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女貴族に買われた少年が厳しく可愛がられて、養われます。  作者: beru


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第十二話 あの子を私にちょうだい

「ねえ、ポール。私、この所、とっても不機嫌なの。何でかわかる?」

「…………」

 晩餐会に帰った翌日の昼、ポールはセシリアの部屋に呼び出されて、座らされ、あからさまに不機嫌な顔をしたセシリアにそう問い詰められるが、彼女の威圧感に推されてしまい、縮こまって黙り込む。

「何でかわかるって聞いてるのよ! 黙ってちゃわからないでしょ!」

「っ! わ、わかりません!」

 黙っていたポールに痺れを切らしたセシリアが、彼の座っている机に向かって、鞭を叩き付けると、ポールも思わずそう答える。

「わからないですって? 本気で言ってるの?」

「うう……はい」

 泣きそうな顔をして、ポールはセシリアを見上げて答えるが、実際にはセシリアが何故怒っているのか、ポールも大体の見当は付いていた。

 しかし、その事をここでハッキリ言うと、却ってセシリアを怒らせると思い、彼は黙っているしかなかったのだ。

「わからない訳ないわよね。昨日の晩餐会で、フローラと踊ったりして……ポール、あなたはそんなに私を怒らせるのが楽しいの? ねえ、どうなのよ?」

「そ、そんな事ないですう……」

 セシリアは目を吊り上げて、鞭で彼の顎を上げて、更に問い詰めていく。

 涙目になっていたポールを見て、逆に母性本能が湧いて来てしまい、抱きしめたい衝動に駆られていたセシリアであったが、甘やかしてはいけないと思い、

「どうかしら? ハンナの事と言い、フローラの事と言い、随分と見せ付けてくれるじゃない。しかも、よりにもよって、あのフローラとなんて……誰が、あの子と踊って良いなんて許可出したのよ、ええっ!?」

「ふええ……申し訳ありませんでした……」

「ごめんで済んだら、鞭はいらないわね。この鞭は、あなたに使いたくなかったけど、ここまでされると、私も我慢の限界よ。この鞭の味、そんなに試したい?」

「ひいい……すみませんでしたあ……」

 鞭を頬に擦り付け、幼い使用人に昨晩の事を責め立てるセシリアであったが、無断で踊るなと言われても、仮にもフローラも貴族であり、セシリアの従妹と聞かされていたので、彼女の誘いを断る事など出来る筈はなく、やや理不尽さを感じていたポールであった。

「フローラはね、お母様の妹の娘で、私より二歳年下だけど、いっつも私に突っかかって来て、本当頭に来る子なのよ。昨日、あなたを誘ったのも、目の前で私に見せ付けて、悔しがらせる為だわ。でも、そんな事、ポールだってわかる筈よね? 初対面だけど、あの子と私の仲が良くないのは、あの時の会話で察しなさいよ、使用人なら!」

「はいい……」

 無茶苦茶な事を言いながら、セシリアがポールの胸倉を掴んで、怒鳴り散らすが、まさかここまで怒るとは思わず、ポールも恐ろしくて泣きじゃくるしかなかった。

 何故、フローラと踊った事にここまで怒るのかも、よくわからないまま、セシリアの理不尽な尋問は続き、釜茹でに入れられてる気分になっていたのであった。

「と言う訳で、ポールはしばらく私の隣の部屋に監禁よ。一歩も出る事は許さないわ」

「ええっ? あの、それじゃあ……」

「口答えするんじゃないわよ! 主人が与えた罰よ! あなたに拒否する権利なんかある訳ないでしょうが! 一歩でも出たら、この鞭で十回叩くからね! 良いわね!?」

「はい……」

 まるで、子供を怒鳴りつける母親の様な口調で、セシリアがポールにそう宣告した後、彼の腕を引いて、セシリアの隣にある、今は殆ど使われてない、両親の寝室へと閉じ込める。

 監禁と言う割には、部屋も広くて、豪華なベッドもあり、居心地は悪くなかったが、それでもここから出れないと思うと、とても息苦しさを感じてしまい、溜息を付かざるを得なかった。

「良い? 反省の色が見えるまで、出る事は許さないからね」

「セシリア様」

「何よ、アンジュ? 今、忙しいの後にして」

「あの、お客様が……」

「後にしてって言ってるでしょ! 今、取り込み中よ!」

「いえ、ですがフローラ様が……」

「はあ? 何であいつが! すぐに追い返して! 今は顔も見たくないわ!」

 部屋を出ようとした所で、アンジュから思いもよらぬ来客を告げられ、更にヒステリックに喚くセシリアであったが、そんな彼女を見て、セシリアの怒っている姿も可愛らしいと思ってしまったポールであった。

「そうは言いましても、クロワ様もご一緒なので……」

「叔母様が? く……あの女……仕方ないわ。客間に通して」

「は」

 フローラの母親、彼女の叔母も一緒だと聞かされたセシリアは、叔母まで追い返す訳には行かず、苦虫を噛み潰した様な顔をしながら、アンジュに家に案内するよう命じ、自身も客間へと向かう。

 自分をダンスに誘ったフローラが何をしに来たのかと、ポールも首を傾げていたが、この部屋から出る訳にも行かず、ただ部屋に待機するしかなかったのであった。


「あらー、セシリア、お久しぶりね」

「叔母様、お久しぶりですわ。フローラも、昨晩は世話になったわね」

「くす、ええ。ダンスも上達したようで何よりだわ」

 客間のソファーにフローラの母親で、セシリアの母の妹でもあるクロワと、その隣にフローラが隣に座り、セシリアも極力愛想を良くしながら、叔母と従妹に応対する。

 しかし、眉は引きつっており、怒りを隠す事は出来なかったが、叔母に対して失礼な態度は取れず、

「それで、今日は何の用ですか?」

「ああ、昨日、踊った子の事だけどね。あの子、セシリアの執事なんでしょう?」

「ええ、それが何か?」

「昨夜はいきなり誘って、彼に迷惑をかけてしまって……そのお詫びをしたいと思って来たの。今、会えない?」

「ポールに。ごめんなさい、今、ちょっとお使いに行かせていて、不在なのよ」

「そう。いつ帰ってくるの?」

「さあ。よくわからないわ」

 と、シラを切るが、何があっても絶対に会わせはしないと、決め込み、すぐに追い払う口実を考えていたセシリアであった。

「もう、この子ったら、昨日はセシリアに迷惑をかけて……」

「ごめんなさーい。可愛い子だったんで、つい」

(ついじゃないわよ!)

「じゃあ、待たせて貰おうかしら。時間かかるの?」

「わからないって言ってるでしょ。待たせても悪いから、用があるなら、私から伝えるわ」

「ふーん……」

 絶対に会わせまいと言うセシリアの意図を汲んだのか、フローラは意味深な笑みを浮かべながら、出された紅茶を口にし、

「わかったわ。じゃあ、これをこの子に渡して」

「何よ、これ?」

「昨日のお詫びよ。とにかく、絶対に渡してちょうだい」

 一枚の便箋をフローラはセシリアに渡し、セシリアも警戒感を露にしながら、それを受け取る。

 しかし、渡す気など毛頭なく、すぐに捨ててやろうかと思っていたが、

「オペラのチケットなの。あの子も招待しようと思って。くす、セシリアも一緒に♪」

「オペラのチケット? ふ、ふーん。わかったわ。渡しておく」

 彼をオペラに招待して何をする気なのかと首を傾げていたが、破る訳に行かず、渋々受け取る。

 だが、フローラは明らかにポールを狙っており、穏やかな彼女の笑みを見て、セシリアは更に苛立ちを募らせていった。

「じゃあ、私達はこれで。あ、そうそう、セシリア」

「何?」

「あの子、私にちょうだい」

「っ!?」

 とフローラがセシリアに軽く耳打ちし、セシリアも思わず目を見開く。

 そんな従姉を見て、得意げな顔をして母と共にフローラは屋敷を後にしていった。

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