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1 妄想の理想との出会い

 私は、か~るいお話が好きだ。

 ファンタジーも現代物も、いわゆるBLも、そうでないのも。か~るいお話なら大概いける口だ。

 それから、恋愛物ならBLの方が萌えるかもしれない。だって、本当に好きな人にしか反応しないとか、キュンとするじゃないか!

 でも最近、私は妄想していることがある。

 それは同性愛者のカレに「アンタなら(恋愛対象じゃない)異性でもイケる」とか言われて口説かれたい! ってことだ。

 逆に言えば「(異性では)アンタにしか……」って、なんかもう考えただけでキャーッ!! って叫び出したいほど萌えてしまう。イイわよね、自分だけ特別って! 私も誰かの特別になりたいっ!!

……と言っても、同性愛者のカレなんて知り合いにいないし、こんなシチュエーション、私には起こりえないわよねぇ、はぁ~~。

 どうにかしてゲイの人とお近づきになれないものか……と考えるけど、こんな片田舎じゃゲイバーなんてあるわけないし、その辺を「ゲイです!」って感じの人がホイホイ歩いてるわけもなく、そんな出会いは期待できないなぁと溜息が出る。

 だいたい、うちの辺りはケータイ圏外だ、絶妙な山の配置のせいで。しかも、牛の方が人間より多いかもしれない地域だ、ピンポイントで。どんだけ田舎か知れるってものだ。そんな田舎に出会いなんてあるわけないない。

 でも憧れるのよ。今すぐじゃなくていいから、ずーっと先、大人になってからでいいから、いつかきっと、ゲイなカレと出会って、お近づきになって……なんて。妄想だけは自由にしてもいいよね。



 ☆ ☆ ☆



 そんな中、高校2年になって、私は同じクラスになった男子の中に逸材を見つけた。

 女の子と見間違えるような可愛い顔に、つやつやとした黒髪はサラッサラ。身長は私より少し低いくらいで、華奢な印象はあるものの思ったより筋肉はついているみたい。……いや、身長に関しては、私の身長が女子にしてはちょっと高い方だから仕方ない。

 見た目だけじゃなくて、しぐさもそれっぽいのがイイ。床に落ちたものを拾うのに、膝を揃えてしゃがみ込むとか、女っぽい動きが見え隠れするのだ。男なら普通、膝を斜めに揃えてしゃがむとかしないでしょ! タイトスカートのお姉さんですかってしゃがみ方だよ、アレ!

 な、ななな、なんということだろう! 彼こそ理想かもしれない!!

 彼にくっついていれば、きっと同性愛者の方々が吸い寄せられるように現れて、その中の一人くらいは私と恋愛してくれるかも知れないじゃないか!!! と妄想した。

 妄想するくらい、いいじゃないか。私の見た目は彼には遠くおよばないけどさ。とりあえず、彼とはお友達になりたい。きっと同性感覚でオトモダチできる気がする。


 彼の名前は川津好朗(かわつよしあき)といった。

「川津くん、よろしくね」

 同じ清掃班になったので自己紹介しておく。私の名前が木原紗枝(きはらさえ)なので、名簿順の班分けに感謝するばかりである。

「よろしく、木原さん」

 いつも少し不機嫌そうにしてる顔が、挨拶の時ばかりはちょっと微笑んでくれて、そのギャップにキュンとなる。萌える!! ああぁぁあ、この見た目に引っかかる男子の1人や2人、いや30人くらい出てきそうじゃないかー!

 この清掃班をきっかけに仲良くなって、オトモダチとして末永く付き合っていけば、きっといつか私の妄想も現実になるかもしれない。そうよ! 彼の見た目に「男でもいい」とかいう男子が現れて、彼の恋愛相談にのって、それでそういう人たちの知り合いが増えて、そのうち私に向かって「アンタなら」なんて人が……と妄想はどんどん加速していく。まぁ、地味系な私には遠い世界の話だろうけど、夢だけは見てもいいよねぇ~。

 それに、何よりも川津くんが視界に入るだけで幸せな気持ちになる。彼を愛でるだけでも充分幸せだ。キミの表情を曇らせるものがあれば、このお姉さんが守ってあげるわ!


 クラス替えして最初のお弁当のとき、川津くんが料理好きと知った。なんと彼のお弁当は彼の手作りだったのだ。川津くんの友人が話しているのを聞いて思わずお弁当を覗きこめば、野菜多めの栄養バランスが考えられたヘルシーなお弁当がそこにあった。玉こんにゃくの煮っころがしは味がしみてて美味しそう!

「玉こんにゃくの煮っころがしが美味しそう! 煮付け方教えてー」

「……いいよ。そのほうれん草の海苔巻き、1つ味見させてくれるなら」

 その会話で意気投合した私たちは、料理談義に花を咲かせた。それからというもの、毎日お弁当は川津くんと一緒だ。おかずを交換して、味見をしあうのも日常茶飯事。

 おべんとうを食べながら、色んな話をする。川津くんはご家族全員分(ご両親とお姉さん2人分と自分)のお弁当を一手に担っているそうだ。私は自分と弟たちの3人分だけだから、川津くんは偉いなぁって思う。

 聞くところによると、川津くんは今は亡きお祖母さんからお料理を習ったそうで、私が作るグラタンとか人参のグラッセのような洋風のお料理はレパートリーにないからってレシピをせがまれた。私は私で、玉こんにゃくの煮っころがしに始まり、カボチャの上手な煮付け方とか煮魚のコツとか、川津くんが得意な和食のレシピを教わった。

 お祖母さんが亡くなるまでは川津家のお料理担当はお祖母さんだったから、お姉さんが4人もいる(そのうち2人は現在一人暮らし中)のに誰も料理できなくて、いつもお祖母さんのお手伝いしてた川津くんがお料理するようになったんだって。

 うちは牛をやってるから、朝早くから忙しい祖父母と両親のために、筋力のない私が朝の家のことを引き受けているだけ。夕飯は祖母と母が作ってくれるし。朝晩の食事にお弁当作りもしてる川津くんは、本当に偉いと思う。


 学校がない日曜日、作りおきのおかずを何種類か作ってタッパーに入れておくのが私の習慣。お弁当の隙間にちょこっと詰めるのにいいのよ。忙しい朝のお助けアイテムにもなるし。おかず作りをしたあと、余裕があればお菓子作りをする。弟たちに食べ尽くされなければ、月曜日に「お弁当のデザート」と称して持って行くこともある。

 その日はオーブントースターでも焼けるチョコレートブラウニーを作ったのだけど、翌日のお弁当のとき川津くんと一緒に食べようと思い立った。長方形に切ったブラウニーを何切れか、小ぶりなタッパーに詰めて弟たちに見つからないように隠しておいた。

 翌朝、無事だったブラウニーを自分のお弁当と一緒にして巾着に入れ、早くお弁当の時間にならないかなぁって朝からソワソワしていた。

 お弁当のとき「おすそ分け」って言ってチョコレートブラウニーを川津くんに食べてもらったら、すっごい喜んでくれて、また食べたいって言われた。お祖母さんの作ってくれた蒸しパンの味を思い出したんだって。「今度、部活の練習試合があるから、差し入れに持ってきてよ」なんて言われて、思わず心の中でガッツポーズをきめちゃったよ。


 そんなこんなで、1学期が終わる頃になると「女子はちょっと苦手」という川津くんも、私には屈託なく話をしてくれるようになった。

「紗枝ッチって変わってるよね」

 その頃には私と川津くんは「紗枝ッチ」「川っちゃん」と呼び合う仲になっていた。

 他の女子みたいにヨッシーって呼んでもいいかなって思ったけど、ヨッシーって言うと川っちゃんの眉間にシワが寄るのよね。

「えっ? そう??」

 自分は世間一般とは違ってるかも……とは薄々気がついてはいるけど、どこがどのように変わってるのか具体的にはよく分からないから、なんとも言えない。

「そうそう。普通は俺の見た目だと、女子なんか『可愛い~』って言ってゆるキャラかなんかかって感じの騒ぎっぷりだったり、『イメージ崩れる』とか言って俺の得意料理の玉こんにゃくの煮っころがしをバカにしたり。でも紗枝ッチはそういうのしないから、変わってるよなって」

 いや、私も川っちゃんは可愛いと思ってるよ? ただ心の中で思って口に出さないだけで。だって川っちゃん、他の女子が「可愛い~!」って騒いでるとすっごい無表情で苛ついてるの分かるし。川っちゃんの憂い顔は見たくないもん。私の中では川っちゃんはキレイで可愛い『お姫様』だから、いつも笑ってて欲しいし、清掃班の仕事も本当は『姫』にはやらせたくないくらいで、下々の者って感じの地味な私が率先して済ませたいと思ってしまうほどなんだ。

 あとね、川っちゃんを「可愛い」って言っていいのは、川っちゃんの恋人(ただし男子に限る)だけだと思うんだよね。これ、重要。

 川っちゃんには是非とも幸せになってもらいたい(BL的に)。

「ところで、そろそろ夏休みだけど、川っちゃん的に気になる人はいないの?」

 いるなら是非とも1学期中に告白してくっついてもらって夏休みにもっと親密になってもらうとか、じゃなきゃ、せめて夏休みにはその人を誘って海とかプールとかに出かけて、いい雰囲気に持って行ってもらうとか!

「ん~、いることは、いるけど……」

「けど……?」

「告白して気まずくなるより、このままの関係の方がいいかなぁって」

「……そうなんだ」

 あー、やっぱり男同士だと望みは薄いよねぇ、お話と違って。

 告白とかして拒否されたら、今まで通りの関係ではいられなくなるだろうし。うん、うん、分かるよ! その気持ち。

「そっかぁ。……いつか、川っちゃんの気持ちが通じるように祈ってるね!」

「う、うん。ありがと」

 川っちゃんは複雑そうな顔をして、苦笑いを浮かべた。……そっか、辛い恋なんだね。でも川っちゃんほどの外見があれば、きっと「男でもいい!」って人が現れるから大丈夫だよ、きっと。

「私は応援してるから! 大丈夫だよ、川っちゃん!」

 そう言ったら、川っちゃんはなぜかもっと複雑な表情になった。……なんでだろう?



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