第2話 大物
『魔力大変革』
史上最悪の異変と呼ばれる魔力災害。ある者の手によって引き起こされ、天災級の龍をも発生させたと言われる。この異変によりいくつかの迷宮都市、多くの村が消滅し、残った都市や村でも多くの死傷者が出た。僕の父もその時に出てきた龍に殺された。相討ちという形で倒したから村は無事だったけれども...
誕生日を終えて少したち、旅立ちの日、僕はノベルト王都へ向かう前に、父の墓へ来ていた。暫くはこの村には戻ってこない...だからその前に来ておきたかったのだ。
「父さん...僕、ノベルト第一学園入学試験を受けてくるよ。もう弱いなんて言わせない為に、あそこで魔法を学んでくる。この村を守る為に...」
そう挨拶をし、家族から心配の目を向けられる中、僕は出発した。毎日のように虐められるのはもう懲り懲りだ、本当は試験前に出発の方がいいけれど早めに出発したかった。
弱いとはいっても魔法を使ってこないような魔物なら勝てるので、あまり苦ではない。村から王都までは特に強い魔物も出ないので、まぁ死ぬことはないだろう。そんなゆる〜い感じでゆっくりと歩いていく。のどかな道をゆっくりと歩いていく。
──その予定だったのに...
「で、出たぁぁぁぁぁああ!!」
出ちゃったよ...大型の魔物...。本で見たことあるけど、確かキラーパンサーって名前だったはずだ。いや序盤の道で遭遇とか運が悪いとしか言えない。
「と、とにかく逃げるぞ!!」
「あんな大きさ太刀打ちできないって!!」
そうだ、とりあえず僕も逃げよう。でないと殺される!!
「し、『身体強化』!!」
そう言って颯爽と駆け抜ける旅人達。忘れてた...魔法が使えない僕は周りより逃げ足が遅いんだ。逃げ遅れるのは確定条件だ。
「グルル...」
まずい。目を付けられた。洒落にならないぞここで死んでしまったら。ちくしょうもうちょっと生きていたかった。こんなところで死ぬなら皆に虐められてた方が...って待て待て嫌な走馬灯を流すなまだ生きるチャンスはあるはず!!
「グルルルル...」
気づいたらもうすぐ近くまで来ている。駄目だ、もう逃げられない!!
「動くな!!」
突如聞こえたその声、それと同時にその場に倒れるキラーパンサー。その眉間には矢が刺さった痕がある。...何があった?
「大丈夫か?」
一人の弓使いの人がこちらを見ている。見た感じ僕と同い年くらいか...?いやそれより...
「た、倒したんですか?」
「ん?あぁ、この平原で出るのは珍しいな」
「あんな...一瞬で...?」
「...?」
いや、当たり前だみたいな目でこちらを見ないで。
「キラーパンサーに会うのは初めてか?」
「というか...平原に出ること自体今日が初めてで...」
「そうなのか。しかし...えと、名前は?」
「小林和真です。」
「和真か、なぜ『身体強化』を使わなかったんだ?勝てないと分かったら全力で逃げるだろ?」
「いや...実は...」
(かくかくしかじか)
「なるほど、無力者だから魔法を使えず一人逃げ遅れた...と。」
「そういうことです」
「自分で無力者と自覚しておきながらよく旅に出ようと思ったな?」
「えと、ノベルト王都に用があって...」
「ノベルト...第一学園受験希望者か?」
「え、なんで分かって...?」
「多分だが俺と歳同じくらいだし、俺も受験希望者だからな」
嘘でしょ...?こんな強い人も受験希望者なの...?大丈夫?僕こんなので合格できるのか?
「...一緒に行くか?」
「え、いいんですか?」
「またさっきみたいにいつ大物に会うかも分からないし、死にたくないだろ?」
「う...そ、そうですね。」
確かに、受験する前に死にたくない...身の安全を考えたら今は強い人に着いて行くべきだろう。
「俺は公蔵平次だ、よろしくな」
「よ、よろしくお願いします!!」
これで安心して王都には行けるかな?今度こそゆっくりと歩いていこう。のどかな道をゆっくりと...。