今夜見る夢は安らかか?
「すぐ目の前って言われたのに結局、今日中にエメラルドの都までは辿り着けなかったわね」
みんなで明々と燃える焚き火を囲みながら詩衣が言った。
「そうですね。でも、明日には着くことができると思いますよ。うっすらとですが、都の灯りと思えるものが見えてきています」
そう詩衣の言葉に答える麦はあいかわらず体に火が燃え移るのを恐れて、みんなとは少し離れたところに座っている。
「そう。良かった。麦が言うなら間違いないわね。それにしてもエメラルドの都の王様って西の魔女を完全に放置していたわけじゃなかったのね。マンチキンの旦那さんの話によるとこんな風に東西の悪い魔女達を好き勝手させるようになったのは、若い王様とやらに代わってからのことみたいじゃない。でも、そうだとしたら許せないわよね! だって、その王様が悪い魔女達を放置したせいでマンチキンやガラスの村の人達があんなに苦しめられたってことでしょう? そんなのその若い王様が全部悪いんじゃない! ねぇ? 太陽もそう思わない?」
「…………」
詩衣はそう同意の意を得ようとしたがしかし、太陽からの返事は返ってこない。
「……太陽? 大丈夫? 顔色……は毛でわからないけど、何か調子が悪そうよ」
「……そ、そんなことないよ……だ、大丈夫……」
そう答える太陽の声にはいつもの元気がない。
「太陽……? どうした……」
「さぁ! もうそろそろ寝た方がいいですよ。明日こそエメラルドの都に着くためには朝から一生懸命歩かなきゃいけませんからね」
詩衣の言葉を遮り、麦がぱんぱん! と手を強く叩いた。
「そうだ。お前なんてすぐ疲れたとか『バカ』な文句を言い始めるんだからな。寝不足で歩けないなんて『バカ』なことは言うなよ。『バカ』女」
その麦の提案に白銀も追随する。
「バカって言い過ぎて逆にあんたの方がバカそうよ!? ……でも、それもそうね。明日こそ絶対にエメラルドの都に着きたいから、早く寝ないとね。エメラルドの都が『人の形をした人ではない者』が住む場所だっていうのも気になるし……。トトおいで」
「わん! わん!」
麦と白銀の言葉に渋々ながらも納得した詩衣は、トトを呼び寄せた。
「ほら。太陽も早く寝よう。麦と白銀は見張りをよろしくね。それじゃあ、おやすみ」
そして、仲間達にそれぞれ声をかけると就寝の態勢に入る。
「明日はとうとうエメラルドの都に着くわ。私は本当に自分がやりたいことを見つけられるのかしら……」
詩衣はそう胸に抱き締めたトトに優しく頬擦りをすると静かに瞳を閉じた。




