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ローズ  作者: 紫藤なごみ
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閑話;始まり

平和、とはこのことをいうのだろうか。

今、世界はたった一人の王を戴き、たった一人の王の元統制されている。

以前のように大きな武力衝突というものもなく、時折起こる小さな反乱も、ものの数時間で簡単に鎮圧されてしまう。

たくさんの血と憎しみ、悲しみの上に成り立つこの一つの国。

もしかしたら意味を取り違えているかもしれないが、これまでと比べれば、やはり今は平和であると言えるのだろうと思う。

広く大きな城の中に一室設けられた自室の窓から外を見下ろして、彼女はそう思った。



最後に残った他国を滅ぼし、王族を皆処刑した後、この国の王は高らかに統一宣言をした。

すべての土地と民が同じ国の名を冠す。

すべての土地と民が唯一の王を戴く。


王は自国の名をそのままこの世界の名とし、他の滅ぼした国々の名を小さな郡の名として残した。

各地に自分に忠実な者たちを派遣して監視させたが、しかし権力は最低限しか与えなかった。

反乱分子が集まることを避けるため、あくまでも支配者は自分であると知らしめるため。

自分にもし万が一のことがあった時は王妃がその役割を代行すると、すでに宣布してあった。



王である彼は、事あるごとに同士でもある王妃に相談をし、また、国を運営する上での政治決定の場にも彼女を同席させ、意見を求めた。

といっても彼やたくさんの家臣たちのように政治的知識も考えもそれほど豊かではない彼女はほとんど彼らの話を聞いているだけだったのだけど、しかし国のために良くないと思うことははっきりと拒絶し、逆のことには徹底的に賛成票を投じた。

それだけが、自分の立場を一番有効に使えることだと知っているゆえ。

たったそれだけで、犯した罪が償えるとは思っていないけれども―。


今のこの世界が平和だと思えるのなら、何としても今の状態を維持していかなければならない。

これから生まれてくる子どもたちに戦火は見せたくないから。

子どもたちには、美しい笑顔溢れる世界を与えよう。


国を統一した時、彼女は王に直訴して奴隷制度を廃止させた。

すべての国民が等しい幸せを求める権利がある。

同時に憎み悲しむ権利をも有する資格がある。

彼女の居室はすでに城の地下にある牢屋ではなかったけれど、彼らの哀しみを多少なりとも理解しているつもりであるから。

血塗られた涙溢れる世界に住む彼らに、たった一つの光を。




フィリア・ローズ・セシリア王妃。


今、世界は彼女をこう呼ぶ。

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