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その勇者、かつてはモブキャラ設定でした  作者: 蜜柑クロ松
第二章 闘技会
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第36話 VS 圷 模吉(1)

初めはお互い動かなかった。互いが互いの独自魔法を身に纏っていく。僕は『吸収性退魔』を、彼は全身に毒を纏っていく。忽ち彼は禍々しい姿になっていた。

「これが僕の戦闘の基本スタイル、『毒龍侍(パープルメン)』だ。僕のありのままを全てぶつけるつもりだ。君も全力で来い!!」

「...元からそのつもりだよ!!」

先に斬りかかったのは僕の方だった。上には上がいるものの、僕だって剣術は無能力者の時に磨いてきたのだ。隙の無い動きで剣撃を続ける。しかし彼の毒を纏った槍捌きも上手く、全て防がれてしまっている。が──

「若干小林が押しているな。既に他の能力者と同等の力を身につけているとは驚いたな」

戦況はこちらが有利だと思っても過言では無い。実際僕の攻撃を圷君は防ぐだけになり、彼の槍から少しずつ魔力を吸収していっている。しかし、彼の全身から飛ぶ毒の飛沫は自分にも掛かっている。全身に『吸収性退魔』を纏えるとはいえ、これをずっと貼りっぱなしだと、先にこちらがバテてしまう可能性がある。攻撃を続けることはこちらの苦にも繋がっている。一度一気に弾き飛ばして解除しよう。そう思って、吸収した半分の魔力を上乗せした身体強化魔法で圷君をフィールド端まで弾き飛ばした。

「ぐぁっ!?」

その隙に少しだけ距離を取り、『吸収性退魔』を一度解除する。ふと辺りを見回すと、飛んだ毒の飛沫で地面が腐蝕されたのか、辺り一面がでこぼこになっていた。彼の毒の強力さを物語っている。彼に近接で勝負を仕掛けるなら『吸収性退魔』は貼りっぱなしじゃないといけないのだろう。しかし、有利に事を運んでいる今、体力の温存が肝だと考えた。

「本当に君が羨ましいよ!!悔しいけれど、既に君の力を痛感してしまった!!」

「...まだ僕の力を測るには早いよ」

「あぁそうさ!!僕だってまだ負けを認めた訳じゃあない!!」

そう言うと彼は三つの球体を作り出した。三つずつ、次々に生み出していく。

「時間が経てば経つほど、僕の好戦場(フィールド)は出来上がっていく。君こそ、僕の実力を感じるのはここからだ!!」

なるほど、彼の身体から飛んでいた飛沫は、敵への攻撃だけでなく、彼好みの戦場を作り出す為の準備だったと言うことか。確かにでこぼこの地形だと体勢を崩しやすくなる。となると一刻も早く決着を着けないといけない!!

「──けど...」

焦ってはいけない。あの球体は間違いなく毒だ。防御魔法が有効でなければ『吸収性退魔』に頼ることになる。だがここから短期戦に持ち込むのは恐らく彼の思う壷なのだろう。体力を温存させねば...。

「試してみるか...」

俊君との特訓が終わってから、新たに僕は四つの技の習得に励んでいた。そのうちの一つが『斬撃波(スラッシュウェーブ)』だ。これは剣士の基本魔法。無能力者の時の魔法陣の勉強が役立ち、すぐに習得できた。僕は彼と、彼の放った球体に向かって幾つかの『斬撃波』を放った。が、彼は全て躱しきった。やはり基本魔法への対策は万全なのだろう。しかし問題は──

「『斬撃波』で切れない...?」

圷君が出した球体は『斬撃波』で斬ることはできなかった。幾つか当たったことは確認したが、まるで壁に反射するボールのように、『斬撃波』を当ててもぽよんと反射するだけだった。

「『魔道士の御品書(コルプションコース)』は生物以外がぶつかっても反射するだけ、例え几野君が作った武器でも切れない!!」

試しに近くに飛んできた『斬撃波』を、『吸収性退魔』を纏った剣で斬りかかった。しかし、『吸収性退魔』は発動せず、ただ払った剣に弾かれるだけだった。『吸収性退魔』が作用しないとなると、これが増え続ければ全身への発動を余儀なくされる。

「先程の勢いはどうした!!そちらが来ないならこちらから行かせてもらうぞ!!」

そう言うと圷君は距離を詰めてきた。僕は全身に『吸収性退魔』を纏って防御の体勢に入る。彼の槍の攻撃を受け流しつつ、自分も攻撃を仕掛ける。先程とは違い、お互い一歩も引かない攻防が続く。その攻防の最中も僕の身体には球体がぶつかってくる。球体はぶつかった瞬間に破裂し、その中から霧状の毒が全身を纏おうとしてくるのだ。うっかり『吸収性退魔』を解除した暁には僕は全身に毒を受け、昨日の圷君みたいになるのだろうか。ふと昨日の圷君の大怪我を思い出してしまい、思わず震えてしまった。

「そこだ!!!!」

隙を作ってしまった僕は、左腕に槍の攻撃を受けてしまった。すかさず『斬撃波』で反撃したが、躱されてしまった。

「『疾風』!!」

自身の周りに風魔法を放ち、圷君から距離を取り、同時に近くに漂っていた球体を飛ばした。安全な状態になったことを確認し、左腕以外の『吸収性退魔』を解除した。

「い、てて...」

しかし、『吸収性退魔』を放っていても、体内への魔法攻撃は防ぎきれず、僕の左腕は毒による腐蝕を始めた。傷口から少しずつ青黒くなっていき、変色した部分から徐々に皮膚が爛れ始めた。爛れた部分から血が流れ始め、その勢いは徐々に強まっていく。そこで僕は、練習していた二つ目の技を使った──

「『治癒(ヒール)』!!」

そう、二つ目は回復魔法。相手の魔力を吸収し、それを回復に繋げることができれば、魔力切れを起こすことなく回復の自給自足ができると思い、お試し程度に覚えた基本魔法だ。と言っても、回復魔法の習得は難しく、今の僕には流血を止める程度しかできなかった。毒による腐蝕、痛みを止めることは出来ず、左腕の自由は奪われるばかり。どうやら自分が勝つためには残り時間が少ないようだ。

「けど...勝機は見えた...!!」

『疾風』を放った後、僕は彼の行動の異変に気付くことができた。もしこの異変が彼の弱点に繋がるのなら──

「この作戦なら、勝てるかもしれない」

僕だけが使えるこの作戦、そして、相手が彼だからこそ使えるこの作戦だ。

「そろそろ決着の時だ!!」

僕は剣に魔力を貯め、圷君に向き直り構える。僕の力で、相手の能力を利用するんだ!!

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