紅と蒼の月~夜を斬る者と守る者~
~ 蒼月 陣夜 ~
僕の名前は蒼月 陣夜
僕が生まれた場所は、魔法界と呼ばれる世界のテンペリオという都市、そこは王都と呼ばれかつての王つまりは初代のテンペストの称号を持つ魔法使いが治めていたんだそうだ…
今ではテンペストの称号を持つものは初代以外はいないらしいけど僕には関係ないし、今は代行でヘヴンの奴らが治めてるそうだ
「何で、僕は追われてるんだろうな…」
そう、僕はいま追われている
自分の祖国(祖界)の仲間だった魔法使いたちに…
何で?僕は信じてたのに……
何で誰も信じてくれないのー……
~ 紅月 斬夜 ~
俺の名前は紅月 斬夜
かなりお金に困ってる苦学生って奴だ
俺が生まれたのは日本の首都、東京
最初はなんの不便なく家族と生活してたんだ、でもある事件のせいで今の生活にジョブチェンジした
おかげで俺は毎日バイト三昧で友達もできない
母親とは別に暮らしていて俺がバイトで稼いだ金を母さんに仕送りしている…
「斬夜くーん、5番テーブルにオムライス!!」
「はーい!」
でもこんな生活に嫌気がささないのはひとえに俺が小さい頃から使えた《特殊能力》があるからそれを使ってバイトではあまり疲労はたまらない
「えっと、《指定移動》」
俺がそう言うとオムライスが入った皿は空中に浮き
5番テーブルに移動して注文したお客さんの目の前に置かれた
その一連の動作が終わった瞬間、周りから歓声が上がった
「やっぱり斬夜のその力はすげーなぁ!」
「さすが斬夜!!」
そんな声が上がってきて俺はいつも…
「そうですか?俺は大したことしてませんよ?」
俺がそう言うと必ずお客さんや店長たちは声を揃えて言うんだ
『大したことしてるからなっ!!?』
なぜ、そこまで食い気味なのか俺にはさっぱりわからない
「まぁ、面倒臭いんでそういう事にしときますか…」
『そうしとけ!!!』
お客さんも店長たちも仲いいなぁ…
俺は友達いないし、それに母さんの様子も見に行かないと…
友達を作る余裕なんて今の俺には…ある訳ないよな……
さて、今日の夜の予定は何かな…
~ 蒼月 陣夜 ~
「誰も、信じてくれないんだね…」
僕が諦めたように言うと周りは騒いだ
「お前が俺たちに信じられるような行為を何時したんだよ?」
「ばっかじゃねーの?」
「むしろ俺たちを信じてなかったのはお前だろ?」
何を言ってるのだろう…
傷の所為で意識が朦朧としていて良く聞こえない…
「何か、もうどうでもいいや……」
僕の後ろには人間界に転移するための《転移門》がある
僕は倒れる勢いに任せて《転移門》を起動させた
〈認証しました、蒼月 陣夜の転移を許可します〉
そんな無感情の音声が流れると同時に僕は転移した
人間界にある日本という国の首都に…
人間界では一人でいたくないな……
会えるだろうか…小さい頃あったっきりだけど僕のこと覚えているかな、あの無邪気な紅い子は………
~ 紅月 斬夜 ~
「はぁ…まだいる……」
俺が住んでる東京には人じゃない者がたくさん湧いている
まぁ、見分けられるのが俺しか居ないから他の人とも共存してるんだけど…
その共存ができない奴もいる…
俺はそいつらのことをこう呼んでいる
「グギャァァァァァァッ」
「切り裂け、《風鎌》」
【狂獣】と……
カッコつけたけど実際は俺の攻撃タイプの力を使うだけでそれ以外は特にない…
でも今日は、少しいつもより【狂獣】の数が多くないか?
…嫌な予感がするな
「取り敢えず、今日の狩りは終わったから帰るか…」
― 紅月の家 ―
「ただいまー…って誰もいねーよな…」
俺がそんな物思いに耽っていると部屋の奥から血の臭いがした、それに…濃い……
ここに来るまでに人を多く殺しているか…それとも……
これ以上のことは考えないでおこう…吐き気がしそうだ……
俺はこの臭いの正体がデイビーストなのかそれとも別の【何か】なのかを確認するためにゆっくり歩みを進める
「なっ!?人!!?」
俺が進んだ先にいたのは【狂獣】じゃなくて傷だらけの少年だった…
少しは驚いたけど俺はすぐに冷静になって考えた…
「見た所は俺と同い年ぐらいか?」
でもなんでコイツこんなに怪我してんだ?
さらに俺の嫌な予感は強くなる…
「それにこの服装…軍服?」
俺は悪いと思いながら少年の身元が分かるようなものを探していく
「?蒼月 陣夜、俺と同い年で高等科二年・所属【罪人】?」
分からない、罪人ってなんだ?
まぁ、そんなことより今はコイツの回復が先だな…
「《超回復》…これで命は何とかなったか?」
正直、あまり瀕死にならねぇから分からねーんだよな…(汗)
「外傷はもう治った、あとは飯だな…ちょっくら台所行くかな」
このまま放置は駄目か…俺のベッドに運ぶか……
「よっ…と、うわ軽い!?こいつなに食ってんだよ…」
あまりの軽さに驚いたが、あの傷じゃあ貧血だな…
鉄分を多く含んだほうれん草と小松菜使うか…
「さて寝てる奴のためにも腕によりをかけて作るかな!」
~ 蒼月 陣夜 ~
「ん…?ここは……」
僕は確か《転移門》を使って…
そっか僕、気絶したのか…
「全く、情けないなぁ…」
僕がそう1人で呟いていたら…
「何が情けないんだ?」
不思議そうな顔をした赤い目をした少年が目の前にいた…
「…え?君は……っ」
何で彼がここにいるの?
これは僕の見てる都合のいい夢?
何で…紅月 斬夜がいる……
「どうした?俺の顔になにかついてるか?」
僕が驚いたまま固まっていたら紅月が聞いてきた
「いや、何も…」
僕は上手く言葉に出来ずに俯いた
「そっか…まぁ取り敢えずコレ食え!お前まだ本調子じゃねーだろうしな、鉄分しっかり摂っとけよ…多分いますぐ立ったら立ち眩みするだろ」
そんな僕に紅月は、ほうれん草と小松菜が入っている
お粥を差し出した…
「何で、僕にそこまで優しくしてくれるの…?」
見たところ、僕のことを覚えてるってわけでもなさそうだし…
「何で、って言われてもなぁ…普通は自分の部屋に血塗れで倒れてる奴いたら手当てするか通報するかのどっちかだと俺は思うんだけど…(汗」
「それで君は手当ての方を選んだってこと?」
「まぁ、そういう事だ…」
昔みたいな無邪気さはないけど、お人好しなところは変わってないんだね……
「お人好しだね、君は……クスッ」
「おっ…笑ったな、その顔がお前には丁度いいんじゃねーの?」
僕、笑ってた?
自分じゃあ分からないな…でも丁度いい、か………
悪くないな………
~ 紅月 斬夜 ~
やっと笑ったな…コイツ……
何があったか俺にはさっぱりわからねーけど
「あと、それはさっさと食えよ…冷めたら意味ねーからな」
聞きてーことは腐るほどあるが、聞ける雰囲気でもねーしな
にしても、[何で優しくしてくれるの?]か…誰かに裏切られたとか
そんなところかな…あの怪我も裏切られて傷つけられたと言われたら辻褄も合うしな…
今は普通にして飯食ってるけど…
コイツが俺のことを知ってる風じゃなければ警戒されてたんだろうな…
「ご飯、美味しかった…ありがとう斬夜」
そう言って蒼月は笑った
…なんだ?今の違和感、俺は何時こいつに名前を教えたんだ?
俺はこいつの名前を身元が分かるものがないか見ていて手帳にあったから名前を知ってる、じゃあなんでコイツは俺の名前がわかったんだ?
ズキンッ
「クソッ…頭、痛てぇ」
俺が頭を抱えると蒼月は心配そうな顔をして俺の顔を覗き込む
「なぁ…お前、聞いてもいいか」
蒼月は不思議そうな顔をしていたが暫くして頷いた…
「一つ、何で俺の名前が分かった…」
「僕が魔法使いだからいくらでも知る手段はあるよ」
「二つ、なぜ俺の家に来た…」
「急いでたのに傷だらけの僕が転送先を指定できると思ってる?」
「そうか、じゃあ…最後の質問だ、【狂獣】のことは知ってるか」
「?何、それ…」
そうか、蒼月は【狂獣】じゃないのか…
分かってたけど…【狂獣】と同等の力を持ってたから警戒してたけど…関係なかったのか……
「知らないなら、それでいい…悪いな色々聞いて……」
「いや、別に構わないよ…助けてくれた借りが僕にはあるからね…」
「そう…か、眠い…もうこんな時間か、明日もバイトあるから俺寝るわ…」
まだまだ気になることは結構あるけど…
今は、どうでもいい…ただ蒼月が【狂獣】じゃないと分かっただけでも収穫だし……
俺は【狂獣】を許さない…
知性ある狂獣もただの狂獣もすべて殺してやる………
だってアイツらは俺の_____を殺したんだから………