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ゴースト・ナイト・フィーバー  作者: 松田鶏助
1/1

廃病院の怪1

怖くないホラーを目指して書きました。

主人公共々、喧しく楽しく読んでいただけたらと思います。



 こんにちは!俺はちょっと訳ありの霊感少年!故あって同級生と廃病院なんかに肝試しに来たのが三十分前。怪奇現象に見舞われ全員が悲鳴を上げたのが五分前。俺になまじ霊感があるばっかりに怪奇現象とモロ目があって腰が抜けたのも五分前。無情な仲間たちに置いてけぼりにされたのも五分前。

 つまり、目の前の辛うじて人型を保つ肉塊の四つの目玉と見つめ合って五分経過しているというとだ。

五分って言うと短いかもしれない。けれど皆さん、今実際に五分間虚空を見つめて見てください。…………ほら、いままだ三十秒も経っていません。そう、五分は意外と長いのです。カップうどんの五分間。耳鼻科の謎のスースーする呼吸器を吸ってる時の五分間。駅の電車を逃して、次の電車が来るまでの五分間。短いようで長い五分間。なんで時計も見ないで五分測れるのかって?それは俺が超正確な体内時計の持ち主だから。霊感に加えて地味にあって嬉しいのか嬉しくないのか分からない俺の能力だ。

 ただぼんやりと五分過ごすのならば良かったかもしれない。しかし俺がいま目の前にしているのはビクビクしながらこっちを揃って見つめる七つの目を持ったぐちゃぐちゃの顔面、ドロドロの髪の毛、呼吸してるっぽいんだけど血生臭くて冷たい息。どこからどう見てもトリッキークソやばい化け物だ。ホラー映画とかでモンスターが出てきた時、最初はびびるものの慣れるとかよくあるじゃん?全ッッッッ然慣れない。むしろ目を逸らしちゃやばい気がするせいで細部まで観察しちゃう。気持ち悪い。無理。無理無理無理。こうしてベラベラ頭の中で喋ってるのにまだ一分も経過していない。というかこれ以上経過しないで欲しい。気になる異性と三秒以上目があったら脈ありっていうけどこの場合どうなんでしょうねまあ化物との脈なんてあっても困るむしろ切りたいエンガチョさよならフォーエバーしたい。というかなんで七つも目があって全文の目で俺のこと見てるの!?それだけあったら分散してもよくない?なんで七つもあって全集中でルックアットミー?俺何かしました?いやまあしたといえばしましたあなたの領域に踏み込みましたでもそれは同級生も同じことだろうなんで俺だけ俺だけがこんな目に合わなきゃならないんだあーあーあー神様でも仏様でもいいから誰か助けてくれ!!



 そんな俺の願いが叶ったのかどうかは分からないが、あるいは天の気まぐれか何かなのかもしれないが。

あるいは世界とは、案外ピンチにヒーローが現れるようになっているのか。

「ちぇえええええすとぉぉぉぉぉお!!!!」

 どこぞの薩摩侍的な掛け声とともに目の前の化け物が木刀にぶん殴られて吹き飛んだ。なんか、青い光を撒き散らしながら。

 俺の脳みそはキャパオーバーしてしまって、その場で一旦意識を閉じた。


「………し………もしもーし?オニイチャン、生きてっか?」

 ぺちぺちと頬を叩かれ、俺は目を覚ます。ぼんやりとした視界の先で男がこちらを見つめているのがわかった。

 男は木刀を肩に担いでしゃがみ込んでいる。やたら長い前髪に、目の下にクマみたいなメイクをして耳や唇にピアスを沢山つけていた。右耳のピアスなんか、直系二センチはあるんじゃないかってくらい大きな穴が空いている。

 ふふ、一目でわかる。怖い人だ。

 俺は静かに目を閉じる。

「おい起きろや」

「いっでーー!」

 額に衝撃を受け、俺は悲鳴を上げながら飛び起きる。なんだ。めちゃくちゃ痛い。見ると男は指に厳ついシルバーでできたとんがりコーンみたいなのを付けていた。そんなのでデコピンされたら痛いに決まってるじゃん!

「何するんだよ!」

「おーおー叫べるなら元気だな。だが夜にはしゃぐんならもうちょい明るいとこにしいや。コンビニの前とか、公園とかあるだろ」

「いや別にはしゃぐためにここにいるわけでは………」

 ないと否定しようとして、そうとも言い切れないと気づく。元々は肝試しに来たんだった。

「ちょっと先輩〜サボんないでくださいよ〜」

 間の抜けた高い声が割って入る。男の後ろの方にゴスロリ服にモデルガンを持った女の子が立っていた。何これ。ハロウィンは半年後だと思うんだけど。

「サボってねえよ。部外者いるとこで派手にやれねえだろ」

「そりゃそうですけどぉ………」

「あの………あなたたちは?」

 月並みな問いかけだが、聞かないわけには行かなかった。だってどう見たって謎すぎるこのコンビ。エモファッションの木刀持った男とモデルガン装備のゴスロリ少女とかなんだ。コスプレ撮影会かなにか?二人ともかなり顔面偏差値が高かったからそうかもしれない。くそう、イケメン死すべし。

「あー、俺は冬海戒精。こっちのは沙楴って名前だ。オニイチャンは?」

「えっと、相楽叶多っす………」

 さらっと名乗ってしまった。まあ名前くらいならいいか。

「んで?叶多はなんでここにいんの?」

「大方、肝試しに来たものの置いてかれたとかじゃないっすか?」

 割って入る少女の言葉が痛い。そうですその通りでございやす。俺は置いてけぼりの悲しいチキンです。

「なるほどな。さっき聞こえた悲鳴はそういうことか」

 同情するような顔やめてくれませんか。だんだん自分が惨めになってくるじゃないか。

「とりあえず、出口までは送ってやるよ。そこから先は自分で帰れるな?」

「………っす」

 俺はただ頷くことしかできなかった。正直、そうしてくれる方がありがたいのも事実だし。


 戒精さんと沙楴ちゃんに挟まれながら俺は出口まで送ってもらうことになった。しかしなんでしょうねこのフォーメーション。普通こんなおっかない場所なら沙楴ちゃんを挟んだほうが普通な気がするのになんで俺を守護する形態なんでしょうね。

「叶多は高校生なのか?」

「アッ、ハイ。そうです……」

「じゃあ沙楴と同じくらいだな」

「そうっすねー」

「戒精さんは………」

「あー………一応コンビニ店員?やってる。副業だけど」

 和気藹々と?会話をしながら俺たちは暗い廊下を進んでいく。戒精さんは思ったよりも身長が高かった。自販機くらいはありそうだけどどうなんだろう。沙楴ちゃんが俺より少し高いのは彼女が履いている高いヒールのせいだろう。そうであってください。

 廊下はリノリウム張りになっているものの、経年劣化と吹き込んだ泥やら砂やらで大分汚れていた。診察の科を示すプレートもかなり汚れて見づらくなっている。俺は戒精さんの話に相槌を打ちながらぼんやりと流れる文字を読んでいく。

 外科…内科…皮膚科…泌尿器科…婦人科…脳外科…神経外科…歯科……内科…皮膚科…………。

 ん?と俺は気付いてしまう。

 さっきも内科と皮膚科、なかったか?それとも大きい病院だから内科と皮膚科が二箇所あるのか?

 見間違いかもと思い、続いて現れるプレートの文字をもう一度確かめる。泌尿器科…婦人科…脳外科…神経外科…歯科…………………………内科…皮膚科…………………。

 こめかみに嫌な汗が伝う。まさか。まさかとは思うが。

 目の前の景色を確かめる。目の前には長い長い廊下が続いていて、果てがない。長い回廊式の建物なのかもしれない。そう思おうとして、そんなわけがないことを思い出す。だって俺はここにくる時、同級生と一緒に階段を登ってきた。なのに、いくら歩いても、上りの階段も下りの階段も現れなかった。

「ねえ、戒精さん………」

「ん………?」

「ちょっと変なこと、聞くんだけどさ」

 本当に変なことを聞くのかもしれない。

「もしかして俺たち……同じところを歩いてません?」

 そんな馬鹿なと、言ってくれ。何言ってんだよそんな事ねえよとこづいてくれ。頼む。頼むから。

 ぽかんとした戒精さんの顔があると信じながら隣を見上げる。しかし戒精さんは廊下の先を真っ直ぐに睨みつけたまま木刀に手を掛けた。

「なあ、沙楴……」

「言われるまでもなく気付いてるっすよ」

 何に、気付いているんだ。問いかけようとして、頭上に圧が掛かる。戒精さんが俺ごと床に伏せたのだ。

何をするんだと抗議しようとして、頭上を緑色の光が飛んでいくのを見てしまった。なにあれ、と考える間もなくモデルガンの発射音がパンパンと鳴り響いて青い光が迸る。

 光の正体を確かめようと前を向いて俺はそれをモロに見てしまった。生首。ナースがよく被ってる帽子を被った、女の人の頭が緑色の炎に包まれて浮かんでいる。深いクマの刻まれた目は濁って腐った卵みたいな色をしているのに、どういうわけか俺はそれと目が合った。合ってしまったと、直感した。

「ヒッ」

 悲鳴を漏らした途端、生首がにやにやと笑いながら俺目掛けて凄まじい速さで飛んできた。例えて言うなら野球部エースの投げたボールくらいの速さで。

あ、終わった。

 なんとなく、あれに襲われて死ぬなと思った。逃げなきゃと思う前に体が固まってしまった。うさぎはライオンに噛まれて死を覚悟した瞬間自ら命を経つと言う話をなぜかコンマ一秒の間に思い出していた。これが走馬灯というやつだろうか。すべてがコマ送りのように見えていた。生首が飛んでくるのが見える。見えるのに、動けなかった。

 視界の端で、何かが動く。振り抜かれた木刀が綺麗な軌道を描いて………生首を、打ち返した。

「成仏しろオラァッ!!」

 ドスの効いた声が響くと共に化け物は奇声を上げながら青い光を撒き散らして霧散した。

「動けるか?叶多!」

「え、あっ!はい!」

 戒精さんに声をかけられて俺は我に帰る。死ななかった。死ななかったけど今のなに!?

「戒精さん、今のなんですか!?」

「火の玉ってやつかな」

「そうじゃなくて、その、木刀!それで殴っならなんかブワーって!青い光が出て!」

「あー……これな」

 手に持った木刀をホームラン宣言みたく掲げながら戒精は苦笑いする。

「まあそういう仕事っつーか。生業っつーか。簡単に言うと拝み屋ってやつ?」

「拝み屋???」

「えーっと、ゴーストバスター的な?お化け退治?」

 いや意味がわからなかったのではなく!その格好で?拝み屋!?ていうか実在さんのその仕事!

「悠長に話してる場合じゃなさそうっすよ先輩!団体様のお通りっす!」

 沙楴ちゃんの指差した方向を見ると、廊下の向こうにいくつもの緑色の光が浮いていた。反射的に俺は目を逸らす。逸らしたけど間に合わなかった。ばっちりみちゃった。火の玉の中に切断された手とか、足とか、なんか内臓みたいなものとかも見えた。なにあれ。趣味の悪いジグソーパズル?

「おうおう数で勝負ってか?バラバラになってそれぞれに怨念があるとかタチが悪いのなんのって」

 戒精さんががなりながら木刀を構え直す。

「叶多ぁ、巻き込んじまって悪いがどうやら俺たちは幽霊に歓迎されちまったらしい」

 そんな喜ばしい感じですかね。もっと絶望的なんじゃないでしょうか。

「歓迎じゃなくて取り込まれかけてるんでしょうが」

 あ、やっぱりはっきり言わないでください。絶望を具体的に説明されても絶望が深まるだけでした。

「叶多!しばらく俺たちから離れるなよ!」

 言われるまでもない。木刀を振り翳すギリギリの範囲内でお供させていただきますとも。

 ああ、父さん、母さん。どうやら俺はとんでもないことに巻き込まれたっぽいです。遺言の一つでも残した方がいいのでしょうか。

 怯えて震える事しかできない俺をよそに戒精さんが威勢よく声を張り上げる。

「サアサア、楽しいゴーストナイトの始まりだ!」


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