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オズと私と4つのキスの魔法  作者: 夏田すいか
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新しい名前

 その夜、詩衣達は結局森を抜けることができず、たくさんの木が生い茂る森の中でも、一際大きな木の下で野宿することになった。


「うぅ~。こんなところで野宿なんて! それだけは絶対にいやだったのに。私、暗いの苦手なのよね」


 詩衣が周りをキョロキョロと心配げに見渡しながら、ブツブツとこんな風に文句を言う。


「ふん。まったく。根性がないな。少し暗いぐらいで、びーびー言うな。木で風が少しでも防げるだけましだと思え」


 ブリキがそんな詩衣に向かって悪態をつく。


「何よぉ~! いやなものは、いやなんだからしょうがないじゃない! あんたって本当に嫌味ね!」

「ふん! 正論を言ったまでだ。人間が逆上する時は事実を言われた時なんだぞ。ほら……」


 ブリキはまた皮肉を言い返しながらも斧で薪を切り、焚き火を起こしてくれた。


「……暖かい……。あんたにしては気が利くじゃない。あ、ありがと……」

「別にお前の為じゃない。火は獣避けになる。あのへたれライオンだけじゃ心許ないからな」

「もう! かわいくない! ライオンのことまで悪く言わなくてもいいじゃない!」


 そう詩衣は怒ったが、当の言われている本人は全然気にしていないようだ。


「ま、まぁまぁ。ぼ、僕が弱虫なのは本当のことだからね。ほ、ほら。そ、そんなに怒ってないで、ぼ、僕の側に寄って。す、少しでも暖かい方がいいでしょう?」


 そう詩衣にピタリと寄り添う。


「どうぞ」


 かかしも焚き火を避けつつ(体が藁なので火が怖いらしい)、どこからか持ってきた枯れ葉を毛布代わりに詩衣にかけてくれる。


「うわぁ~。あったかい! 二人ともありがとう! ライオン! かかし! ……てか! いつまでもかかしとか、ブリキとか、ライオンって呼ぶのってなんか他人行儀じゃない? あなた達、名前はないの?」


 詩衣が訊ねた。

 しかし、返ってきた返事は……


「あったような、なかったような……?」

「知らん」

「な、何かあった気がするんだけど……で、でも、ごめん。わ、忘れちゃった」


 という残念なもの。

 どうやら三人とも自分の名前が何だったのかをすっかり忘れてしまっているらしい。


「もう! 自分の名前を忘れちゃったなんて初めて聞くわ! 本当に思い出せないの? 何か全員エメラルドの都の地名でやたら反応してたけれど、その辺りにヒントはないの? てか、今まで気にしてなかったけどあなた達ってどこから来たの? 私と会った場所にず~っと住んでたの? 他にどこかに行ったことはないの? ねぇ! ねぇ!」

「「「…………」」」


 詩衣の矢継ぎ早な質問にみんな――いつも一言多すぎるブリキでさえも黙ってしまった。


「もう! それも思い出せないって言うの? ……よしっ! じゃあ、私が思い出すまでの仮のだけど、名前をつけてあげる。……まずはかかし! あなたは最初会った時に麦畑にいたから『麦』ね。次にブリキ! あなたは最初赤錆だらけだったけど、ピカピカに磨いたらきれいな銀色になったから『白銀』。最後にライオンはそのふわふわのたてがみが金色で、まるで太陽みたいだから『太陽』。なかなかいい名前だと思うけど、どうよ!」

「安易だな……」


 エヘンと胸を張る詩衣に、ブリキ改め白銀が言う。


「もう! あんたは文句ばっかり言って! 自分で考えないくせに! 呼んでほしい名前があるなら言ってみなさいよ! 例えばその泣きぼくろみたいな汚れからとって『ほくろ』とかさ!」

「……ふん。好きに呼んだらいい」


 詩衣の剣幕に珍しく白銀が折れた。

 『ほくろ』という呼び名がただ単にいやだっただけかもしれない……。

 白銀は文句を言ったが、かかしとライオン――麦と太陽は素直にうれしそうだった。


「麦ってとっても私に合っているみたいです! うれしいです!」

「ぼ、僕が太陽なんてかっこいい名前でいいのかな? う、うれしいよ」

「ふん!」


 白銀はまだ機嫌が悪そうだったが、何はともあれこうして三人の同意もあり、かかし、ブリキ、ライオンはそれぞれ『麦』、『白銀』、『太陽』と仮にだが呼ばれることとなった。

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