にぎやかな声
「さぁ~て。これからどうしよう? 意気込んで旅に出てきたのはいいけど、正直、私、一人旅とかしたことないのよね。一番長い旅で中二の時の修学旅行かな? 行ったのも定番の京都。先生の引率もちゃんとあって波瀾万丈とはほど遠かったしなぁ~。この場合どうしたらいいんだろ? やっぱりまずは装備を充実することから始めるのかな? ルルの話じゃ普通に歩いてエメラルドの都まで一週間くらいらしいけど、服はこのままで我慢するとしても、下着くらいは替えがほしいし、それに何より水と食料がなきゃ話にならないわ……どうしよう?」
ルルと別れて数十歩歩いた先の林で、さっそく詩衣は途方に暮れ、黄色いレンガの道へとしゃがみ込んだ。
――とんだ根性なしである。
「やっぱり、か弱い女の子に一人旅なんか無理だったのよ!」
さっきの決意はどこへやら、詩衣は恥も外聞も関係なく、地団太を踏みながら道の真ん中で大きな声でわめく。
「もうっ! ……あれ?」
詩衣は耳を澄ませた。
わいわいがやがやと、どこからか知らないが、詩衣の今の気持ちとは正反対に楽しそうに騒ぐ、賑やかな声が耳に入ったのだ。
「……近い?」
詩衣はその音のする方向へと駆け出す。
「あっ! 畑だ!」
林を抜けた先へは、豊かな田園風景が広がっていた。
きっとマンチキンと呼ばれる種族は農耕を得意としているのだろう。
その立派な田畑の数々を抜けると今度、詩衣の目の前に奇妙な建物の数々が見え始めた。
「これは……家……かしら? こんな形の家初めて見るわ。しかも、全部青いし。本当にここは私が住んでいた世界とは違う世界なのね……」
詩衣は立ち止まりその不思議な建物達をまじまじと見ながらそう呟いた。
詩衣の目の前に現れた建物達はどれも丸く、小さめで、屋根は大きなお椀をふせたみたいな形をしているのだ。
しかも、どの建物も端から端まで、たとえ郵便ポストだとしても、きっちりと目の覚めるような青色で塗られている。
そういえば詩衣を恐怖の渦に陥れた小さいおじさん達も同じような青い色の服と帽子を身に纏っていた。
きっと青はマンチキン達が好む色なのだろう。
「はぁ! はぁ! 声が大きくなってきたわ! きっと声がするのはあの家からね!」
詩衣の息が上がってきた頃、その奇妙な建物の中でも一際大きな物が目の前に現れた。
騒ぎ声はその建物からするらしい。
「すみませーん。誰かいますか……?」
詩衣はそう弱々しく断って、詩衣の予想ではたぶんマンチキン達の家と思われる物の敷地に一歩足を踏み入れた。
――そして、すぐに元来た道を引き返そうとする。
なぜなら、その家の庭の芝生の上では、大勢のマンチキンの男女達――つまり、 大勢の小さいおじさん、おばさん、お兄さん、お姉さん……(以下略)が楽しそうに踊っていたのだ。
詩衣を見るなり「勇者様だぁ~~~~!」と近寄ってくる。
――悪夢の再来だ。
「ひぃい!」
詩衣は後ずさり、力の限り元来た道へと駆け出そうとしたが……
「さぁ! どうぞ! どうぞ!」
問答無用で捕獲され、その詩衣から見れば奇怪な集まりに、無理矢理参加させられることとなった。