紅と蒼の月~零の夜~
― 次の日 ―
~ 蒼月 陣夜 ~
「なぁ、お前さ俺が働いてるバイト先に来てみる?」
「…えっ?」
僕は昨日、斬夜に助けられて
怪我も完治し、彼が予測した貧血も治った…
でも、朝から…しかもご飯を食べ終わったあとすぐに言われたことを僕は上手く理解できなかった
「バイトって、なに?」
「はっ…はぁっ!!?」
僕が素直に疑問を口にすると斬夜はすごく驚いて大きな声を上げた…
「知らない僕が悪いんだけど…斬夜、声大き過ぎだよ…」
耳を抑えながら僕が言うと斬夜は素直に
謝ってきた
「あっ…悪ぃ……(汗」
少しバツが悪そうな顔をしながら斬夜は声を抑えた
「まぁ、とりあえずバイトって何?」
そんな斬夜をおいて僕は再度、同じ質問をした…
「バイトって言うのはアルバイトの略称何だけど、募集されるのは学生が多くて、大体はお小遣いを稼ぎたい子や俺みたいにお金に困ってて稼がなきゃいけない人たちが働く場所って言うのかな?俺は働く側だし、上手くは言えねーけどさ…」
斬夜、最後の方の言葉に詰まってた…
こんな大きな部屋を借りることが出来るほどにはあるのに何で…
「…そうなんだ、大変なんだね」
「まぁ、慣れれば何ともないからな…」
そこまで必死になるの?
「さぁ、行こうぜ!のんびりしてたら間に合わなくなっちまう!!」
そう斬夜が言った瞬間、いつの間にか僕達は大きなレストランの前に来ていた…僕は内心でとても焦った……
何で彼が《瞬間移動》を使えるの?それにこの魔法は、移動手段の上位魔法なのに!魔力は大丈夫なの!?
「ここが俺の今日のバイト先だ!えっと蒼月だっけ?」
僕が心の中で荒ぶっていると斬夜が此処がバイト先だと言って、僕の名前を首を傾げながら言ってきた…あれ?
「えっと、あってるけど何で…(汗」
何で?覚えてない筈じゃ……
「あっ…悪ぃとは思ってたんだけどさ、ごめん…身元がわかんなくて勝手に手帳見た!ごめん!」
手帳…?
あぁっ!!あれか!
あちゃー…軍属だった時の……
多分、今は所属【罪人】になってるはずだしなぁ…
「いや、別に構わないけど…どうせ呼ぶなら陣夜にしてよ…蒼月なんて言われ慣れてないしさ」
僕が困ったような表情(実際は真顔なのが悔やまれる)をして言うと斬夜は申し訳なさそうな顔をして
「分かった、じゃあ陣夜って呼ばせてもらうな!」
そう言った
「ん、でもここに居ていいの?時間急いでるんじゃなかったっけ?」
僕が時計を指してそう言うと斬夜は[やっべぇ]という顔をした…
「急ぐぞ!!」
と思ったら僕の腕をいきなり掴んで飛んだ
いきなり店内だから僕は目を白黒させる
えっ?待って…待って!!?
今の何!?確か今のは《瞬間移動》よりも上の高位魔法!!
しかも最も難易度が高い魔法だから使える人がほとんどいない《空間歪曲》!!?
「君はどこまで規格外なの?」
ついつい口から本音が出たよ(汗)
でも、ただでさえ空間魔法は扱いが難しい上にまず空間属性を持ってる人が居なくて珍しいのに…
「…さぁな、俺が知るわけねぇよ……」
斬夜はそう言うと僕に人間界のお金を渡して店内に入っていった
「何か…癇に障ること、言ったかな…」
斬夜…僕が魔法界に帰ったあと、人間界では何があったんだろう……
~ 紅月 斬夜 ~
あ〜っ!!
悪いことしたなぁ…陣夜、怒ってねーかな……
「斬夜くん、どうしたの?悩みごとかい?」
いっけね!ボーッとしてた!!
「スミマセン、大丈夫です!」
「そうかい?ならいいんだけどねぇ…」
この店の店長である安曇 嶺さんは俺が小さい頃からお世話になってる人で母さんのお兄さん、つまり俺にとっては叔父にあたる人だ…
「なんですか?」
「いやぁ、ねぇ…?斬夜くんには苦労をかけてばっかりだと思ってねぇ…こんな叔父さんでゴメンね……」
安曇店長は自分の妹が精神を病んで入院しているのに、甥である俺に苦労をかけてばっかりだと思っているようだ
「いや、俺が好きでやってることなので気にしなくていいですよって毎回言ってるじゃないですか!」
俺はそう言って店長に笑顔を向ける
「そうだねぇ、叔父さんが少し神経質になりすぎてんのかねぇ…」
店長は遠い目をしながら考え込んでいる
…俺は母さんの魂を早く取り戻そうと強く思った
「店長、バイト」
「( ゜д゜)ハッ!忘れていたよ、斬夜くん今日は定休日だよ…w」
「えっ?じゃあ何で店長はここに?」
まさか定休日だったとは…(汗)
最近バイトを掛け持ちしすぎたから感覚が可笑しくなってんのかな?
「俺かい?俺はね、お食事だよ」
叔父さんがそういった瞬間、俺がよく知る者
【狂獣】になった…
「…ぁ…店長……?」
違う…コイツは…店長じゃない!!
「グギャッグギュルルルルッ」
「てめぇ!店長を喰ったな!!!」
俺が確信を持って狂獣に向かって言うと狂獣は気持ちの悪い笑みを浮かべて
「なゼ、ワかった?」
馬鹿なことを聞いてきた…
「何故?そんなの決まってるだろ…てめぇから店長の血の臭いがするからに決まってんだろうが!斬り裂け!!《塵風》!!」
《塵風》は空気中に漂う塵を使う力で触れるだけで体が斬り裂かれるものだ
「ウギャァァァァァァァッ」
狂獣は一際大きな声を出すと地に伏した
「…俺の家族に手を出すからですよ?愚かな獣」
なんですか?
俺が誰か、ですか…フフッ
知らぬが仏というものですよ?
ですが名前だけは教えてさしあげましょうか…
「俺の名は紅月 零夜と申します…蒼月 陣夜殿、では俺はこれにて…」
~ 蒼月 陣夜 ~
僕は今、とても困惑している…
僕は斬夜から貰ったお金で少し買い物をしたあと斬夜がいる店に向かった…
酷く…胸が騒いだから………
「無事でいてよ…斬夜っ」
でも僕がそこで見たのはバイトをする斬夜じゃなくて別の【何か】だった…
「…君は、誰なんだ」
声が震えた…初めて感じた、得体のしれない【何か】への恐怖……
僕がそれに耐えてると【何か】は言った
[俺が誰か、ですか…フフッ知らぬが仏というものですよ?]
頭の中に直接響く、【何か】の声…
「…っ君は!」
[ですが、名前だけは教えてさしあげましょう…]
名前?彼の名前は【紅月 斬夜】じゃないのか?
「俺の名は紅月 零夜と申します…蒼月 陣夜殿、では俺はこれにて…」
そう言い終わると斬夜の体が傾いた…
「斬夜っ…どういうことなの…?」
紅月 零夜…彼はいったい何者なの………