第41話 VS 堀井田 涼星(3)
「おい、あいつ何やってんだ!!」
「生身で攻撃くらったらどうなるかさっき分かっただろ!!早く防御発動しとけ!!」
「勝負を放棄する気かぁ!?」
周りから様々な声が聞こえる。ざわめいていた観客達が、防御魔法を完全に解除したことでその声が更に大きくなった。大丈夫、これも作戦のうち。僕の予想が正しければ、彼は僕の仕込んだ魔法については既に気付いているはずだ。恐らく今は様子を伺っている段階、僕が油断する隙を探している。ならば敢えて油断を、隙を作る。相手が僕を殺す気でいるのなら、殺意を利用してしまえば良い。
「そして警戒すべきは──」
「そこだぁぁ!!」
バギィッ!!
不意に現れた堀井田君に渾身のアッパーを決められた。顎の割れる音、衝撃で吹き飛ぶ自分の身体。視界は酷く歪み、僕を取り囲む世界が幾重にも重なって、今にも吐きそうになる光景が目に映った。しかし、僕にとってはそれも作戦のうち、寧ろ更に不意を付かれたのは堀井田君の方だ。
「なっ!?」
拘束魔法で縛られる堀井田君。そう、僕は顎に攻撃を受けることを読みきっていた。というより、そうなるように誘導したのだ。
「まさかお前...!?」
そう、『吸収性退魔』で感じた違和感、あの時魔力は地面から漏れ出していた。岩石竜を作り出した事による残った魔力かと思ったが、それは明らかに動き回っていた。堀井田君は地面の中に隠れている、そう思った僕は、地面に魔法を仕掛けたのだ。それは拘束魔法、辺り一面に、踏めば発動する拘束魔法を仕掛けた。そう、この魔法陣は直接踏まないと作動しない。彼なら独自魔法でもない魔法陣ならすぐに分かるだろう、そうすることで、彼が自分が何処にいるのか相手は分かっていないと思い込ませた。そして敢えて防御魔法を解除することで、相手が油断していると見せかけた。そうなれば彼はとどめを刺しに来るだろう。そして攻撃してくる場所も大体予想が着く。下から殴りかかる攻撃なら何処が一番大きなダメージを与えられるか、それが下顎だ。脳を刺激させれば、殺すまでは行かなくとも気を失わせることならできる。だからこそ、僅かな魔力を使って下顎に、触れれば発動する拘束魔法と、『吸収性退魔』を発動させた。
「...っはは!!やっぱ面白ぇなお前!!」
朦朧とする意識の中、僕は剣に魔力を込めた。先程の一撃は殺しにかかるといった言葉の通り、桁違いの魔力だった。これならあの『独自魔法』、今まで練習してきた技の中の最後の一つで勝つことができる!!
「だがもう勝負は着いたも同然!!勝たせてもらうぜ!!」
今にも拘束は解かれそうだった。それなりに硬化魔法も貼っておいたつもりだったが、それでも時間稼ぎ程度にしかならなかった。けど──
「時間を稼げればそれでいい!!」
この『独自魔法』は発動に時間がかかる。その間の時間稼ぎになれば充分だ。ぼんやりとだが視界も晴れてきた。これで狙いを外さずに済む!!
「うらぁぁぁあ!!」
拘束が解かれ、一直線で僕に向かってくる。どうか間に合ってくれ!!
「終わりだぁぁぁああ!!」
堀井田君の拳がすぐ間近まで迫っていた。しかしそのタイミングで、僕の最後の独自魔法、『魔滅の光』が発動した。
「行けぇぇぇぇぇぇえええええ!!」
これが今の僕の全力、ありったけの力だ。『魔滅の光』は、持っている魔力の九割を込めた光線、彼が殺す気になった魔力も全てが込められた最大の一撃だ。
視界が完全に世界を捉えた時、『魔滅の光』は既に途切れていた。魔力不足だからか、まだ脳へのダメージが残っているのか、その場にへなへなと座り込んでしまった。 堀井田君は?そう思って顔を上げ、光線の軌跡を辿っていく。行き着いた先は大きな穴が空いてしまった壁の中。その中で、堀井田君は完全に気を失っていた。
「勝っ...た...?」
審判員が堀井田君の元に駆け寄り、意識の確認をする。そして──
「勝負あり!!勝者、小林 和真!!」
瞬間、大歓声に包まれた。三英雄の一人、俊君や平次君と並ぶ実力者である堀井田君を、僕は倒すことができた!!
「よくやったぞ坊主!!」
「三英雄に勝つなんてやるなぁお前!!」
「最高だったよ!!良い試合をありがとうね!!」
「期待のルーキーここに誕生か!?」
次々と、僕に対する賞賛の声が上がった。その声はとてもむず痒かったが、同時にとても嬉しい気持ちになった。勝利したことによる安堵で緊張が解れ、僕は大きく息を──
「いだだだだだだだ!!」
吸おうと大きく開いた口に激痛が走る。意識を失うことだけは避けられたとはいえ、あの堀井田君の一撃を防御魔法無しでくらったんだ。恐らく顎の骨は折れているだろう。堀井田君が運ばれていくのを確認してから、僕は観客席に一礼をし、激痛に耐えながら医務室へ向かった。
「よくもまぁ、こんな骨バッキバキにされて戦い抜いたね」
「本当、不思議です...」
肋は全て折れたかヒビが入っており、顎の骨は変形し、頭頂部にまでヒビが広がっていた。言葉通りのボロボロの身体、堀井田君の一撃を生身で受け止めた自分を褒め讃えたい気分だ。
「しかしあんた、よくもまぁ三英雄なんか倒したね、ここらじゃ敵無しの三人だって言うのに...もうちょっとボロボロになって死体も同然みたいな姿で運ばれてくるかと思ったのに」
勝ったのに改めて三英雄の、堀井田君の恐ろしさを痛感した。
「──はい、これでもう大丈夫だろ!!そろそろ次の試合も始まる、観に行くなら急ぎな!!」
「あ、はい!!ありがとうございます!!」
やたら元気な先生だったなぁと思いつつ、僕は医務室を後にする。と言っても、これから三試合目が始まり、次の四試合目からは二回戦、再び僕の試合だ。次の相手は、天宮さんとの試合で勝ち進んだ黄泉月さん。彼女は一体どんな能力者なのか、対策を考えながら控室へ──
「って黄泉月さん?どうしてこんなところに?」
「あぁ、小林さん!!...ということは、第二試合終わったんですね!!そろそろ控室向かいましょうか!!」
偶然、通りかかった通路で黄泉月さんを見かけた。何をするでもなく、壁にもたれかかっていた。
「第二試合、どうでした?」
「なんとか勝つことができたよ...」
「本当ですか!!それはおめでとうございます!!...ということは私の次の対戦相手は小林さんですね!!よろしくお願いします!!」
「うん、よろしく。...ところで、何故こんなところにいたの?」
「あぁ、それはですねぇ...」
少し苦笑いを浮かべ、彼女は続けた。
「天宮さんとの試合に勝ったことで、観客席にいた天宮教の人達から大ブーイングを受けてしまいまして...ホントは試合観に行きたかったんですけど、あの中に紛れるのにはちょっと抵抗がありまして...」
黄泉月 茶愛羅さん。彼女もまた苦労人であった。




