黒の騎士
「えっ! 何こいつら!?」
外に出た詩衣達が見たのは真っ黒な馬にまたがり、これまた真っ黒な服を着た、全身黒ずくめの集団。
みんな不気味な黒いマントで全身を覆っており、顔が見えない。
その集団がガラスの村を手に持った剣でガシャガシャと激しい音を立てて砕いていたのだ。
「やめなさいよ!」
その荒々しい所業に、堪らず詩衣は怒鳴った。
「…………」
しかし、黒ずくめの集団は無言のまま破壊活動を続ける。
「やめなさいってば! きゃあ!」
黒ずくめの集団に詰め寄ろうとした詩衣に壊れた家の破片が降りそそぐ。
「あ、危ない! ド、ドロシー!」
そんな詩衣を太陽が自分の体で覆って守る。
「あ、ありがとう。太陽。大丈夫? ケガはない?」
「ぼ、僕は大丈夫。そ、それよりこいつらは一体何なの?」
「ドロシーさん。太陽さん。こいつらは西の魔女の軍勢です! 気をつけて! 何をしでかすかわからない相手ですよ!」
そんな太陽の疑問に足が遅いため、やっと二人に追いついた麦が答える。
「に、西の魔女!? 何でそんな危ない奴らがこんなところに! とにかくどうにかして止めないと!」
「きゃあ!」
詩衣がそう言った時、どこからか少女の悲鳴が聞こえた。
「エミリー!」
急いで声がした方を見てみると、エミリーが黒い騎士の一人に追いかけられていた。
エミリーは泣きながらも必死に逃げていたが、何せ歩幅が全く違う。
すぐに追いつかれてしまった。
「や、やだ……」
エミリーに追いついた黒い騎士は、震える彼女に向かって無感情な様子で刃を振り上げる。
「やめろ!」
エミリーの近くで斧で他の黒い騎士と対峙していた白銀が彼女のもとへと走った。
「やめてーー!」
詩衣も大声をあげながら全力で駆ける。
「うっ……あ……」
しかし、詩衣の叫びもむなしくエミリーは白銀の目の前で、残酷な黒い刃に貫かれた。
「エミリー!」
白銀は急いで体に亀裂が入り、今にも砕けてしまいそうなエミリーに駆け寄る。
「白銀お兄……ちゃ……」
「エミ……」
――白銀が自分に向かって伸ばされた小さな手を掴む前にエミリーは物言わぬただのガラスの塊となった。
「……な、何で……こんなことに……」
詩衣の手は悲しみと怒りでふるふると震える。
「許さない……。絶対に許さない!」
詩衣は拳をきつく握りしめてそう言いきった。
「ドロシー! だめだっ!」
太陽の制止を振り切り、詩衣は黒い騎士達に向かって駆け出す。
「ドロシーさん! 危ない!」
向かってきた彼女に黒い騎士の一人が刃を降り下ろそうとしたが、詩衣はそれをかわし、靴が導くまま大きく足を振り上げた。
「あんた達を絶対に絶対に許さないんだからっ!」
パーーーーッ!
彼女が足を高々と上げた瞬間、詩衣の靴からは目映い光が発せられる。
【グァアアアアアーーーー!】
その光を浴びて黒い騎士逹は一斉に気味の悪い声を上げて苦しみ始めた。
――そして、一瞬で塵になると、まるで最初から存在しなかったように空気中へと跡形もなく消える。
「……消えた……。……はっ! みんな大丈夫!?」
我に返った詩衣は慌てて周囲を見渡す。
「エミリー! エミリー!」
白銀が大きな穴が空いてしまったエミリーの体を激しく揺すっていた。
「白銀! エミリー!」
そんな二人に詩衣が駆け寄る。
「ねぇ! だいじょ……」
詩衣はそこで言葉を紡ぐのを止めた。
エミリーのあのキラキラとした瞳からは輝きが失われており、完全に呼吸を止めていたのだ。
「な、何でこんなことになるの? エミリーは何も悪くないのに……」
詩衣はそう呟いて、エミリーの体を揺すり続ける白銀の側に立ちすくむことしかできなかった。
「エミリー! エミ……」
「ああっ! ダメですよ! あんまり揺すっては!」
エミリーの体を揺すっていた白銀を村長が慌てて止める。
「これ以上壊れては治せなくなってしまいます!」
「えっ……。なお……るの……? エミリーは治るの!?」
村長の一言に詩衣は驚いて、声を荒らげた。
「はい。何せ私達はガラスなのでまたくっつけることが可能なのですよ。原型がなくなる程壊されてしまったらさすがに治すのは無理ですが、エミリーぐらいならまだ十分治療が可能です」
「……死んじゃったんじゃなかったんだ……。良かったぁ~」
詩衣は安心のあまりその場へとへなへなとしゃがみ込んだ。




