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その勇者、かつてはモブキャラ設定でした  作者: 蜜柑クロ松
第二章 闘技会
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第34話 無茶と焦りと心配と

会場の見学も終わり、僕は自主練に励んでいた。俊君は、

「そこまで成長すりゃ後は鍛錬あるのみさ、後悔ないようにしっかり対策練っとけよ〜」

と言って、本番前の三日間は一人で練習することになった。そんなわけで僕はアルガ中迷宮に潜っている。俊君には及ばないだろうけど、僕も幾つかの独自魔法を使えるようになりたい。その為の実験も兼ねている。

「──しかし、僕一人で第五層まで来れるなんて思ってもみなかったなぁ...一応それだけ成長したってことなんだろうけど」

今の姿を見たら、故郷の皆はどう思うんだろうなぁ──そんなことを思いつつ、練習に励む。少しでもいいから、今は強くなるためにとにかくやらないといけないことが多い。

「もっと精度を上げないと...この技が使えたら、少しは対抗できるかもしれない──」




「──うん、問題無さそうだ」

急に一人で練習させたから何やれば良いか悩んでるか?と思ったけど、心配することもなかったな。和真の成長速度は通常よりもずば抜けて速い。真面目な性格もあって、どんどん色んなものを吸収していく。あと三日間分の成長はお楽しみとさせていただこうか。

「さてと、俺も肩慣らししないとなぁ」

シード枠を貰えたおかげで周りより一戦分少なくて済むのは有難い。2回戦からの参戦になるが、初戦は几野 雄戯か風音 銷戶か...多分どっちが来ても勝てる。2回戦を勝てばもう準々決勝、ここは間違いなく公蔵が来る。準決勝は堀井田と和真の件も気になるが、恐らく二人とも摩怨には敵わないだろう。そして決勝、ここはメイで間違いない。公蔵、摩怨、メイの三人の対策を考えねば。公蔵、摩怨には一応無敗ではあるけど、それも前の話だ。公蔵とか戦うの3年ぶりくらいだし。どんだけ強くなってるか分からない。そして──

「メイかぁ」

メイとは本気の勝負はしたことがない。メイなりの理由があるのは知っているが、本気じゃないメイと互角でしか戦えない事実だけは釈然としない。

「いつからあんな差が生まれちまったんだろうねぇ...」

今回のトーナメント、俺は既に決勝のことだけを考えていた。




「ふぅ、今日は一旦帰るとしよう」

結局のところ、僕は一人で第九層まで降りてきていた。独自魔法の研究の為により強いモンスターで実験したいという気持ちが勝り、初めて一人で第五層よりも下の階層に来てしまった。

「さすがにこれより下となると一人で来るのは勇気いるよなぁ...」

そう思いつつも、この下に広がる世界を想像してしまう。いつかは更に深くまで潜っていけるようになるんだよな...?ボスモンスターが現れ始める第二十層とか、どんな感じなんだろうなぁ──

「キィィィイ!!」

「!!しまっ──」

ぼーっとしていた背後をリス型モンスターに突かれてしまった。振り向いた右腕に噛み付かれてしまった。僕はモンスターを慌てて切り落とした。

「いたた...気をつけないと...」

傷口から血が流れ始めた。これはまだ第十層よりも下には行くなっていう警告なのかな...?



──ノベルト第一学園 保健室──


「失礼しま〜す...」

「あら〜、小林さん──また派手にやられちゃいましたね〜」

「あはは...ぼーっとしてたら噛まれちゃって...」

「練習のし過ぎは良くないですよ〜、バテちゃいますからね〜」

「うん、気をつけるよ。──ところで、圷君は?」

「そういえば今日はまだ来ていませんね〜。毎日通われてしまうと心配にはなりますけど、いつも三人で談笑してましたからね〜」

「...圷君も成長しているってことだよね」

「きっとそうですよ〜、圷さんも気合い入ってましたからね〜」

訓練や練習で僕はほぼ毎日のように怪我を負っている。その傷を治して貰う為に保健室に行くと、いつも圷君と仰音道さんの二人がいて、お互いの練習の成果だったり、他愛のない話だったり、色々話している。僕が学園で一番ゆっくりできる時間となっている。

「そうなるとますます負けてられないね!僕も頑張らないと」

「無理のない程度に頑張ってくださいね〜」

「仰音道さんにはいつもお世話になってて本当に感謝してるよ。いつも治してくれてありがとう」

「いえいえ〜、これが私のやりたいことなので〜」

そんな会話を続けていると、不意に保健室のドアが開いた。そこから現れたのは──

「し、失礼...します...」

僕以上に血塗れになった圷君だった。全身から血が流れ出して...

「ってどうしたのその身体!?」

「あらま〜、言葉じゃ言い表せないくらい凄い惨状になってます〜」

「と、とりあえず早く治してあげて!!」

「はい〜ただいま〜」



「非常に助かった!!ありがとう!!」

「いえいえ〜、それよりも何があったのですか〜?」

「あ、あぁ、とある大技を使いこなせるように練習していたら失敗してしまって、防御が無い状態で全身に毒を浴びてしまってね...」

「よ、よくここまで歩いてこられたね、死んでてもおかしくなかったよあれ...」

「そうですよ〜、少し心配になります〜」

「すまない...本番まであと三日だと言うのに不甲斐ないな...」

「き、気持ちは分かるよ、僕も内心焦っているというか...」

「トーナメントへ向けての練習で無茶をして怪我をしている生徒さんは増えてます〜。皆さん焦っているとは思いますが、無理のない程度が──」

「無理だと...思いたくなくてね…」

それは、圷君らしくない、今にも消え入りそうな声だった。俯いた圷君の両手は僅かに震えていた。

「僕はもっと強くなる必要がある。自分の能力で自分を痛めつけるようではいけないんだ。自傷を防ぐことが無茶だと、そうは思いたくないんだ...」

「圷君...」

真面目だからこそ、自身の欠けた部分に真剣に向き合い、苦悩している。とても彼らしいし、応援したいのだが、その真面目さがいつか彼自身を殺してしまいそうで、心配してしまう。

「その状態でじっとしていてくださいね〜」

そう言うと、仰音道さんは彼の背中にそっと両手を合わせた。しばらくすると、彼の背中から黒い光が、仰音道さんの両手から宙に浮かび、やがて消えていった。

「──今のは...?」

「精神的な苦痛には『悲哀憎悪の闇の墓(ワイトペインター)』が効果的なんです〜」

「精神的な...」

「焦りは時には人を成長させることもありますが、大半はその焦りに追い込まれて破滅してしまうんです〜。私達はソウルメイト、そんな彼が今回以上の傷を負うのは私は嫌ですね〜」

「...そうだね、僕も圷君が無茶で倒れてしまうなんて嫌だよ」

「二人とも...」

「是非とも、私達だけは無理のない練習をしてほしいんです〜。その方がよっぽど効率的ですからね〜。まぁ私は非戦闘員ですけどね〜」

「そうだね、僕も無理ない程度にと思っても怪我しちゃうけどね」

「...あぁ、本当にありがとう」

そう言うと、彼の顔に少しだけ笑顔が見えた。元気づけられただろうか?

「...小林君、トーナメントが始まる前に、君に頼みがある」

少し笑顔が戻った圷君が、今度はいつも通りの真面目な顔になり、僕の方を見る。

「頼み...?」

「僕と模擬対戦してくれないか?」

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