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オズと私と4つのキスの魔法  作者: 夏田すいか
1/59

女子中学生INオズの国

「こんな世界なんていらない……」


 『堂炉詩衣』は左右の三つ編みを揺らし、一度だけ悲しげに後ろを振り返ると、そのまま晴れ渡る大空へと身を投げた……。





「やったぁ~! 悪い魔女が倒れたぞ!」


 ――ドスの利いた低い、ヤクザのような声で詩衣は目を覚ました。


「いたた……。ここは……?」


 そこまで言ったところで、詩衣は自分が世を儚んでビルの屋上から飛び降りたことを思い出す。


「ここは……天国?」


 見ると辺りは一面の花畑。

 詩衣が図鑑でも見たこともないような花々が、色とりどりに咲き乱れている。

 これが天国だよと言われてこの風景を撮った写真でも見せられたら、どんな怪しげな奴にそう言われたって、間違いなく信じてしまうだろう。


「きれい……」


 詩衣は身体の痛みも忘れ、思わず周囲の景色に見とれた。


「ん……?」


 すると、視界の端に見える黒い影……。


「何!?」


 詩衣は慌てて目のピントをその妙な物体へと合わせた。


「……ち、小さいおじさん!?」


 そう。そこにいたのは座り込んでいる詩衣より少し大きいくらいのサイズの小さなおじさん。

 七歳くらいの子供と同じ身長をしているのだが、だからといって、どう見ても子供ではない。

 なぜなら、彼らの顔は全員四十歳から五十歳ぐらいのおじさんの顔をしていたのだ。

 そのおじさん達が「やったー! やったー! ありがとう!」と酒やけをしたようながらがら声ではしゃぎながら詩衣に近づいてくる。

 正直……大変怖い光景だ。


「な、何? 何なのよ!?」


 もちろん、詩衣には何が理由で感謝されているのか全く心当たりがないので、慌てて後ずさりをしようとした。


「ありがとー! ありがとー!」


 しかし、そんな詩衣の怯えた様子には気づかず、おじさん達は更に歩を進め、詩衣に近づいてくる。


「い、いやぁ……!」


 詩衣はあまりの恐怖に悲鳴を口から漏らした。すると……


「あんた達! いい加減にしなさいよ! 怖がっているじゃない!」


 少し気の強そうな女の子の声が、そのおじさん達の動きを制す。

 助かった……! と思い、詩衣は頭を上げる。


「大丈夫。安心して。この子達、悪い子ではないから。ただあなたに感謝をしたくて集まってきただけなの。怖がらせたならごめんなさいね」


 優しげな語り口――その声の主はその暖かな声のイメージに違わない、淡い紫色の長い美しい髪と瞳を持つ、かわいらしい女の子だった。


「ん……?」


 しかし、その少女には数ヶ所どうしても通常の人間とは異なる箇所があった……(髪と瞳の色も普通に考えればありえない色なのだが、そこまで思考が及ばないくらい詩衣は混乱していた)。

 それは――その少女が、おじさん達よりも更に更に小さく、詩衣の靴のサイズぐらいの大きさしかなかったのだ。

 しかも、背中にはトンボのような薄い、透明な羽が生えており、それを光に反射させて虹色に輝かせながら、パタパタと空を自由に飛んでいる。


「きれい……。って! よ、妖精……!?」


 詩衣は一瞬その羽に見とれた後、頭に浮かんだ架空の生物の名前を言ってみた。

 しかし、それははずれていたようだ。

 少女は不服そうに、真っ白なふわふわとした服をはためかせながら口をとがらす。


「……私をそんな性悪な者逹と一緒にしないで! 私は『北の魔女』の『ルル』。『ギリキン』達が住む『北の国』を治めているの。ここは『東の国』。『マンチキン』達が住んでいるわ。私はここを治めていた、悪い『東の魔女』が倒されたって聞いて、やってきたのだけど。……ちゃんと私の話聞いてる?」


 ルルが訝しげにそう言いながら、詩衣の顔をのぞく。

 ――詩衣はあまりにファンタジーなルルの話についていけず、すっかり呆けてしまっていたのだ。


「……ま、魔女って? 冗談……よね? てか、ギリキンとかマンチキンとか意味が全然わからないんだけれど! それにその東の魔女とかいうのが倒されたのと、私が感謝されてるっていうのも全くつながらないと思うし! もう! わけがわからない!」


 詩衣が混乱のあまり叫ぶ。

 すると、ルルはきょとんとした様子で言った。


「わからないって……あなた! 『文明国』の人なのね! なら、この国の構図がわからないのも理解できるわ。初めての人にいきなりここがどこだか理解するのは難しいだろうし、混乱するのも仕方がないわ。でも、感謝される理由がわからないっていうのは変ね」

「えっ!?」

「だって、あなたが東の魔女を倒してくれたんじゃない」

「えぇ~!?」


 そう言われたって詩衣には全く覚えがない。


「ねぇ? 誰かと間違えているんじゃない? 言っとくけど、私は見た目の通りか弱い、普通の女子中学生よ。部活も帰宅部で入ってないし。正直、運動とは無縁で、格闘技なんか全然。やったこともないわ。そんな私に誰かを倒すことなんて、不可能だと思うんだけれど……」


 ここまで詩衣に必死に説明されても、ルルは全く慌てる様子はない。

 むしろ、呆れるような、からかうような笑顔を浮かべて言った。


「いいえ。確かにあなたよ。あなたが倒してくれたんだわ。ほら! あなたの下を見て! あなたの『おしり』が魔女を押しつぶしてくれたのよ!」

「えぇ~~!?」


 詩衣は急いで自分のおしりの下を見た。

 すると、詩衣の着ているセーラ服の青色のスカートの端からは、真っ赤な色をした靴を履いている、少し太めな足が二本、にゅきっとはみ出していたのだ。


「えっ! えぇ~!?」


 よくよく考えれば、足元に感じている感触も地面のものではない。

何か、でこぼこしていて不安定で、その上で柔らかいものの上に詩衣は座っていたのだ。


「きゃっ! す、すみません!」


 詩衣は急いで、腰を上げた。詩衣の下敷きになっていたのは……


「小さなおばさん!?」


 そう。マンチキンと呼ばれるおじさん達と同じくらいの大きさの化粧の濃いおばさんが、詩衣の身体の下で目を回していたのだ。


「えっ! えぇ~!? す、すみません! 大丈夫ですか? わ、私気がつかなくて! 大丈夫ですか!?」


 詩衣が頬をパチパチと叩くが、そのおばさんはピクリともしない。


「どうしよ~う!」


 途方に暮れる詩衣にルルはそっけなく言う。


「ほっときなさいよ! そんな厚化粧女! そいつは魔法でマンチキン達を従わせ、長い間奴隷として働かせていたのよ! その罪を考えたら自業自得よ! 軽いぐらいだわ! まったくいい気味!」

「でも……」


 まだ気にしている詩衣にルルは言う。


「いいの! いいの! 気にしないで! それより勇者の、あなたの名前を教えて!」

「えっ……勇者って……。私はそんな大層な者じゃないわ。名前は……堂炉詩衣……。十五歳。どこにでもいる普通の中学三年生よ」


 しかし、ルルは何を聞き間違えたのかこう問い返す。


「『ドロシー』? ドロシーっていうの? 良い名前ね。気に入ったわ」

「ドロシーじゃなくて『どうろしい』なんだけど……」


 詩衣が静かに抗議をするが、ルルには伝わらない。


「ん? だからドロシーでしょ? 良い名前じゃない?」

「……もう……いいです……」


 詩衣は訂正することを諦めた。

 そんな詩衣にルルはかわいらしく小首をかしげながら言う。


「……? まぁいいわ! ドロシー! とにかくあなたは私達の恩人よ! お礼をしたいから、何でも言ってちょうだい! 私にできることなら何でも叶えてあげる!」

「……お礼? そんなのいらないわ! 狙ってやったわけじゃないし。第一、気づいたらここにいただけで……」

「でも、結果として恩人は恩人よ! 何でも言ってちょうだい!」


 お礼を丁寧に辞退する詩衣に、ルルは更に食い下がる。

 そんなルルの迫力に詩衣は一歩下がりながら、少し声のトーンを落として言った。


「……それに私……自殺するつもりだったし……。ここにも死ぬつもりでビルの屋上から飛び降りて……気づいたらいて……。……だから……本当にして欲しいこととかはないの……。ただ私は死にたい……だけ……」

「…………」


 完璧な沈黙が訪れた。

 さっきまでギャーギャー騒いでいた小さいおじさん――マンチキン達も黙ってこちらを見つめている。


「……わかったわ!」


 ルルが意を決したように言った。


「なら、私が殺してあげる。恩人を殺すなんて忍びないけれど……それが望みなら仕方がないわ。びるとかよくわからないけれど、とにかく転落死がお望みなのよね? それじゃあ……」


 そう言ってルルがパチリ! と指を弾くと、何と! 衣の身体が急に宙へと浮き始めた!


「きゃああああああぁ~~!」


 詩衣はいきなりのことに何も抵抗できず、悲鳴をあげることしかできない。


「このぐらいの高さがあれば十分ね! それじゃあ、もう言い残すことはないわね! いくわよ!」

「まっ……!」


 そんな詩衣の返事を待たぬままルルがまた指を弾くと、今度、 詩衣の身体は勢いよく急降下を始めた。

 すごいスピードだ。

 このまま地面に衝突すれば間違いなく死ねるだろう。


「きゃあああああぁ~! ま、待って! ちょっと待って!」


 詩衣は堪らず叫んでいた。


「えっ? 何? 何なのよ? よく聞こえない」

「ま、待って!!!!」

「えっ? ……『待って』? わかったわ」


 詩衣がもう一度そう叫ぶと、ルルは詩衣の言葉を聞き返しながらも、パチリ! と指を鳴らす。

 すると、地面に当たるすれすれのところで詩衣の身体はピタッと落ちるのを止め、そして、そのままゆっくりと地面へと降ろされた。

 詩衣は息をゼェゼェときらせながら、改めてもう一度叫んだ。


「ま、待って! ちょっと待って!」


 ルルは不思議そうに小首をかしげる。


「待ってってあなた死にたいんじゃないの? それとも転落死がいやだった? 出血死とか病死とかがお望みならそれはそれでできるわよ。どれがいい? 恩人なんだもん。遠慮しなくていいわよ!」


 ……かわいい顔で恐ろしい事を言う……。


 ぞっ……! 詩衣は背後に冷たい汗が流れるのがわかった。


「いい! いいわ! もう結構! ちゃんと自分で死ねるから! ルルさんのお手を煩わせなくても大丈夫! それに今は自殺に失敗したばかりだから、次を挑戦するにはもう少し時間が必要で……だから、いいわ! ありがとう!」


 そう言いながら詩衣はルルとの距離をとろうと、一歩後ずさった。


「いたっ!」


 詩衣がその場にうずくまる。

 何か尖った木の枝のような物を踏んでしまったのだ。

 ――詩衣は裸足だった。


「大丈夫?」


 ルルが気遣わし気に近寄ってきた。

 詩衣はそんなルルに身構えながらもこう答える。


「大丈夫。ちょっと木の枝を踏んじゃっただけ。飛び降りる時に屋上に靴と靴下を置いてきちゃったのよね。だから、地肌に直接刺さっちゃって……」

「それなら、ちょうどいいのがあるわ!」


 ルルがパッと顔を輝かせて指さすのは東の魔女が履いている赤い靴……。


「そ、そんなのいただけないわ!」


 すぐにそれを詩衣は大きく首を横に振って断る。


「いいの! いいの! 気にしないで! きっとあなたに似合うと思うわ!」

「似合うとか似合わないとか関係ないんだけど……」


 そんな詩衣のぼやきは気にせず、ルルはマンチキン達に命令して、東の魔女からその赤い靴を脱がせにかかった。


「……おもっ! さ、さぁ履いて! 遠慮しないで!」


 そう言いながらルルは、詩衣にその東の魔女から脱がせた靴を、靴の重さでふらつきつつ手渡す。


「いや……遠慮なんか……てか、小さいと思うし……。……わかりました……」


 詩衣の抗議は完全にルルに黙殺されたので、詩衣は半強制的にその赤い靴を履かせられることとなった。

 恐る恐る靴に足をいれる。すると……


「……あれ!? きつくない! 絶対に私の足のサイズより小さいと思ったのに! ぴったり! 学校の制服に赤いピンヒールっていうのがどうかとは思うけど……でも、履き心地はとってもいいわ!」


 詩衣がそう驚くと、ルルは偉そうにふんぞり返りながら言った。


「あたりまえよ! それは『魔法の靴』だもの! 持ち主に合わせて、その大きさを自由に変えるわ。良かったわね。とてもよく似合ってる。その靴には強大な魔力が秘められているの。きっとあなたの役に立つと思うわ。……というか、その靴の魔力と『魔女の掟』のせいで、この女の好き勝手にさせることになったんだけどね。その二つがなければこんな奴! さっさと懲らしめてやったのに!」


 ルルはそう言ってその小さな足で東の魔女を踏みつけた。


 ……怖い。


 唖然として見守っているとルルが急に振り向き、詩衣に問いかけてきた。


「それでドロシー。あなた、死ぬこともできないなら他に何がしたいの? さっきは東の魔女のことで話が途中で流れてしまったけれど、空から降ってきたってことはあなた『文明国』の人ってことで間違いないのよね?」

「ぶ、ぶんめいこく……?」


 詩衣がその聞き慣れない単語を聞き返す。


「そう。文明国。あなた達が住んでいる世界を私達はそう呼ぶの。ここは『オズの国』。あなた達の国とは違う次元に存在する国よ」

「オズの国? そ、それに次元が違うって!?」

「慌てるのも無理ないわ」


 声を荒らげる詩衣に反して、ルルの態度は落ち着いている。


「本当にたまにだけどあなたみたいな人がいるのよ。なんだっけ? びる? よくわからないけど、とにかくあなた高い所から落ちたのよね。私も原理はよく知らないんだけど、そういう強い衝撃があるとほんとぉ~に時たま、その衝撃で空間を突き抜けちゃう人が出てくるらしいのよ。まぁ、良かったじゃない? 助かって! それともやっぱり良くなかった? あなた、死にたかったんだっけ?」


 ルルは無邪気な様子でデリケートな問題にズケズケと突っ込んでくる。


「…………」


 詩衣は答えなかった。

しかし、ルルにはそんなことどうでも良いようだ。


「とにかく! 何がしたい? 北の魔女のルル様としては、あなたがたとえ拒否したとしても、その名にかけてお礼をする気満々なんだけど。文明国に帰りたい? それなら『策』を授けてあげるし、帰りたくないならそれでもいいわ。この東の国でマンチキン達と住むのもいいし、私と一緒に北の国に来てもいいわ。どちらにしても衣食住はちゃんと保証するから。なんたってあなたは恩人なんですもの! みんな喜んで歓迎するわ!」と明るく言う。


「……やりたいこと」


 詩衣は改めてその言葉の意味について考えてみた。

 正直、詩衣にはやりたいことなんか一つもない。

 死にたいとは思っているが、もう一度自殺する勇気もさっきのルルの急降下のせいで一気に冷えてなくなってしまった。


 やりたいこともないのに、死ねもしない私……。

 意気地なしで、つまらない私……。


「なら、歩きなさいよ!」


 いつまでも答えない詩衣にルルが怒鳴った。


「歩く……?」

「そう歩くの!」


 聞き返す詩衣にルルが再度言う。


「やりたいことがなくったっていいじゃない! 自殺するのも個人の自由! でもね、止まったままでいるのはいけないの! だって、止まったままでいたら、本当にやりたいこともわからないじゃない! 死にたいのに今は死ねない? なら、もっと進めば本当にあなたが望んだ形で死ねるかもしれないじゃない? それに、もしかしたら今までに出会ったことのないような素敵な人や出来事に出会って、また生き直そうって思えるかもしれない! でも、止まったままでいたらどちらも無理。あなたは今まで通りの中途半端のままよ。まずは何事も一歩を踏み出すことが肝心よ! 歩きださなきゃ何も始まらない! そうだ! 『エメラルドの都』なんてどう? この東・西・南・北の四つの国からなるオズの国の中心、緑に輝く聖なる都よ! あそこに行けば何でも手に入れられるって言われているわ! そこに行けばあなたのやりたいこともきっと見つかるはずよ! ねっ! 私も協力するからさ!」

「エ、エメラルドの都……?」


 詩衣がおずおずと聞き返す。


「そう。エメラルドの都。さっきも言ったようにここオズの国は東西南北の四つの国から構成されていて、それぞれ『マンチキン』、『ウィンキー』、『カドリング』、『ギリキン』達が住んでいるの。まぁ、細かく言えば他にも色々な種族がそれぞれに小さな村を作って各国に住んでいたりもするのだけれど、おおざっぱに言えばそんな感じ。それぞれの国には私やあなたがおしりで踏みつぶしたあの女みたいな魔女達が住んでいて、それぞれがそれぞれで、その国を治めているの。東と西は『悪い』魔女達が。北と南は『良い』魔女達が治めているわ」

「良いとか悪いとかまであるの!?」

「うん。もちろん私は北の魔女だから良い魔女ね。あなたがもしエメラルドの都に行くつもりなら気をつけなさいよ! あなたはあの東の魔女を倒したんだから、きっと西の魔女に狙われるわ。あいつはここに転がってるこの女とは比べ物にならないくらい凶悪で、強力なんだから。私でも勝てるかどうか……」


 出会ってからずっと強気なルルにしては似つかわしくない弱気な発言である。

 それだけその魔女が凄まじい力を有しているということだろう。


「そ、それってまずいじゃない!? そんな危険な旅をよく私に勧められるわね! それって命の危険があるってことでしょ? それともあなたがついてきてくれて私を守ってくれるわけ?」


 詩衣が正当な抗議をする。


「それは無理ねぇ~」


 しかし、ルルはそんな詩衣の提案をあっさりと拒否した。

 しかも、何かむかつく言い方だ。

 ムッとしている詩衣を無視して、ルルはそのまま話を続ける。


「だって、私が管理しているのは北の国だもの。エメラルドの都は関係ないわ。恩人の世話はちゃんとしたいけど、さすがにそこまでは無理ね。今、東の国も混乱しているから、その後始末もしなきゃならないし。それどころじゃないの。ごめんね。でも、あなた死にたがっているのだから別に危険でもいいじゃない? 案外西の魔女の手に掛かれば勇気なんか必要なく、問答無用でポックリ逝けてお手軽かもよ? まぁ、あなたが臆病風に吹かれて無理! って言うならそれでもいいけどね。私の提案はあくまで提案で、強制ではないのだもの。こっちは全然、ここで一緒に住んでくれてかまわないんだし。ねぇ? みんな?」

「そーだよ!」

「そんな危ない旅になんか出ないで私達と一緒に暮らそうよ!」

「あなたは一生の恩人なんだから!」

「精一杯歓迎するよ!」


 そうルルが同意を求めると、今まで黙っていた小さいおじさん達が一斉に騒ぎだした。


「ひっ……!」


 詩衣にとっては大変恐ろしい申し出である。


「いい! 結構です! 大変ありがたい申し出なのですが……でも、結構です!!」


 そう首をぶんぶん横に振って必死に断った。

 そこでルルがすかさず言う。


「あら残念。せっかく歓迎しているのに。死ぬのもいや。ここに住むのもいや。そうなったらもう旅に出るしかないわよね……?」

「……はい」


 詩衣はおとなしくうなずくしかなかった……。


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