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第九章 異端者

 仏陀が大勢の比丘を集めて説法せっぽうを始められました。

「教団が大きくなってくると教義を自分勝手に解釈する者が現れてきます。 例えば、【くう】については、皆さんご存知の通り空とは実体が無いという意味です。しかしながら皆さんの中の縁起論者は【空】を勝手に解釈して、あらゆるものは縁起えんぎ(因と縁によって現象が生起すること)によって生じるのであるから、他のものとの関係性に依存しない独立不変の実体は無いと説明している者がいるそうです。しかし、仏法とはそのように頭で考えたものではないのです。仏法は頭で考えることをめて、坐禅で三昧に入ることで無意識的な思考さえ停止させることで、ありのままを観ることができるようになり、思考や言葉による価値判断をする前の純粋な体験、つまり【正念】の状態を少しも途切れることなく一週間以上継続すれば、世界を形成するの心の働きを停止ことができます。その時、この世界が消失する体験をすることで、この世界はただ心の働きによって形成されたものであり、実体は何も無いと悟るのです。つまり縁起と【空】は全く関係が無いのです。もう一度言います。現象世界あるいは物質世界と言われるこの世界は心の形成作用によって仮に作られたものであるから実体は何も無いのです。これが【空】です」と仏陀は説法をされ、更に話題を変えて説法を続けられました。

「【解脱げだつ】について、一部の者達は輪廻転生から【解脱】することだと思い込んでいるそうですが、それはバラモン教の【解脱】です。仏法では心の働きによって形成された迷いの世界から【解脱】することを目指します。心の働きによって形成された世界は【諸行無常】と言うように【無常】であり、【苦】です。そして【解脱】を達成すれば、もはや生まれることもなければ死ぬこともなく、輪廻転生することもありません。このようにして、あらゆる苦しみから完全に解放されることが仏法の【解脱】なのです。ちなみに、輪廻転生とは迷信であり、そのような現象が実際に起こることは絶対にありません」と仏陀は説法をされ、更に話題を変えて説法を続けられました。

「次に、観の瞑想について、本来は純粋な体験は全てで一つの体験であると指導したにもかかわらず、分別論者達は勝手に4つに分けて身念処・受念処・心念処・法念処などと称しています。更に悪いことに本来の観の瞑想は一切の価値判断をしてはならないと指導していたにもかかわらず、身念処では身体からだの不浄を観ずるなどと勝手な価値判断をしている者がいると聞きました。身体への執着を消すにはそのような自己暗示のような方法ではなく、【正念】をずっと継続し続けることで世界が消失する体験をすれば、あらゆるものには実体が無く、執着の対象など何も無いと悟るのです。このように仏道修行とは雑念と思考を徹底的に無くす瞑想修行です。頭で考えてはいけないのです。このことをきもめいじておくように」と仏陀は説法をされました。

 この説法を聞いていたシャーリプトラはこの素晴らしい説法を忘れないように、また誰でもがいつでも見ることができ、仏法を間違って解釈しないように文書にして残しておきたいと思い発言した。

「世尊、この素晴らしい説法を是非文書にして残したいと思います。私に仏法の聖典を編纂へんさんすることをお許し下さい」

「シャーリプトラよ、仏道は単なる学問ではありません。仏道の基本は瞑想修行です。この瞑想修行は書物を読んだからといって出来るものではありません。必ず師匠について修行し、奥義おうぎについては以心伝心いしんでんしんによって教化別伝きょうげべつでんされるものです。聖典などを作ればこれを読めば解脱げだつできると誤解を与えることになります。だから私は書物は一切書かなかったのです」

「なるほど解りました。師匠からの直伝でなければ本物の仏道ではないという、こんな当たり前のことに気付かないとは。私は何と浅はかなのだろう」と言い、シャーリプトラは大いに反省しました。


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