第35話 ライバル
「模擬対戦...?」
唐突に申し込まれた模擬対戦、驚きと混乱のあまり聞き返してしまった。
「正直に言おう。僕は君のことを心の底から羨んでいる。入学当初は無能力者であった君が、気付けば強化された魔物を倒しに行ってしまう程まで成長している。入学から一ヶ月位しかまだ経っていないのにだ」
「そ、それは、パーティの皆とかが協力してくれたおかげで──」
「僕は無能力者だった訳でもなかったのに、生まれつき魔力の扱い方が下手であった。周りは個人差だと言ったが、僕が周りに追いつくには必死の努力で一日を消費するだけでは足りなかったんだ。だから僕は、強くなるためにそれ以外は全て捨て去った。強さを求めることができない物事は全て悪だと、何もかもを捨ててきたんだ」
彼は全身の重石を降ろすかのように、重圧だったであろう過去を語る。彼がバカ真面目とまで呼ばれるようになったことの理由が明かされていく。
「しかし、それでも、どれだけ不要な物事を排除しても、僕の強さは周りに埋もれるばかりだった。ここに来てもそうだ、英雄だの、女神だのと敬われる彼等の前では僕の力は凡人ですら無いことを自覚させられた」
「そ、そんなことないよ!僕だってまだ誰にも及ばない──」
「僕は君のことは夢を一緒に追い掛ける仲間、ソウルメイト、そう思っている。しかし、だからこそ、そんな君が0から急成長を遂げてきていることで、僕の今までの努力全てが否定されている気がしてならないんだ」
「そ、そんな...」
「勿論君を責めるつもりは無い。さっきも言ったように、僕は君を羨んでいるんだ。ならば僕はどうするか、それは既に答えが出ている。僕には無くて君にはある成長の速さ、それを追い求めるならやることは一つ──」
彼は僕に向き直り、大きく息を吸って力強く───
「君のライバルとなって、君の速さに追いつくまでだ」
そう言い放った。彼の目から注がれる強過ぎる眼差し、今にもこっちが倒れてしまいそうだ。でも、必ず目は逸らしてはいけない。彼が本気ならば、僕もそれに応えなくてはいけない。
「分かった。その勝負、引き受けるよ」
それが、ソウルメイト──それが、ライバルというものなんだろう、そう思った。
「とは言ったものの...」
模擬対戦どころか、対人事態初めてとなる。トーナメント前に対人に慣れる良い機会だと思ったが、どうやって挑めばいいんだろうか...?最終日はそれぞれの調整に時間を費やしたいだろうということで、対戦日は明日となってしまったが、正直不安でしかない。
「何かお困りですか?」
後ろから声が聞こえ、振り返ってみると、そこにはメイさんがいた。
「この時間まで練習ですか?とても頑張っていらっしゃるのですね」
「あ、あはは...そちらも練習ですか?」
「いえ、私は夕飯の買い物です。この時間だと肉類が安いので...」
荷物が見当たらないのは収納魔法を使っているからかな...?
「それより、何かお考えの様子でしたが、どうかなさいましたか?」
「あ〜、実は...」
「なるほど、圷さんとの模擬対戦ですか」
「そもそも対人経験が無いもので、どうしようかと...」
彼女は三英雄のうちの二人、堀井田君と平次君と同じパーティの人だ。対人の経験が豊富そうだと思い、相談してみることにした。
「そうですね...対戦する時、人とモンスターとでの大きな違いは、攻撃のパターンが単調かそうでないかです。どれだけ強力なモンスターでも人に比べれば行動パターンは少なく、対応策さえ考えてしまえば楽に倒せるものもいます」
楽かどうか...は置いておいて、確かにモンスターはどれだけ強くても必ず一定のパターンで動く。幾らか経験を重ねれば行動を読んで隙を付くことは容易だ。
「反対に、人間は相手がどのような能力を持つのか、自分が今どのような状況なのか、相手がどの技をどれだけ対応できるのか等を見極め、即座に対応する術を編み出す為、モンスター以上に考えて動かないといけません。常に二手先、三手先を考えて対応する人もいれば、単調に見せかけて唐突にパターンを変えてきたりなど、油断すれば一気に窮地に立たされる、それが対人の恐ろしさでもあります」
「なんとなく、モンスターと戦う時とは違うんだろうとは思ってたけど、聞く度難しそうだなぁ」
「こればかりは経験を積んで慣れるしかないですね。どれだけ相性が悪くても、数々の経験が逆転への策へ繋がるヒントになり得る可能性もありますし、まずは今の自分を全力でぶつけに行く!!...と思って挑む方が良いと思いますよ」
「やっぱりそうですよね...うん、頑張ってみます」
「初戦の件、伺いました。初対戦が涼星さんになるよりは、圷さんで対人経験を一回挟んでおいた方が戦いやすくて良いかと思います」
「知ってるんですね...」
「涼星さん、楽しみにしていましたからね。彼も強敵ですので頑張ってくださいね」
「ありがとう...」
今の自分を全力でぶつける...かぁ。毒使いの圷君、魔法によるものならば『吸収性退魔』は有効だろうけど、やはりイレギュラーはあるのだろうか。油断は無いように挑もう、そう思って僕は、もう少しだけ練習してみようと、王都外の森に向かった。
───翌日 アルガ中迷宮 第五層───
対戦場所はアルガ中迷宮の第五層、四つの岩山に囲まれた場所。鳥型モンスターと対峙した時のあの場所だ。
「──でも模擬対戦って、校庭内だけってルールなかったっけ?」
「校内にある迷宮なので、一応校庭内であるという話を聞きました〜。それにこっちの方が広いですしね〜」
僕と圷君の対決、藤島君の一件みたいに人が沢山見に来た...なんてことは無く、僕らの試合を見届けるのは立会の先生として来た間名村先生、その他に蘇生の能力を持つ明魅先生、是非ともソウルメイトの試合をみたいと駆けつけてくれた仰音道さんの三人だけだった。
「間名村先生、明魅先生!!立会の件、ありがとうございます!!」
「まぁクラスメイト同士の対決やし、あんたら二人がどれだけ成長してるかは見たかったからな」
「わ、私は仕事無かったから来ただけだから...気にしないで!!」
「私も二人の試合見届けますよ〜、二人とも頑張っちゃってくださ〜い」
正直、三人だけでよかったと思っている。あんまり人が多いと別の意味で緊張してしまう。
「お前ら二人ともランクはD-同士、互角かどうかは分からないが、特に真面目に成長を重ねるお前らだ。良い勝負を期待しているぞ」
「さて、小林君。今日から君とは正式にライバル同士となる。同じ夢を追う仲間として、ここは勝たせてもらう!!」
「僕だって...負けられないよ!!」
お互い、手に持った武器を握り直す。初めての対人戦、初めてのライバル、今の全力を、ありのままを彼にぶつける!!
「模擬対戦、始め!!」




