第40話 VS 堀井田 涼星(2)
「明魅先生〜」
「どうしたの?仰音道さん」
「暇ですね〜」
「そうだね。でも、いつ怪我人が来てもいいように準備はしておかないといけないからね」
「そうですけども〜...別グループの試合見ていてはダメですか〜?」
「そう言われても...ここのモニターは試合終了と同時に私達が動ける為の物だからなぁ」
「そうですよね〜...」
「気になる試合があるの?」
「はい〜、友達の試合がそろそろ始まる頃かと思いまして〜」
「申し訳ないけど、こちらの試合ももうすぐ終わりそうだし、休憩時間中に確認してね?」
「は〜い...」
二人共、大丈夫でしょうか〜...。
「どうしよう...」
状況は優勢に見えるかもしれないが、未だ劣勢であることにあまり変わりは無いことは僕だけが知っている。幸い堀井田君が魔力吸収の能力に気付いていないのだが、『吸収性退魔』を貼り続けられる程の体力はまだ回復しきれていない。
「そっちが来ないなら──って何回も言ってるなこれ」
お互い見合う時間があり、再び堀井田君が先手を取ろうとするが、今度は今までと違い、魔力は片腕だけに集中、そしてこちらに向かって来ることはなく、その場に留まったままだ。
「俺式の地獄を見せてやる」
そう言うと彼は、僕の防御魔法を粉砕した時と同じスピードで地面を殴り始めた。
「特別に教えてやる!!俺の『天撃破腕』はじゃんけんみたいに三タイプある訳よ!!さっきみたいな防御魔法も壊せる対象破壊能力が『災石拳』な!!そして──」
突然、堀井田君を中心として突風が吹き始める。しかしこれは魔法によるものではなく、魔力が殆ど吸収できない。慌てて防御魔法を展開するが、その防御魔法ごと吹き飛ばされそうになっている。
「風起こして一気に敵を吹き飛ばすのが『覇振掌』だ!!」
吹き飛ばされないよう必死に抵抗する。このまま場外に吹き飛ばすつもりなのだろうか?しかしこのままでは身動き一つ取ることができない!!何か解決策はないかと辺りを見回そうとした途端、突然それは起こった。
ボキィッッ!!
その音は僕の体内から発された音だった。突風に気を取られたせいか、横からの攻撃に気付かず生身で受けてしまったのだ。肋が折れてしまったのだろうか?ふらついた身体に間髪入れずにもう一発、重い一撃が入った。そしてその衝撃で足が地面から離れ、風に流されるまま吹き飛んでしまった。痛みに歪んだ表情を浮かべたまま、目を開いて辺りを見回す。その目に映ったのは、簡単に言うと絶望だった。
「そして三つ目の『双竜鋏』は、竜の形をした岩石のホーミング弾だ!!一発につき二匹な!!」
十匹を超える岩の竜の群れが、一斉にこちらに襲いかかってきていたのだ。既に一撃を与えられた身だから分かる、あれを全て受ければ必ず死んでしまう。彼は本当に僕を殺しにかかってきた!!何とか打開策を考えてみるが、思いつくよりも先に竜の群れが追いつくだろう。押し寄せる絶望と、激しい痛みが、ずるずると意識を引きずり落とそうとしている。
「ここ...まで...か──」
視界が暗くなっていく。この世界とのお別れを決意し、僕の意識は薄く──
───堀井田君との試合、是非とも勝ってくれよ!!───
───負けないでくださいよ〜。私も応援していますから〜───
「まだ...終わっていない!!」
吹き飛ばされないように、足下に結界魔法を貼り、岩石竜を防御魔法で受け止める。岩石を動かす為には魔力が必要だろうと思い、『吸収性退魔』を防御魔法に貼ってみたら、予想通り魔力の回復に成功した。しかし、貯まったのは先程放った『堕抜』の威力の分だけ、彼にダメージを与えるにはまだ足りない。しかし吸収した分の少量を使い、攻撃を受けた部分に『治癒』をかけ、出血を抑えた。今は体制を立て直すのが最善策だ。後はひたすら突風が収まるのを待つだけだ。防御魔法を解除し、自分を覆うようにキューブ型の結界魔法を貼り、大きく吹き飛ばされないようにした。辺りを見回すが、風で砂埃が舞い、何も見えなくなっていた。しばらくすると、風の音が次第に弱まり、次第に視界も開けてきた。
「...あれ?」
風と竜の乱撃が完全に止まり、砂埃が収まったと思い辺りを見渡すと、そこには堀井田君の姿は無かった。気配すら感じられない。まるで今まで一人だけだったかのように、彼の存在が消え失せていた。棄権...?いや、さっきまで優勢だった彼がそんなことをするはずが無い。だとすると透明化か隠蔽魔法?宇佐見さんの『透明化』みたいな能力を彼は持っているのだろうか?そうなると恐れるべきは虚無からの一撃。硬化魔法を掛けた防御魔法は常に展開するようにしておこう。次にやるべきことは──と、『吸収性退魔』を展開したところで、ある異変に気付いた。何故こんなところから魔力が漏れている?
「──どうせ劣勢なら試してみよう」
そう呟くと、作戦の為の準備を始めた。彼にその準備が見えているのかは分からない。そしてこの作戦が彼に通用するのかも分からない。だが、やってみるに越したことはない。
「これでよし」
作戦の為の準備は整った。実行する前に軽く深呼吸をし、気持ちを落ち着かせる。観客はざわめいている。そしてざわめきに共鳴するかのように脇腹に痛みが響く。大丈夫、既に緊張は解れている。
「──やるしかない!!」
そう言うと僕は、防御魔法を全て解除した。




