第1話 無力者の夢
僕は小林和真、15歳。突然ですが、今僕はボコボコにされて地面に蹲っています。
まぁ順をおって話しますと、僕は村で虐められているんです。何故なら弱いからです。同い年と戦うと、全員に負けます。年下と戦っても負けます。この世界じゃ僕みたいな弱いものは虐められて当然です。ちなみに僕は剣を使って戦いますが、剣筋が悪い訳ではありません。むしろそれだけならある程度僕も勝つことはできます。なら何故僕は負けるのでしょう?
「へっ、やっぱ雑魚は雑魚だなぁ!」
「何度やったってお前に俺らは倒せねぇよ!」
「魔法も使えない雑魚の癖によく俺らに挑もうと思ったなぁ!」
...そうです。この世界では魔法戦闘が基本であり、僕は魔法が使えない『無力者』なんです。いくら剣が優秀だからといって、防御魔法を使われたらダメージも与えられません。というか防御魔法使う以前に速度強化魔法で距離をとられて攻撃を当てられません。そして為す術なく魔法で沈められます。それほど魔法が使えないことは致命的なことなのです。
そしてもう一つの理由として、自分と共に戦ってくれる、パーティがいないのです。そりゃあまぁ、こんな人と組んでくれる人はまぁいないでしょうね。弱い人と好んで組むことなんていないでしょう?魔法も使えないなら尚更。おまけにコミュ障だからパーティを誘うこともできないのです。
魔法も使えない、パーティもいない、コミュ障...剣術だって僕が一番な訳でもない。そんな僕は世間ではどう呼ばれるのか...。そう、『モブキャラ』です。モブキャラが他の人と戦って負けるなんてよくある話でしょう?僕だってそんな感じの本を読んだことあります。
でも僕は、自分の夢の為に強くなりたいのです。自分の夢...僕は、この村を守りたい。昔、僕の父はこの村を守る狩人でした。父の場合、使う武器は弓矢だったけど、その腕前は村...いや、世界通じて一番でした。
「彼がいればこの村は安泰だ」
そう言われるほどの実力を持っていました。
僕も父のように強くなりたい。
そう思っていた頃、全世界を襲った史上最悪の異変、
『魔力大変革』
その異変で僕の父は命と引き換えにこの村を守ったのだ。実際、父がいなければこの村は無くなっていただろう。しかし、父のような強者はもうこの村にいなくなってしまった。
命は落としたくないけれど、どんな異変があってもこの村を守りたい。だから僕は『父よりも強くなり、この村を守る』という夢を目指すようになったのだ。
──でも魔法が使えないんじゃ、どれだけ剣の技術を磨いたところで雑魚だ。もうこの夢は諦めるしかないのか──
ボコボコにされてしまった僕はなんとか立ち上がり、家に帰ることにした。また負けたのかって呆れられそうだけど...
「また負けたのか」
「...はい」
「はぁ...どうしてあいつの子はこうも弱いんだ...」
祖父の明らかに呆れた声。もうこれにも慣れた。
「まぁお前は魔法が使えない、稀にある無力者ってやつだ、仕方ないっちゃあ仕方ない。これがあの村一の狩人の子とは思えんがな...」
「...はい」
「まぁそんな話はさておきだ、わしは明日急用で出かけにゃならんからな、先渡しでプレゼントをやろう」
そういえば、明日は僕の誕生日か...でも祖父がプレゼントをくれるなんて珍しいな。
「ほら、これを使うんじゃ」
「ありがと...ん?」
祖父から渡されたのはリュックサック、その中には質の良い短剣、沢山の魔石、寝袋、テント...
「これは...僕に旅をしろと?」
「ん?まぁ合ってるっちゃあ合ってるんじゃが...」
合ってるのか、弱いと知っておいて何をやらせるつもりなんだこの人。
「確か和真はこの村を守る為に強くなりたいと言っていたな?」
「確かにそうだけど...魔法使えないし...というか、それとこれにどういう関係が?」
「...ノルベト第一学園という名を聞いた事あるか?」
「ノベルトって、この村から北の方にある王都だよね?その学園の名前は聞いた事ないけど...」
「そこの学園に入れば、無力者でも魔法が使えるようになるらしい。」
「え...!?」
「わしの知り合いがそこの学園の校長を務めておっての、無力者に魔法を使わせる研究を進めておるらしい」
「そ、そうなの!?」
「やはり食いつきおったか。もしお前がそこを受験する気があるなら必要だと思──」
「行きたい!!絶対にその学園入りたい!!」
「お、おう...」
僕みたいな無力者でも魔法が使えるようになる...?そんなこと言われたら行かないわけがない!!絶対にその学園に入ってやる!!