」

 鬼の様な形相でセシリアがタクシーを追いかけると、フローラが運転手に止める様に命じて、停車し、

「仮にも貴族なのに、何てはしたないのかしら。ほら、セシリアも早く乗りなさい。嫌なら、二人でディナーを楽しむから、あんたはさっさと帰りなさいな」

「い、行くわよ! ふんっ!」

 フローラに言われて、仕方なくフローラも後部座席に乗り込み、ポールはセシリアとフローラに挟まれ、二人にぎゅっと腕を組まれた状態になる。

 セシリアは怒りを露にした目で幼い使用人を睨み付け、ポールは全く生きた心地がしないまま、タクシーの中で縮こまっていたのであった。

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