プロローグ
プロローグ
「セシリア様、連れて参りました」
「ご苦労、アンジェ。下がってよろしい」
使用人の中年女性に案内されて、一人の少年が屋敷の三階にある奥の間へと入ると、屋敷の主である女性が紅茶を飲んで、緊張した面持ちをした少年を迎える。
「はじめまして。私がセシリアよ。今日から、私に仕えて貰うわ」
カールのかかったブロンドの髪を束ね、身長は百七十五センチとスラっとした長身で、ベージュ色の長いスカートのドレスを着こなし、いかにも貴族らしい凛々しく美しい顔立ちをした、その女の主の美貌に、まだ十四歳の色を知らぬ少年もしばし圧倒されてしまう。
ポールはこの地方の貧しい農家の三男で、小学校を卒業した後、都会の工場に働きに出されてしまったが、あまりに過酷な労働環境の為、逃げ出してしまい、実家にも帰れずしばらく路頭に彷徨っていた。
生きていく為には何とか仕事をと思い、職を探していたがまだ十代前半の学のない少年を雇う所も中々なく、仕方なく実家に帰ると、両親から、別のこの領主にポールを『売った』と告げられ、この屋敷に来たのであった。
困惑してたポールであったが、他に行く宛ても無かった為、この屋敷で働く事にし、使用人の女性に案内されて、主となるセシリア・オールソンに挨拶しに行く事になった。
「ぽ、ポールです。宜しくお願いします……」
「声が小さいわよ。もっと背筋をピンと伸ばして、シャキっとなさい。私の使用人になる以上は何処に出しても恥ずかしくない様、作法を身につけてもらうわよ」
「す、すみません……」
セシリアが、ポールにそう注意すると、ポールも彼女の高圧的な口調で威圧されてしまい、更に縮こまって、頭を下げる。
彼女は代々、この地を代表する貴族の令嬢で、一昨年、両親が馬車の落馬事故で他界し、現在二十七歳の若さで広大な農地と山林を所有する地主として君臨していたのであった。
「ふん。まあ、今日は初日なので、大目に見るわ。ほら、これに着替えなさい」
「あ、はい」
緊張して固くなっていたポールを見下しながらセシリアが言うと、彼女はポールに執事様のワイシャツとズボンを手渡し、着替える様に指示し、ポールが着替えのために退出しようとすると、
「待ちなさい、何処に行くつもり?」
「え?」
執事服に着替える為に、部屋を出ようとした彼をセシリアが呼びとめ、ポールもキョトンとした顔をして
「ここで着替えなさい」
「…………は、はい?」
「だから、ここで着替えろと命令しているの。わからないの?」
「でも……ひっ!」
バンっ!
何故、ここで着替えないといけないのかと訝しげな顔をしていたポールであったが、セシリアは鞭を手に持って、床に思いっきり叩きつけ、
「もう一度、言うわよ。ここで着替えなさい。私の命令が聞けないのかしら? あなたは私の『物』なの。命令は絶対よ」
「は……はい……」
怯えていたポールに鞭を突きつけて威圧的な目で見下ろしながら、そう命じると、今度は本当に鞭でぶたれると思ったポールは泣きそうな顔をしながらも、命令に従い、セシリアの目の前で服を脱ぎ始める。
主の命令とは言え、人前で、しかも女性が見ている目の前で、服を着替えるのは、ポールにとっても恥かしい事であり、顔を真っ赤にしながら、着ていたシャツを脱ぎ、少し汚れていたズボンも脱ぐ。
十四歳にしても小柄で女の子のような可愛らしい顔だとした、ポールが着替えている所を、セシリアはじっと眺めており、下着姿になっていたポールも羞恥のあまり顔を赤くするが、そんな彼の様子をニヤつきながら、セシリアは見つめていた。
「き……着替えました」
「もっと早く着替えなさい。この程度で恥かしがっていたら、私の付き人は務まらないわよ」
「すみません……」
真新しい執事用の服に着替えたポールを愉快そうな目で見つめながらそう言い、ポールも居心地の悪そうな顔をして頭を下げる。
貴族らしい堂々とした威圧感を放つセシリアを見て、ポールは機嫌が悪いのかと思い、彼女と二人きりで居るのが苦痛にすら感じていた。
「来なさい」
「? はい」
そんな彼を手招きして、セシリアは窓を開き、
「ここから見える土地はすべて、私の所有物よ。二百年以上前からずっとこのオールソン家の所有してる土地なの。もちろん、ポールあなたの家の農地もそうよ」
「はあ……」
彼女は三階の自室から見える、美しい小麦畑と山林、そして村々をポールに見せ、自身の所有している土地の広大さをみせつけ、彼も地平線の彼方まで見える農地を見て、改めて圧倒される。
そして、圧倒されていたポールを見て、得意気な笑みを見て、
「わかったわね。ここでは、私の命令は絶対なの。特にポールは私が買い取ったのだから、私の命には服従が原則。拒否は許さないわ」
「は……はい」
そして、セシリアは彼の頬を両手に添え、
「そう。何でも言う事を聞くのよ。例えばこんな事も拒否は許さないわ……」
「――っ!」
と言いながら、ゆっくりと顔を近づけると、セシリアはポールと口付けを交わし、突然の事でポールも驚いて目を見開く。
唇を重ねると、セシリアは逃がさないとばかりに幼い少年の体を強く抱き、唇を啄ばんでいったのであった。
「んん……んっ、ちゅ……んん……」
それからどれくらい口付けを交わしていっただろうか?
何十秒かした後、ようやくセシリアはゆっくりとポールから口を離し、
「ふふ、じゃあ。今日はもう下がりなさい」
「…………」
「聞こえなかったの? 部屋から出ろと言ってるのよ」
「は、はい!」
呆然としていたポールに強くそう言い、ポールもやっと正気に戻ったのか、顔を真っ赤にして一礼して、部屋を逃げるように出る。
自分が何をされたのか理解出来なかったポールだが、彼女のやわらかい唇の感触を思い出すと、顔が真っ赤になってしまい、パニックになっていた。
「くす、可愛い子ね。たっぷり、楽しませてもらうわよ」
慌てて逃げ出したポールを見て、セシリアは嬉しそうな笑みを浮かべてそう呟く。
可愛い使用人を手に入れ、どう扱おうか想像しただけで、彼女の心が躍っていったのであった。