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オズと私と4つのキスの魔法  作者: 夏田すいか
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オズの国の成り立ち

「さぁさぁ。どうぞこちらへ。ここへ座って下さい」


 ――詩衣逹が案内されたのは町の中でも一番大きなきの……建物。


 室内にはきらびやかなガラス細工の数々が置かれていて電球の光を反射しながら、キラキラと輝いていた。


「すごーい。きれい!」


 そのきらびやかさに詩衣は思わず目を奪われる。


「ほら。皆の者。勇者様逹にお食事を」


 村長が次にそう言うと詩衣逹の目の前には、繊細な模様が彫ってある美しいガラスの皿に盛られた、肉やフルーツなどの物凄い量のご馳走が置かれた。


「うわぁ~! すごいご馳走!」


 そのずらりと並べられたおいしそうな料理の数々に詩衣は瞳を輝かす。


「どうぞ。お食べになって下さい」

「お腹が空いていたからうれしいわ! いただきまーす!」


 詩衣は村長の言葉に甘えて、喜んで目の前に出された料理へとかぶりつく。しかし……


「いたっ!」


 その料理を口に放り込んだ途端、詩衣はすぐさまそれを吐き出した。

 そして、口の中からだしたそれを恐る恐る指でつまみ上げる。


「……これもガラス」


 そう。その豪勢な料理でさえも村の家々や村長逹を構成するのと同じ、ガラスで作られていたのだ。


「あぶなかったぁ~」


 口に含んだ瞬間に急いで吐き出したので、舌の先を少し切っただけで済んだものの、もう少しで大怪我をするところだった。

 詩衣は心の底からほっとして胸をなで下ろす。


「どうしたんですか? 料理が口にあいませんでしたか……?」


 そんな詩衣に村長が心配そうに声をかける。

 どうやら彼らに悪意はなく、一〇〇パーセント善意で行われた行為のようだ。

 一瞬、姑の嫁いびりか何かかと思った詩衣はその疑念が晴れたことにほっとしながらも遠慮がちにこう言う。


「あ、あの……。……料理が口にあわないというわけでは決して、決してないのですが、私達体質的と言いますか、何と言いますか……ガラスを食べることはできないのです」

「そうなんですか!?」


 詩衣の発言に心底驚いたように村長が声をあげる。


「す、すみません! せっかく用意していただいたのに……。料理は本当に本当においしそうなんですよ? でも、どうしても食べられなくて……」

「いえいえ! 体質というのなら仕方ありません! それにしても、まさかガラスが食べられないとは! アレルギーみたいなものですかね? 残念です。こんなにおいしいのに」


 そう言いながら村長は皿に盛られたガラスのフルーツの一つを手に取り、口へと放り込んだ。

 ガリガリガリとガラスの割れる音が響き、村長の体内に彼が食べたフルーツの青い欠片が散らばる。


「丸見え……」


 詩衣はその奇怪な光景に椅子に座ったまま体を後ろへとずらす。


「では、お食事はどうしましょうか? と言ってもここにはガラスしかないのですが」


 口の中のフルーツを全て飲み込んでから、村長が改めて詩衣に訊ねた。


「ここへの道すがら、もいでおいた木の実がまだ残っていますから、それをみんなでわけて食べるので大丈夫です。ねっ? トト? 太陽?」


 彼女と同じように、料理を口に含んだ途端急いで吐き出していたトトと太陽に詩衣が言う。


「は、はぁ~。び、び、びっくりした。う、うん。き、木の実大好きだし、ぼ、僕はそれで十分だよ」

「わん! わん!」

「そうですか……。じゃあ、せめて出し物だけでも楽しんで下さい。さぁ。踊り子逹よ」


 その太陽達の発言を聞いて、村長は今度シャンシャンと軽く手を叩く。

 すると、髪や服の裾に青、黄、赤、紫色のガラスの粒をそれぞれたくさんつけたかわいらしい四人の幼い少女逹が詩衣逹の前に現れ、どこからかリズミカルな音楽が流れ始めた。


「これは……?」

「我が町に伝わる伝統舞踊です。ぜひ、ご堪能下さい。それでは、皆の者!」


 その村長のかけ声と共に少女逹は、流れていた音楽に合わせて踊り出した。

 最初はゆるやかに、そして、しだいに激しく――四人が動く度に頭や服についたガラスの粒はそれぞれの色を放って輝き、シャンシャンと心地よい音を鳴らす。


「きれい……。でも、随分激しい踊りですね? まるで四人が争っているような……」


 その光景に見とれながら、詩衣はそんな感想をもらした。


「さすが、勇者様。素晴らしい観察眼を持っていらっしゃる。この踊りはオズの国に古くから伝わる伝説を表した踊りなのです」


 その詩衣の感想を聞いて、村長はうれしそうにこう言った。


「伝説……?」

「はい。このオズの国が東西南北四つの国、そしてエメラルドの都で構成されているのは勇者様も知っていますよね?」

「はい。以前に教えてもらいましたけれど……」

「一つの国なのに、なぜ東西南北それぞれの地域を国というのか。それは昔、エメラルドの都を抜いた東西南北それぞれの地域が、四つの別々の国だったからに他なりません。だから、今も各地域の独立性が強く、国によって――私達のような例外もいますが――マンチキン・ウィンキー・カドリング・ギリキンとそれぞれに住む種族も異なっているのです。今、踊り子達が身に纏っている青、黄、赤、紫色のガラスは、東西南北の国の主導者――魔女達を表現しています。彼女達は今や共通して白い服を着ていますが、昔はこの四色の色の服をそれぞれ好んで着ていたそうです。その彼女達の服の色を真似て、東西南北のそれぞれの国の国色は青、黄、赤、紫の色になったのですよ」

「へぇ~。東の国の人達が執拗に青色に拘るのにはそんな理由があったのね」


 詩衣は村長の話に感心して言った。

 そんな話をしている間にも流れる音楽のスピードはどんどんと早まり、それに合わせて少女達の踊りも苛烈を極めていく。


「この踊りはオズの国の成り立ちを表した踊り……。今、彼女達が踊りで表現しているのは、先程勇者様が言った通り、四つの国が争っていた時代です」


 その少女達の踊りを見ながら、村長が言った。


「あぁ。やっぱり。だから、こんなに激しいのね。じゃあ、ばらばらでその上で争っていた国々がどうやって一つの国になったの?」

「まぁ。見ていて下さい」


 そう村長が意味深に言った時、流れていた音楽が急にピタリと止まった。

 そして、訪れた静寂と共に緑色のガラスの粒を髪や服につけた一際美しい少女が、シャナリシャナリと心地よい音を鳴らしながら、詩衣達の前へと優雅に現れる。


「うわぁ……」


 詩衣はそう声をもらした。

 それぐらいその緑の服を着た少女は容姿だけでなく、何気ない動作の一つ一つの全てが洗練されていて、同性のはずの詩衣の胸さえも激しく高鳴らせたのだ。

 詩衣がそんな風に見とれていると、その緑のガラスの粒をつけた少女が不意に両手を天へと向けて高々と上げた。

 その途端、青、黄、赤、紫色のガラスの粒をつけた少女達はさっきの音楽と同様、突然動くのを止める。


 ――一瞬まるで時が止まったかのような光景が広がった後、今度はゆったりとした明るい曲調の音楽が流れ始めた。

 その音楽に合わせ、少女達の踊りも先程までの激しいものから穏やかな調和のあるものへと変わっていく。


「緑色の服を着たあの子は……?」


 その光景を見ながら、詩衣が言った。


「彼女は『オズの魔法使い』です」

「オズの魔法使い……?」


 初めて聞く名前に詩衣は首をかしげる。


「今の王族の始祖に助力し、共に争いに明け暮れていた四つの国をまとめ上げ、その中心にエメラルドの都を作り上げたという伝説の魔法使いです。彼女が緑に輝くエメラルドのネックレスをいつも身につけていたため、都はエメラルドの都と呼ばれるようになり、都の色も緑と定められたそうですよ」

「伝説の魔法使い……ってそんな話初めて聞いたわ」


 まるでおとぎ話のようなオズの国の成り立ち方に詩衣は目を丸くする。


「今では知っている人はあまり多くないでしょうね。何せずっとずっと昔の話ですから。こうやって踊りなどでほそぼそと伝わっているのみです。でも、不思議なことに現在のように東西魔女の反乱のような国が荒れている状態になると、きっとまた彼女が現れて国の危機を救ってくれると言い出す者が必ずいるのですよ。まぁ、だからこそこの踊りは、勇者様が倒して下さった悪い東の魔女の支配時代は禁忌とされていて、このように表立って踊ることはできなかったのですけれどね。あの子達も皆様に見てもらうことができて喜んでいることでしょう。これも全て勇者様のおかげです」


 村長はそう言うと再度詩衣に向かって深々と頭を下げる。


「いえいえ! そんな! 私は何もしていないです! でも、と言うことは、私は今とても貴重なものを見ることができているのですね。うわぁ。それにしても、何て美しい踊りなの。キラキラと輝いてとってもきれい。音もすごく澄んでいるし……」


 詩衣逹が話している間に少女達の踊りは最高潮へと達し始めていた。


 青、黄、赤、紫、そして、緑のガラスの粒が放つ光がそれぞれ離れたり、重なりあったりを繰り返して、言い様のない幻想的な空間を作り上げており、そのぶつかり合う音は部屋の中に響き、それ自体が美しい音楽となる……。

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