第26話 しかし日常は存在する
「───というわけなんですよ」
学園に戻ってきた僕達は、宇佐見さんと渚さんの二人を保健室へ連れて行った後、間名村先生に迷宮の異常のことについて報告に行っていた。特訓するには持ってこいと俊君は言っていたが、他の人達に被害が行く前に、と苦渋の決断だと言っていた。戦闘狂───というわけではないはずなんだけど...。
「なるほどな...色々聞きたいことはあるんだが───」
そう言うと間名村先生は何かを描き始めた。
「その親玉のやつ、もしかして何処かの部位にこれが付いてなかったか?」
そう言って描いて見せてきたものは、あのモンスターの背中に貼られていたものだ。よく見ると魔法陣が描かれているが───
「あ、確かに貼られてたな」
「やっぱりか...」
「?やっぱりって?」
間名村先生は、自身の机に置いてあるコーヒーを一口飲み、語り始めた。
「実はな、最近ここら近辺でこいつが貼られた強力なモンスターの目撃情報が絶えないんだ。我々も目撃情報が聞こえてきたその都度対処してきているのだが、つい先日、うちの敷地内であるアルガ中迷宮にも初めて観測された。お前らで二件目だ」
「あ、俺らが初めてじゃなかったのか」
「明日辺りに警告入れようかと思っていたが、どうやら先に被害の方が出ちまったみたいだな」
自分達の魔法で気絶させただけとは言えない...。
「それで、どうするんすか?訓練の場としては最適だから立ち入り禁止は困るんですけど...」
「それは心配するな、お前らの先輩も今回の件は寧ろ実力向上を目指す為に好都合と言っている。そういうわけで、安全が確認されるまではしばらく見回りの教師をアルガ中迷宮に送ることにした」
「先生がいるなら安心...なのかな?」
「教師を馬鹿にするなよ小童共め、お前らよりもずっとか強いんだ」
「別にそっちを疑っているわけじゃなく...」
「遥か上の実力を行くことを考えてるなら安心しろ、もし人が人工的に作った怪物程度ならうちの教師はほぼ全員負けることはない」
「死亡フラグ...」
「言っとけ」
まぁ、祖父が信頼を置いている学園なんだし、問題無いよね…?
「まぁそういう訳だ、明日からは迷宮に教師が一人はいるから安心して訓練に励め」
「は〜い」
まだ少し不安が残っているが、その日は宇佐見さんと渚さんが起きるのを待ってから帰宅することとした。
───翌日 ノベルト第一学園 始業前───
「身体いっったぁ...」
昨日の訓練の疲れがまだ残っている。全身が筋肉痛で痛い...。この状態で今日の訓練を乗り切ることができるだろうか...。
「おはよう!!小林君!!」
「うわぁあ!?びっくりしたぁ!?」
今まで同じ人としか話してこなかったことと、唐突に後ろから大声が聞こえてきた驚きのあまり飛び跳ねてしまった。話しかけてくれたのは確か...。
「おい君ぃ!!」
「は、はい!!」
「僕が話しかけて最初の言葉が「うわぁぁ!?びっくりしたぁ!?」とはなんだ!!朝人に会ったら挨拶をするのが常識だろう!!」
「ご、ごめん、おはよう...」
「声が小さあぁあい!!」
「お、おはようございます!!」
「それでよぉし!!」
疲れた身体に更に喝が加わり、より一層疲れてしまった。彼は、自他共に認める『バカ真面目』こと圷 模吉君だ。今のところ描写はなかったと思うけど、初日からクラスの皆をまとめてくれた人だ。
「どうした小林君!!昨日より元気がないじゃないか!!」
「ハ、ハハ...」
「まぁまぁ、彼は先日藤島さんの訓練をずっと受けていたらしいので、疲れてるんですよ〜」
「む!!訓練をしていたのか、素晴らしいな!!」
「まぁ僕は皆よりもスタートが遅れているから、少しでも早く皆に追いつかないといけないからね」
「努力をすることは良いことですが、やり過ぎは身体を壊し、逆効果となってしまいますよ〜。疲れた時は無理せず休みましょ〜」
このおっとりとして、ふわふわとした感じの彼女は仰音道 玉江さん。ちなみに雰囲気だけでなく実際に浮いていたりもする。今も浮いている。
「少しそこに止まってくださ〜い。今『生霊の治療薬』をかけてあげますね〜」
そう言って彼女は僕の掌に触れた。すると掌から全身にかけて、昨日の疲れが全て消えていく。
「わぁすごぉ...凄く身体が軽くなったよ!!ありがとう!!」
「なるほど!!君の『独自魔法』は治癒に長けた能力なのだな!?」
「その通りです〜。私、この学園に入った者ではあるのですが、戦闘向きの能力は持っていないんですよ〜。ですので、基本は皆さんのサポート係、普段は保健室で明魅先生のお手伝いをさせてもらってるんです〜」
なるほど、彼女のようにサポートに特出した生徒もいるんだ。
「...しかし君は今のように常時浮遊することもできるのだな。それも君の『独自魔法』なのか?」
「いえいえ〜、これはただの体質です〜」
「...体質?」
「私、既に一度死んでいるんです〜。馬車に引き飛ばされたのがきっかけでぽっくり〜」
...え?
「しかし何故かは知りませんが、目が覚めたら半人半霊みたいな感じになってしまいまして〜。どちらかと言ったら幽霊に近いんですけどね〜、ほら、こんな感じですり抜けられま〜す」
───改めて実感する。この学園は個性的な人達ばかりだ。




