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オズと私と4つのキスの魔法  作者: 夏田すいか
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勇気の意味

 ――一方、太陽とカリダは激しい睨み合いを繰り広げていた。


「ガウゥゥゥゥッーー!」


 いつもの太陽にはない鋭い気迫である。

 その迫力に気圧され、二頭のカリダは一歩、二歩と後ずさっていた。


 ――しかし、こちらは一人に対して、相手は二頭。

 しかも、大きさにもかなりの違いがある。


「ギャゥウーーッ!」


 その事に気がついたのか、カリダは急に後ずさりを止め、太陽に襲いかかってきた。


「うわっ!」


 しかし、体が小さい分、太陽の方がスピードは早い。

 襲いかかってきた爪をギリギリのところでかわす。

 一回、二回――たまにかすりながらも、太陽は決して後ろに下がろうとはしなかった。


「ぼ、僕だってライオンなんだ! に、逃げてたまるか! ど、ど、どんなに怖くたって絶対にま、負けないぞ!」


 しかし、そんな決意とは裏腹に、カリダの爪は容赦なく太陽に降りそそぐ。

 太陽がジリジリと後ろに後退する中、背後から麦の声が大きく響いた。


「金星さん! そのまま後ろに下がって! 橋を渡って下さい!」

「ぼ、僕は太陽! て、てか、まだ逃げてなかったの!? し、しかも、橋を渡ってって……そ、そんなことをしたらカリダ達までついてきちゃうよ!」

「いいんです! ちゃんと考えがありますから! 早く渡って!」

「も、もう! ど、どうなっても知らないよ!」


 太陽は躊躇いながらもカリダの隙を見て、後ろに大きく跳んだ。


「今だ! ゴールドさん! 橋を斧で切って!」

「だから! 白銀だつーの! お前、わざと言ってるんじゃないのか!?」


 文句を言いながらも、素早く白銀が橋へと斧を振り降ろす。


「ちっ……!」


 しかし、その一振りだけでは橋は傾くだけで落ちはしなかった。


「きゃあ! 白銀! どいて!」


 白銀を押し退け、詩衣が前へ出る。


「バカ女!?」

「足がまた勝手に動いているの!」


 どうやら太陽の鼻にかかしと落としをお見舞いした時のように自分の意思ではなく、足がひとりでに動き出したらしい。

 詩衣の足は大きく上がると、そのまま橋に向かって盛大なかかと落としを繰り出す。


 ギギギギギーーっ!


 その一撃が決め手となり丸太の橋は鈍い音をたて、急降下を始めた。


「ウギャァァァァァーーー!」


 いきなりの事に対応できなかった二頭のカリダ達は気味の悪い断末魔をあげながら、橋と一緒に底の見えない奈落へと真っ逆様に落ちていく――。


「太陽! 大丈夫!?」


 うずくまっている太陽に詩衣が駆け寄る。

 しかし、太陽は顔を上げない。


「太陽……?」

「ひ、ひぐっ……」


  ――太陽は泣いていた。


「ご、ごめんよ。ひ、ひぐっ。ぼ、僕がさっさと跳んでいたらこんなことにはならなかったのに……。ぼ、ほ、僕のせいで怖い思いをさせて……」


 太陽は謝罪をしながら、大粒の涙を流す。


「な、何言ってるの! あなたのおかげでみんな助かったんじゃない!」

「そうですよ! もし、あの時あなたに跳んでもらって崖を越えていたとしたら……そして、カリダと出会っていたとしたら……きっとあんな風に隙をついて倒すことはできなかったと思いますよ。カリダだって崖を跳び越えられたと思いますし。だから、本当にあの時に倒すしかなかったのですよ。月さんのお手柄です!」

「……そうだな。へたれのわりには良くやってたな。……てか、お前、よく人の名前をそう毎度、毎度間違えて言えるな。わざとか……?」

「はっはっは。そうでしたか? 私としたことが失敬。でも、そう言う白銀さんだってへたれとか言っちゃって! さっきはちゃんと太陽って呼んでいたのに」

「……余計なことを言うな。しかも、こんな時に限って間違えないし……」


 そんな二人の会話に微笑みながら、詩衣は太陽の金色のたてがみを優しくなでた。


「……今もこんなに震えるぐらいの泣き虫で臆病なのに、あんな怖いカリダに立ち向かうなんて……。へたれのくせに無茶するんだから。……怖かったでしょう?」


 すると太陽は何かの堰が切れたように更に流れる涙の量を増やし、詩衣に飛びついた。


「きゃあ!」


 詩衣がまた太陽の体重を支えきれず後ろに倒れる。

 しかし、太陽はどかない。

 そのまま詩衣にしがみついたまま、大粒の涙を流し続ける。


「……う、うん……! う、うん……! と、とっても怖かったぁ……! ……な、情けないや……! こ、こんなに震えて……! こ、こんなんじゃ、ド、ドロシーにかっこわるいって言われても仕方ないね……!」


 その太陽の台詞に、今までなすがままにされていた詩衣が、ハッと顔を歪める。


「……太陽……気にしていたんだ。ごめん……。かっこわるいなんか言って……。悪気はなくて……」


 太陽は首を大きく横に振る。


「う、ううん! ぼ、僕が悪いんだ! ぼ、ぼ、僕が弱虫だから!」

「……でも、あなたはあんな怖いカリダへと立ち向かっていったじゃない……」


 泣きじゃくる太陽に詩衣がポツリと言った。


「だ、だって……ド、ドロシー逹がカリダに食べられちゃう方がもっともっと怖かったから……! だ、だから……!」

「……バカね……」


 そんな太陽を詩衣は上半身を少し起こしながら、ぎゅっと抱き締めた。


「あなた、どんだけお人好しなのよ。自分の危険より他人のピンチの方が怖いなんて。変わってるわ。……ねぇ、太陽。太陽みたいなそんな弱虫が頑張るから、『勇気』って言葉があるんだよ。そんな泣き虫が頑張るからこそ『かっこいい』んだよ。……すっご~く、すっご~くかっこよかったよ。太陽……」


 太陽のふわふわの毛皮に温かい水滴が落ちる。


「……ドロシー……」


 いつの間にか詩衣にも太陽の泣き虫がうつっていた。

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