第39話 VS 堀井田 涼星(1)
大歓声が響く中、スタートと同時に自分は全身に『吸収性退魔』を纏う。堀井田君はというと...まるで準備運動かのように軽いジャンプを繰り返していた。
「言っておくが、俺は手加減ってのはしない、というか出来ないからな。お前が入学時に無能力者なのは知ってるが、だからと言って慈悲を掛けるつもりもない」
堀井田君は両腕に魔力を込める。見ただけで分かる。沼下君の比にはならない程の強大な魔力が彼の腕に凝縮されている。生身じゃ生きて帰れない。
「簡単に潰れてくれるなよ!!」
先に攻撃を仕掛けたのは堀井田君だった。圷君とは比べ物にならない速さでこちらへ──
ピシャァァァァアア...ンン...
唐突な出来事で何が起こったのか分からなかった。気付けば構えた剣が弾き飛ばされ、自分自身も大きく仰け反っていた。聞いたこともないような音が聞こえたが、どうやら堀井田君の一撃を剣で受け止めきったようだ。しかし──
「この一撃を耐えるのか!!おもしれぇ!!なら──」
今度は右足が、自分の脇腹目掛けて迫ってきていた。これは剣では防ぎきれない!!なら──
「防御魔法を!!」
すかさず防御魔法で蹴りから身を守り、素早く距離を取る。堀井田君は少し驚いた表情のままゆっくりこちらを向いた。
「驚いたな...身体強化に『展撃破腕』の『災石拳』も込めた渾身の一撃を二回も耐えきるのか...なるほどな!!防御タイプの人間ってことか!!」
確かに自分の能力は周りから見ればただの防御魔法なのかもしれない。ただ、見た感じ魔力吸収を行っているとは思っていないようだ。
「お前以外にもいたさ!!それなりに硬い防御魔法使える奴が脳筋には勝てるとかほざいてやってきてな!!そいつら全員どうなったと思う?最終的には自慢の防御ぶち割られて泣きべそかきながら命乞いしてきたぜ!!」
予想はしていたけど、やっぱりただの防御魔法だと彼の攻撃は貫通してしまうんだ。さっきの蹴りを防いだ防御魔法には念の為『吸収性退魔』を込めていた。しかしたった二撃で僕の試合前の魔力の二倍も貯まってしまった。これがどういうことを指すか──そう、僅かな油断で勝利への道どころか生命すら落としかねないということ。しかし『吸収性退魔』を貼りっぱなしにはできない。『吸収性退魔』は、魔力を消費しない変わりに自身の体力が少しずつ削られてしまう。解除すれば徐々に回復していくが、それでも如何に温存できるかが鍵になってくるだろう。解除している隙にあの一撃をくらうことだけは避けたい。
「だがお前は少し違う。今まで倒してきたそいつらは全て魔導士だったが、お前は見た感じ純粋な剣士だ。まぁメイには及ばんだろうが、お前も中々の実力を持った能力者であると期待しているぞ!!」
なんというか、無駄話多くないかな...?まぁそれはそれでこっちは体力温存できて有難いけど...。
「さて、俺はひたすら攻めさせてもらうぜ!!」
再び素早い動きで堀井田君が近づいてきた。今度は自分もそれに対抗してみようと、先程吸収した分の魔力を込めた『斬撃波』を放った。地面に大きな亀裂を走らせながら堀井田君目掛けて『斬撃波』が飛んでいく。
「それ『斬撃波』か!?やべぇな!!今まで見た中で一番えげつねぇ威力してんなぁ!!けど──」
堀井田君は不可思議な動きで『斬撃波』を避け、更に勢いを増して迫ってくる。
「ただの『斬撃波』なら避けるのは簡単なんだよなぁ!!」
そしてすんでのところで彼の攻撃を躱し、更なる連撃をすかさず防御魔法を発動して防いだ。そしてその防御魔法に残り魔力の半分の硬化魔法と『吸収性退魔』を貼る。
「防御魔法は壊すためにあるんだよ!!」
堀井田君はひたすら連打を始めた。流れてくる魔力は一発一発が全て先程と同じ量であり、すぐに魔力が貯まっていく。彼の魔力量はいったいどうなっているんだ...!?気にしている場合ではない。念の為吸収した魔力の半分を硬化魔法に費やし、残る半分は全て剣に込めた。
「すげぇな!!割れる気配が無くはないがクッソ硬ぇ!!」
硬化魔法を入れて正解であった。恐らくただの『吸収性退魔』入り防御魔法ならすぐに破壊されていただろう。しかしそれでも、防御魔法の軋む音は少しづつ大きくなっていくのが分かる。──これが三英雄...『吸収性退魔』で強化魔法を全て吸収しているのに、ありったけの硬化魔法を彼は己の力だけで突破しようとしている!!この人本当に人間なのか!?
「お前の全力を見せてみろ!!ありったけを出させた上で俺がそれを捩じ伏せてやる!!」
防御魔法に遂にヒビが入った。硬化魔法に注いだ魔力量的に、恐らく僕の防御魔法は既にアダマンタイトに近い硬さになっているはずだけど...そろそろ突破されようとしている!!だが、こちらも準備は万端だった。僕は防御魔法に掛けた『吸収性退魔』を解除し、再び剣を構え直す。そして──
パリィィン!!
身体強化も上乗せされた攻撃は、あっという間に防御魔法を粉砕してしまった。
「終わりだぁぁあ!!」
次は僕を粉砕しようと言わんばかりに殴りかかる堀井田君。だが僕にも作戦はある!!
「今だ!!」
剣に込めた魔力の二割を使い、剣を地面に突き刺し、『堕抜』を発動した。アダマンタイト程の硬さの防御魔法を突破しようとした魔力は相当のもので、発動範囲はスタジアムの内部だけに収まらなかった。その為、少し浮いていただけの堀井田君どころか、立ちっぱなしである審判ですら地面に叩きつけられた(幸い、観客席には防御魔法が貼られており、怪我人は出なかったらしい)。そしてすかさず僕は、残る八割の魔力であの『独自魔法』を──
「おのれ...っ!!」
反撃の気配を感じ、『独自魔法』を出すのを諦め、残る八割の魔力で『斬撃波』を叩きつけるように放った。そして今度は見事に堀井田君に的中した!!空振りした『斬撃波』よりも更に強力なはず、これは大きなダメージになるはずだ!!緊張していたのだろうか、一撃を与えた安心感で大きく一つ息を吐くと、観客席からの大歓声を再確認することが出来た。僕が試合に集中できていた証拠だ。しかし油断してはいけないと思い、大きく距離を離す。そして案の定──
「...ってぇ...久しぶりに俺に傷を付けられる奴が出てきたなぁ...」
ゆっくりと立ち上がる堀井田君。吐血するほどのダメージは与えられたのだろうか、しかしその顔には笑みが浮かんでいた。
「バカ硬ぇ防御魔法だから防御特化なのかと思いきや、えげつねぇ力の重力魔法に尋常じゃねぇ魔力量...戦えば戦うほど面白いやつだなぁお前」
再び剣を構える。まだ魔力は残っているが、今の残量では堀井田君には傷一つ付けられない。もう一度彼の魔力を吸収する必要がある。が、先程の防御魔法で『吸収性退魔』を貼り続けた分、体力も余り残ってはいない。
「どうせ蘇生術持った先生はいるんだ、そんだけ強いんだったら勝つ為には殺しにかかった方が良さそうだなぁ...」
その目はまるで、ボスモンスターを狩り殺そうとしている目だった。やはり三英雄は一筋縄ではいかないようだ。




